著者
大谷 直子
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.390-397, 2014 (Released:2015-01-06)
参考文献数
32
被引用文献数
2

近年,肥満は糖尿病や心筋梗塞だけでなく,様々ながんを促進することが指摘されている.しかし,その分子メカニズムの詳細は十分には明らかになっていない.今回著者らは,全身性の発癌モデルマウスを用いて,肥満により肝がんの発症が著しく増加することを見出した.興味深いことに,肥満すると,2次胆汁酸を産生する腸内細菌が増加し,体内の2次胆汁酸であるデオキシコール酸の量が増え,これにより肝臓の間質に存在する肝星細胞が「細胞老化」を起こすことが明らかになった.「細胞老化」とはもともと,細胞に強いDNA損傷が生じた際に発動される生体防御機構(不可逆的細胞増殖停止)である.しかし最近,細胞老化をおこすと細胞が死滅せず長期間生存し,細胞老化関連分泌因子(SASP因子)と呼ばれる様々な炎症性サイトカインやプロテアーゼ等を分泌することが培養細胞で示されていた.実際著者らの系でも,細胞老化を起こした肝星細胞は発がん促進作用のある炎症性サイトカイン等のSASP因子を分泌することで,周囲の肝実質細胞のがん化を促進することが明らかになった.さらに臨床サンプルを用いた解析から,同様のメカニズムがヒトの肥満に伴う肝がんの発症に関与している可能性も示された.本研究により肥満に伴う肝がんの発症メカニズムの一端が明らかになったと考えられる.今後,糞便中に含まれる2次胆汁酸産生菌の増殖を抑制することにより,肝がんの予防につながる可能性が期待される.
著者
大谷 直子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S29-4, 2021 (Released:2021-08-12)

腸内細菌の産生する代謝物質はそのほとんどが、吸収され門脈等を介して肝臓に運ばれ、さらに肝臓で様々な代謝を受けたのち、通常無害な状態となって全身循環系へ移行する。このように腸と肝は解剖学的にも生理学的にも密接に関係していることから、この関係性は「腸肝軸」と呼ばれ、腸内細菌の産生する代謝物質の肝臓病態への影響が注目されている。肝性脳症は肝硬変の末期合併症で、著しい肝機能障害のため、ウレアーゼを有する腸内細菌が産生するアンモニアが肝臓で無毒化されないまま、シャント血流により全身循環系に流れ込み、高アンモニア血症となる病態で、アンモニアは血液脳関門を通過し、脳障害をおこすために脳症が生じる。今回、私たちは、肝性脳症患者の腸内細菌叢を解析するにあたり、特に高アンモニア血症の治療薬として用いられる難吸収性抗生剤、リファキシミンの応答性に着目し、腸内細菌叢の16SrRNA遺伝子の次世代シーケンス結果を用いてQiime2解析を実施し、Lefse解析によって、健常者と比べて、リファキシミン著効例、非著効例で有意に多く存在する肝性脳症の原因となりうる腸内細菌種を探索した。その結果、リファキシミン著効例(高アンモニア血症の改善例)とリファキシミン非著効例(高アンモニア血症が改善しなかった症例)で、異なる菌が抽出された。リファキシミン著効例で同定した菌を、四塩化炭素投与による肝硬変モデルマウスに2週間服用させたところ、高アンモニア血症が生じ、この菌が高アンモニア血症の原因菌のひとつであることが明らかになった。興味深いことにこの菌は、もともと口腔細菌として知られており、プロトンポンプ阻害薬を内服している患者の腸内で顕著に増加してしており、胃酸バリアを突破して腸内で生着した可能性が示唆された。
著者
大谷 直子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
ファルマシア (ISSN:00148601)
巻号頁・発行日
vol.53, no.11, pp.1101_1, 2017 (Released:2017-11-01)

細胞老化した細胞からは,様々な分泌タンパク質(炎症性サイトカイン,ケモカイン,細胞外マトリクス分解酵素などのプロテアーゼ類,増殖因子など)が産生されることが明らかになり,その現象は「細胞老化随伴分泌現象(senescence-associated secretory phenotype, SASP)」と呼ばれる.SASP因子はパラクライン的に自己以外の細胞に作用し,周囲の細胞の細胞老化を誘導したり,場合によっては増殖させたり,また免疫細胞を遊走させ,老化細胞のクリアランスに働くことが知られている.オートクライン的に働き,自己の細胞老化をより強化することも示されている.重要な生理作用として,組織の損傷治癒の際に一時的にSASPが誘導されることが示された.
著者
大谷 直子
出版者
一般社団法人 日本女性科学者の会
雑誌
日本女性科学者の会学術誌 (ISSN:13494449)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.9-19, 2015-03-27 (Released:2015-03-31)
参考文献数
22

細胞には異常を感知し、その細胞自身や生体の正常を保とうとする様々な生体防御機構が備わっている。細胞老化もそのような生体防御機構のひとつで、発がんの危険性のある損傷が細胞に加わった際に誘導される不可逆的細胞増殖停止であり、生来細胞に備わった重要な発癌防御機構である。しかし、自ら死滅するアポトーシスとは異なり、細胞老化を起こすと、生体内において長期間生き続ける可能性がある。最近、生き残った老化細胞から、様々な炎症性サイトカインや細胞外マトリクス分解酵素といった多くのタンパクが産生・分泌されることが明らかになり、この現象はSASP(senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれている。今回我々は、肥満にともなう肝臓がんモデルにおいて、肝臓の間質に存在する肝星細胞が細胞老化とSASPを起こし、肝がんに促進的ながん微小環境を形成することを見出した。さらに肝星細胞の細胞老化は肥満により増加した腸内細菌が産生する2次胆汁酸のひとつ、デオキシコール酸により促進されることを示した。