著者
上田 博 遊馬 芳雄 高橋 暢宏 清水 収司 菊地 理 木下 温 松岡 静樹 勝俣 昌己 竹内 謙介 遠藤 辰雄 大井 正行 佐藤 晋介 立花 義裕 牛山 朋来 藤吉 康志 城岡 竜一 西 憲敬 冨田 智彦 植田 宏昭 末田 達彦 住 明正
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.415-426, 1995-06-15
参考文献数
26
被引用文献数
11

2台のドップラーレーダーを主に用いた熱帯の雲やクラウドクラスターの観測を、TOGA-COARE集中観測期間内の1992年11月12日から約2カ月半に渡って、パプアニューギニア、マヌス島で行った。観測期間中に、スコールライン、クラウドクラスターに伴う対流雲や層状雲、及び、日中のマヌス島上に発生する孤立対流雲等の種々の異なるタイプの雲について、ドップラーレーダーで観測した。マヌス島における観測の概要と観測結果の要約について述べる。観測データについての解析結果の予備的な要約は以下の通りである。1)レーダーエコーの発達の初期には暖かい雨のプロセスが支配的であり、最大のレーダー反射因子はこの時期に観測された。2)エコー頂高度の最大は最初のレーダーエコーが認められてから3時間以内に観測された。3)レーダー観測範囲内における、レーダーエコー面積の最大値はクラウドクラスターの大きさに対応して最大のエコー頂高度が観測された時刻より数時間遅れて観測された。4)長時間持続する層状エコー内の融解層の上部に、融解層下層の上昇流とは独立した上昇流が観測された。これらの観測データを用いてさらに研究をすすめることにより、熱帯のクラウドクラスターの構造や発達機構を解明できると考えられた。
著者
末田 達彦
出版者
名古屋大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

木曽山中には、中世・近世に枯死したが、その後数百年の間腐朽を免れ、今日まで保存されている木曽ヒノキの倒木が散在する。これらの倒木が中近世に起源を持つものであることは、倒木更新し、現在では樹齢300年前後に達した老大木が、依然その上に鎮座していることから明らかである。本研究では、木曽山中を探索してこれら中近世の木曽ヒノキ倒木を発掘したうえ、これらを樹齢300年の木曽ヒノキ現生木の年輪曲線に繋ぎ、全体として西暦1100年代まで遡る長さ800年の標準年輪曲線を作成した。この標準年輪曲線と過去100年間の気象観測の応答関数解析により、中部山岳における年輪成長には、第一に成長に先立つ冬季の気温が、第二に前年成長期の降水量が、支配的な影響を及ぼしていると判明した。この結果から伝達関数を用いて過去800年の気温変動を復元したところ、13世紀中葉から19世紀中葉まで続く寒冷期を挟んで、その前には顕著な寒冷化の傾向が、その後には現在まで続く温暖化の傾向が現われた。この[寒冷化→寒冷期→温暖化]という気候変動は、それぞれ『中世の温暖期』の終焉部、『小氷期』、『地球温暖化』に対応するもので、北米、ヨーロッパなどの気侯変動などともよく同調している。また、本年輪曲線と過去の火山噴火の関係を解析したところ、南極やグリーンランドの氷床にまで硫酸降下の痕跡を残すほどの大規模な噴火の直後には、年輪成長が顕著に低落し、それが10〜20年ほど続くことが判った。この結果は、火山噴火で成層圏にまで吹き上げられた硫酸エアロゾルがその日傘効果により気候を寒冷化させるという気象学上の仮説を裏付けるものである。
著者
丸田 恵美子 梶 幹男 及川 武久 上村 保麿 末田 達彦 池田 武文
出版者
東邦大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

中部日本の日本海側の山岳域では、森林限界は亜高山帯常緑針葉樹からなり、高山域では低木のハイマツ(Pinus pumila)群落が発達して、多雪に守られた独特の景観を形作っている。しかし、今後予想される気候温暖化に伴って少雪化が進むと、積雪の保護がなくなって、高い標高域での環境ストレスはむしろ増大することも予想される。そこで本研究では、(1)日本海側から太平洋側への冬季の環境傾度に沿って、森林限界付近で樹木が受ける環境ストレスを明らかにし、(2)日本海側の山岳として乗鞍岳(標高3026m)をとりあげ、その森林限界の優占樹種である常緑針葉樹のオシラビソ(Abies mariesii)に対して、冬季の積雪がどのように樹木を保護しているのかを明らかにするための調査を行った。太平洋型気候の山岳域では、冬季に土壌や幹が凍結して吸水が停止している期間に、乾燥した晴天が続くので、葉からのクチクラ蒸散が多く、枝での貯水だけではまかなうことができずに、シュートが枯損することが、最も重要なストレスの要因であった。一方、多雪の日本海側の中部山岳地域・乗鞍岳の森林限界では、冬季の乾燥は致死に至るほどではないものの、仮導管内の通導阻害が生じる。この通導阻害は、8月下旬に新しい木部の形成が完了するまで、気孔コンダクタンスを低下させるという形で残存し、年間の光合成量を減じているとみられる。さらにオオシラビソは3月から4月にかけて積雪面より上の幹の針葉が強光障害を受けて褐変枯損する。その結果、積雪面より上のシュートの針葉の寿命は短く、偏形化し、やがては物質生産の不均衡から幹は枯損する。しかし、積雪面以下の枝では雪に保護されており損傷を受けることはなく、針葉の寿命も長く密生し、この部分の物質生産が、枯損した幹の再生を支えていると考えられる。温暖化に伴って少雪化が進んだ場合、針葉の乾燥ストレスは致死に至るほど進み、物質生産の主な担い手である積雪面下の現存量も減少し、枯損幹の再生を支えられず、オオシラビソの生存ができなくなることも予想され、森林限界の下降を引き起こすかもしれない。したがって、積雪に保護されて成立している現在の森林限界や高山域の景観の維持は困難となる可能性がある。
著者
上田 豊 中尾 正義 ADHIKARY S.P 大畑 哲夫 藤井 理行 飯田 肇 章 新平 山田 知充 BAJRACHARYA オー アール 姚 檀棟 蒲 建辰 知北 和久 POKHREL A.P. 樋口 敬二 上野 健一 青木 輝夫 窪田 順平 幸島 司郎 末田 達彦 瀬古 勝基 増澤 敏行 中尾 正義 ZHANG Xinping BAJRACHARYA オー.アール SHANKAR K. BAJRACHARYA オー 伏見 碩二 岩田 修二
出版者
名古屋大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1.自動観測装置の設置と維持予備調査の結果に基づき、平成6年度にヒマラヤ南面と北面に各々2カ所設置したが、各地域におけるプロセス研究が終了し、最終的には南面のクンブ地域と北面のタングラ地域で長期モニタリング態勢を維持している装置はおおむね良好に稼働し、近年の地球温暖化の影響が観測点の乏しいヒマラヤ高所にいかに現れるかの貴重なデータが得られている。2.氷河変動の実態観測1970年代に観測した氷河を測量し、ヒマラヤ南面では顕著な氷河縮小が観測された。その西部のヒドン・バレーのリカサンバ氷河では過去20年に約200mの氷河末端後退、東部のショロン地域のAX010氷河では、ここ17年で約20mの氷厚減少、またクンブ氷河下流部の氷厚減少も顕著であった。地球温暖化による氷河融解の促進は氷河湖の拡大を招き、その決壊による洪水災害の危険度を増やしている。3.氷河変動過程とその機構に関する観測氷河質量収支と熱収支・アルビードとの関係、氷河表面の厚い岩屑堆積物や池が氷河融解に与える効果などを、地上での雪氷・気象・水文観測、航空機によるリモート・センシング、衛星データ解析などから研究した。氷河表面の微生物がアルビードを低下させて氷河融解を促進する効果、従来確立されていなかった岩屑被覆下の氷河融解量の算定手法の開発、氷河湖・氷河池の氷河変動への影響など、ヒマラヤ雪氷圏特有の現象について、新たに貴重な知見が得られた。4.降水など水・物質循環試料の採取・分析・解析ヒマラヤ南北面で、水蒸気や化学物質の循環に関する試料を採取し、現在分析・解析中であるが、南からのモンスーンの影響の地域特性が水の安定同位体の分析結果から検出されている。5.衛星データ解析アルゴリズムの開発衛星データの地上検証観測に基づき、可視光とマイクロ波の組み合わせによる氷河融解に関わる微物理過程に関するアルゴリズムの開発、SPOT衛星データからのマッピングによる雪氷圏の縮小把握、LANDSAT衛星TM画像による氷河融解への堆積物効果の算定手法の確立などの成果を得た。6.最近の気候変化解析ヒマラヤ南面のヒドン・バレーとランタン地域で氷河積雪試料、ランタン周辺で年輪試料を採取し、過去数十年の地球温暖化に関わる気候変化を解析中である。7.最近数十年間の氷河変動解析最近の航空写真・地形図をもとに過去の資料と対比して氷河をマッピングし、広域的な氷河変動の分布を解析中である。8.地球温暖化の影響の広域解析北半球規模の気候変化にインド・モンスーンが重要な役割を果たしており、モンスーンの消長に関与するヒマラヤ雪氷圏の効果の基礎資料が得られた。
著者
末田 達彦 纐纈 伸二
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.10, pp.402-411, 1984-10-25

前報にひきつづき3種の理論的生長曲線, MITSCHERLICH式, Logistic式, GOMPERTZ式をバンクスマツ(Pinus banksiana LAMB.)349個体の胸高半径生長にあてはめ, 各曲線の理論的妥当性, あてはめの難易, あてはまりの良否を検討した。前報のシロトウヒの場合と同様, いずれの理論式も, あてはめによって得られる係数の値と理論から考えて妥当と思われる値の間に食違いを示したが, この矛盾はMITSCHERLICH式においてもっとも穏やかで, Logistic式においてもっとも顕著であった。あてはめの難易, あてはまりの良否についてもMITSCHERLICH式がもっとも優れており, ついでGOMPERTZ式, Logistic式の順となった。以上の結果は前報のシロトウヒの場合とほぼ同じであるが, これは各曲線の特性を反映しているものとみてよい。一部に曲線間の順位に逆転があるが, これは陽樹バンクスマツと陰樹シロトウヒの差異によるものと考えられる。本報および前報の結果を合わせ, 樹幹半径の生長を表わすには, 理論的にも現実的にもMITSCHERLICH式がもっとも優れているという暫定的結論を得た。
著者
末田 達彦 梅村 武夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.12, pp.459-464, 1980-12-25

2種類の理論的樹高曲線を誘導した。第1の樹高曲線は林木の樹高生長および直径生長がともに時間に関するミッチャーリッヒ式に従うと仮定したときに得られるもので, 異齢林の樹高曲線を与える。第2の樹高曲線は同齢林のそれを表わすもので, 単純同齢林を構成する個々の林木の樹高および直径の生長が, 各林木の生育環境条件に対し, 収量逓減の法則に従い反応するという仮説より導かれるものである。これら2種類の樹高曲線の数学的表現形式はまったく同じであるが, それぞれの式の意味, したがって係数の生物学的な意味は異なる。