著者
飯島 慈裕 門田 勤 大畑 哲夫
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2007年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.108, 2007 (Released:2007-04-29)

I.はじめに モンゴル北部は,北(森林)から南(草原)に植生が漸移する北方林の南限地域である.また,その山岳地域では,南向き斜面に草原,北向き斜面に森林が差別的に分布している.この特徴的な植物分布に対応して,森林斜面には地下に永久凍土が分布する一方,草原斜面には永久凍土が認められず,その結果,南北斜面で蒸発散・流出特性が異なる可能性など,水文気候環境の違いが示唆されている. 本研究では,この特徴的な植生景観を示す地域での水循環過程を解明する一環として,北向き森林斜面と南向き草原斜面を対象に,森林の樹液流測定と,草原・林床での総合気象観測から蒸発散量の推定を行なった.また,それぞれの斜面について,蒸発散量の季節変化と水文気象条件,ならびに植物生長・フェノロジーとの対応関係を検討した. II.研究地域と観測方法 本研究の観測地点は,モンゴル国の首都ウランバートルの東北東約50kmに位置する,Tuul川上流のShijir川流域内の南北斜面である.観測サイトは,南向き草原斜面(標高1,670m)と,北向き森林斜面 (カラマツ(Larix sibirica Ledeb)が優占;標高1,640m)である. 草原斜面では,総合気象観測データから熱収支計算(bulk法)によって蒸発散量を推定した.また,20cm深までの土壌水分量・降水量を観測した.草の生長は,入力・反射光合成有効放射量の比を緑被の指標として用い,超音波積雪深計の出力を夏季の草丈に変換した. 森林斜面では,林床での総合気象観測データから同様に蒸発散量を推定した.また,Granier法による樹液流測定(カラマツ12個体)を行い,50x50mの樹木調査結果から辺材面積の合計を推定し,平均樹液流速と総辺材面積の積によって樹木からの蒸散量を推定した.これらの和を森林からの蒸発散量とした.同時に,カラマツ4個体に対し,デンドロメータで直径方向の幹生長量測定を行なった.林床での長波放射量の比を樹木の展葉・落葉の指標とした. III.結果 図1に2006年の草原・森林斜面での蒸発散量と水文気候条件,植物生長の季節変化を示す.4~9月の降水量は227mmであり,5~8月は断続的に降水があった.土壌水分量はどちらの斜面も4月下旬の消雪から6月中旬まで高い状態が続き,8月中旬から9月下旬にかけて降水量の減少に対応して乾燥が進行した. 植物生長の季節変化は草原・森林斜面で違いがみられた.草原では5月上旬から展葉が始まり,7月初めに緑被が最大となった.草丈の生長は6月中旬から7月上旬までの短期間で急速に進んだ.草の枯れ(草丈の減少)は8月上旬から始まった.一方,森林では,5月中旬からカラマツの展葉が開始し,6月下旬には展葉が終了した.展葉の終了時期から幹生長が進行し,一貫した生長が8月上旬まで継続した.カラマツの落葉は8月下旬から現われ始めた. 草原での蒸発散量は展葉と共に増加し,生育最盛期(7月)に4mm day-1を越す期間が継続した.蒸発散量の可能蒸発量に対する割合は,7月に約80%であった.森林からの蒸発散量は草原に比べて春の増加時期がやや遅れ,量も約半分(最大2mm day-1)であった.カラマツの生育最盛期(7月~8月中旬)には,林床からの蒸発散は57%,樹木からの蒸散は43%であった.枯れや紅葉・落葉に伴う蒸発散量の減少は草原で8月中旬以降急速に進むのに対して,森林では緩やかに減少する違いがみられた. 以上から,森林-草原斜面の蒸発散量変動は,植物活動の季節変化と降水量,土壌水分量変動とよく対応していた.森林からの蒸発散量は草原に比べて半分程度であり,森林草原の南北斜面は蒸発散量の差を通じて水収支も大きく異なっていると考えられる.
著者
岩田 修二 上田 豊 大畑 哲夫
出版者
名古屋大学
雑誌
名古屋大学加速器質量分析計業績報告書
巻号頁・発行日
vol.4, pp.27-35, 1993-03

タンデトロン加速器質量分析計業境報告 Summaries of Researches Using AMS
著者
上田 豊 中尾 正義 ADHIKARY S.P 大畑 哲夫 藤井 理行 飯田 肇 章 新平 山田 知充 BAJRACHARYA オー アール 姚 檀棟 蒲 建辰 知北 和久 POKHREL A.P. 樋口 敬二 上野 健一 青木 輝夫 窪田 順平 幸島 司郎 末田 達彦 瀬古 勝基 増澤 敏行 中尾 正義 ZHANG Xinping BAJRACHARYA オー.アール SHANKAR K. BAJRACHARYA オー 伏見 碩二 岩田 修二
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1.自動観測装置の設置と維持予備調査の結果に基づき、平成6年度にヒマラヤ南面と北面に各々2カ所設置したが、各地域におけるプロセス研究が終了し、最終的には南面のクンブ地域と北面のタングラ地域で長期モニタリング態勢を維持している装置はおおむね良好に稼働し、近年の地球温暖化の影響が観測点の乏しいヒマラヤ高所にいかに現れるかの貴重なデータが得られている。2.氷河変動の実態観測1970年代に観測した氷河を測量し、ヒマラヤ南面では顕著な氷河縮小が観測された。その西部のヒドン・バレーのリカサンバ氷河では過去20年に約200mの氷河末端後退、東部のショロン地域のAX010氷河では、ここ17年で約20mの氷厚減少、またクンブ氷河下流部の氷厚減少も顕著であった。地球温暖化による氷河融解の促進は氷河湖の拡大を招き、その決壊による洪水災害の危険度を増やしている。3.氷河変動過程とその機構に関する観測氷河質量収支と熱収支・アルビードとの関係、氷河表面の厚い岩屑堆積物や池が氷河融解に与える効果などを、地上での雪氷・気象・水文観測、航空機によるリモート・センシング、衛星データ解析などから研究した。氷河表面の微生物がアルビードを低下させて氷河融解を促進する効果、従来確立されていなかった岩屑被覆下の氷河融解量の算定手法の開発、氷河湖・氷河池の氷河変動への影響など、ヒマラヤ雪氷圏特有の現象について、新たに貴重な知見が得られた。4.降水など水・物質循環試料の採取・分析・解析ヒマラヤ南北面で、水蒸気や化学物質の循環に関する試料を採取し、現在分析・解析中であるが、南からのモンスーンの影響の地域特性が水の安定同位体の分析結果から検出されている。5.衛星データ解析アルゴリズムの開発衛星データの地上検証観測に基づき、可視光とマイクロ波の組み合わせによる氷河融解に関わる微物理過程に関するアルゴリズムの開発、SPOT衛星データからのマッピングによる雪氷圏の縮小把握、LANDSAT衛星TM画像による氷河融解への堆積物効果の算定手法の確立などの成果を得た。6.最近の気候変化解析ヒマラヤ南面のヒドン・バレーとランタン地域で氷河積雪試料、ランタン周辺で年輪試料を採取し、過去数十年の地球温暖化に関わる気候変化を解析中である。7.最近数十年間の氷河変動解析最近の航空写真・地形図をもとに過去の資料と対比して氷河をマッピングし、広域的な氷河変動の分布を解析中である。8.地球温暖化の影響の広域解析北半球規模の気候変化にインド・モンスーンが重要な役割を果たしており、モンスーンの消長に関与するヒマラヤ雪氷圏の効果の基礎資料が得られた。