- 著者
-
野村 亜由美
本田 純久
- 出版者
- 大阪大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2009
本研究は, 2004年スマトラ島沖地震によって津波の被害を受けたスリランカ南部地区において, 60歳以上の被災住民25人を対象に,認知症を主眼とした津波被災後の日常生活の変化,健康状態などに関する聞き取り調査を行った.また被災地区に住む医師,担当政府官らから,津波被災前後の住民の精神被害の状況,経済状況や人口変動などに関する情報を収集するとともに,高齢者を対象とした地区活動に参加しながら,当該地区が抱えている問題と課題について分析を行った.分析の結果,被災地区の60歳以上の認知症発症率は1パーセントから2パーセント程度,認知症有病率については,津波後の人口流出などもあり数値にばらつきがあるが, 70歳以上の認知症テストMMSE(Mini-Mental State Examination)では,軽度の認知症疑いが15パーセントから17パーセントであった. MMSEの検査項目の内,特に得点が低かったのが月日や計算式の問いであったが,これらには文化的背景(教育歴,経済状況等)がバイアスとなって影響を及ぼしていると考えられるため,総得点だけから認知症疑いと結論付けるには注意が必要であり,更なる研究が必要であると思われる.津波被災前後の認知症の発症率・有病率の変化については,被災前のデータがないため明らかではないが,被災後の発症率については津波被災による心的外傷が原因となる明らかな増加は認められず,自然増加内に留まっていると考えられた.また本調査を開始した2006年以降,津波被害を要因とした住民の精神的健康度や身体的健康度には顕著な影響は認められず,心的外傷と認知症との間には関連がないと現段階では推測している.