著者
相馬 秀廣 山内 和也 山藤 正敏 安倍 雅史 バレンティナ サンコバ ヴァレリー コルチェンコ 窪田 順平 渡辺 三津子
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

<b>はじめに:</b>天山山脈西部北麓には,オアシスを連ね唐代には「天山北路」が通り,北方にはカザフ草原が広がる.ヌリアン(2009)によれば,アクベシム遺跡は,紀元5-6世紀にソグド人による建設後,交易の発達により繁栄し,7世紀には西突厥の中心地として玄奘も滞在し,657年以降は断続的に唐,西突厥,吐蕃の支配下に置かれ, 682年の唐の「杜懐寶石碑」が出土している.「タラス河畔の戦い」の後も、カルルク、カラハン朝の中心的な都城址として13世紀初頭まで居住されたとされ,仏教寺院,ネストリウス派キリスト教会などの遺跡も複数存在する. 考古発掘により,アクベシム遺跡の概要は大まかには判明しているものの,何故この場所に同遺跡が建設されたか,南東部のラバドの性格など,基本的な点で未解決な部分も少なくない.また,同遺跡からおおよそ25km圏(アクベッシム遺跡地区)内には,数多くの遺跡の存在が知られているものの,それらの立地条件については,必ずしも明らかではない.そこで,発表では,高解像度衛星画像・同写真の判読と現地調査結果により,各遺跡の立地条件などについて報告する.本研究は,1967年撮影のCorona衛星写真(地上解像度約3m. Corona)および2007年観測のQuickBird衛星画像(同約0.6m)などによる衛星考古地理学的手法を用いた.<b>アクベシム遺跡地区の囲郭遺跡の立地条件</b>:当地区の囲郭遺跡の立地条件は, a)段丘面上端,b)段丘面上(一辺が数10mの小規模囲郭),c)扇端(アクベシム遺跡),d)沖積低地(ブラナ遺跡)に区分される.aは一辺の長さが100mオーダーで囲郭の一部に段丘崖を利用し,幅数から10mの空堀を周囲に巡らせており,防御に重点がおかれた可能性が高い.同様な囲郭址がイシク湖南岸にも存在する.bは烽火台である. アクベシム遺跡は,東西両側を南からチュー川に延びる2つの大きな開析扇状地扇端付近のほぼ合流部に位置する.当地区の遺跡の中では地下水を最も得やすく,また,両側からの河川氾濫に対して最も被害を受けにくい立地にある.ブラナ遺跡は,アクベシム遺跡の後,当地区の中心だったとされる囲郭であるが,アクベシム遺跡両側の扇状地の間を流下する小河川の沖積低地に立地する.以上の点から,アクベシム遺跡は,当地区において,中心となるのに最も望ましい立地にあることが判明した.
著者
上田 豊 中尾 正義 ADHIKARY S.P 大畑 哲夫 藤井 理行 飯田 肇 章 新平 山田 知充 BAJRACHARYA オー アール 姚 檀棟 蒲 建辰 知北 和久 POKHREL A.P. 樋口 敬二 上野 健一 青木 輝夫 窪田 順平 幸島 司郎 末田 達彦 瀬古 勝基 増澤 敏行 中尾 正義 ZHANG Xinping BAJRACHARYA オー.アール SHANKAR K. BAJRACHARYA オー 伏見 碩二 岩田 修二
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1.自動観測装置の設置と維持予備調査の結果に基づき、平成6年度にヒマラヤ南面と北面に各々2カ所設置したが、各地域におけるプロセス研究が終了し、最終的には南面のクンブ地域と北面のタングラ地域で長期モニタリング態勢を維持している装置はおおむね良好に稼働し、近年の地球温暖化の影響が観測点の乏しいヒマラヤ高所にいかに現れるかの貴重なデータが得られている。2.氷河変動の実態観測1970年代に観測した氷河を測量し、ヒマラヤ南面では顕著な氷河縮小が観測された。その西部のヒドン・バレーのリカサンバ氷河では過去20年に約200mの氷河末端後退、東部のショロン地域のAX010氷河では、ここ17年で約20mの氷厚減少、またクンブ氷河下流部の氷厚減少も顕著であった。地球温暖化による氷河融解の促進は氷河湖の拡大を招き、その決壊による洪水災害の危険度を増やしている。3.氷河変動過程とその機構に関する観測氷河質量収支と熱収支・アルビードとの関係、氷河表面の厚い岩屑堆積物や池が氷河融解に与える効果などを、地上での雪氷・気象・水文観測、航空機によるリモート・センシング、衛星データ解析などから研究した。氷河表面の微生物がアルビードを低下させて氷河融解を促進する効果、従来確立されていなかった岩屑被覆下の氷河融解量の算定手法の開発、氷河湖・氷河池の氷河変動への影響など、ヒマラヤ雪氷圏特有の現象について、新たに貴重な知見が得られた。4.降水など水・物質循環試料の採取・分析・解析ヒマラヤ南北面で、水蒸気や化学物質の循環に関する試料を採取し、現在分析・解析中であるが、南からのモンスーンの影響の地域特性が水の安定同位体の分析結果から検出されている。5.衛星データ解析アルゴリズムの開発衛星データの地上検証観測に基づき、可視光とマイクロ波の組み合わせによる氷河融解に関わる微物理過程に関するアルゴリズムの開発、SPOT衛星データからのマッピングによる雪氷圏の縮小把握、LANDSAT衛星TM画像による氷河融解への堆積物効果の算定手法の確立などの成果を得た。6.最近の気候変化解析ヒマラヤ南面のヒドン・バレーとランタン地域で氷河積雪試料、ランタン周辺で年輪試料を採取し、過去数十年の地球温暖化に関わる気候変化を解析中である。7.最近数十年間の氷河変動解析最近の航空写真・地形図をもとに過去の資料と対比して氷河をマッピングし、広域的な氷河変動の分布を解析中である。8.地球温暖化の影響の広域解析北半球規模の気候変化にインド・モンスーンが重要な役割を果たしており、モンスーンの消長に関与するヒマラヤ雪氷圏の効果の基礎資料が得られた。