著者
児玉 龍彦
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.EL7, 2021 (Released:2021-08-12)

新型コロナウィルスは1年で3万塩基の配列のうち24箇所程度に変異を起こす。比較的安定的なRNAウィルスである。3ヶ月程度ごとに新たな変異を持つウィルスが選択され、感染者数が上昇し、自壊するように下降する波を描く。 こうした周期性を生み出すメカニズムとして、一定の変異は自然に起こっているが、選択は、分子レベル、ホストの免疫、社会的な隔離や治療、動物との人獣共通感染などの相互作用のマルチスケールフィードバックが想定され、数年のうちにパンデミックは終息することが期待されている。 問題は、波のたびにエピセンター(震源地)でbasic cladeと呼ばれる比較的安定な起源となるウィルスの保因者が増え、そこから変異株が生み出されていくことにある。特に問題となるのは、感受性を抑え終息を加速化させるワクチンへの抵抗性のウィルスが増大することである。 周期性を生み出すマルチスケールのフィードバックのメカニズムから見たコロナウィルスの終息への対応策を考えたい。
著者
大谷 直子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S29-4, 2021 (Released:2021-08-12)

腸内細菌の産生する代謝物質はそのほとんどが、吸収され門脈等を介して肝臓に運ばれ、さらに肝臓で様々な代謝を受けたのち、通常無害な状態となって全身循環系へ移行する。このように腸と肝は解剖学的にも生理学的にも密接に関係していることから、この関係性は「腸肝軸」と呼ばれ、腸内細菌の産生する代謝物質の肝臓病態への影響が注目されている。肝性脳症は肝硬変の末期合併症で、著しい肝機能障害のため、ウレアーゼを有する腸内細菌が産生するアンモニアが肝臓で無毒化されないまま、シャント血流により全身循環系に流れ込み、高アンモニア血症となる病態で、アンモニアは血液脳関門を通過し、脳障害をおこすために脳症が生じる。今回、私たちは、肝性脳症患者の腸内細菌叢を解析するにあたり、特に高アンモニア血症の治療薬として用いられる難吸収性抗生剤、リファキシミンの応答性に着目し、腸内細菌叢の16SrRNA遺伝子の次世代シーケンス結果を用いてQiime2解析を実施し、Lefse解析によって、健常者と比べて、リファキシミン著効例、非著効例で有意に多く存在する肝性脳症の原因となりうる腸内細菌種を探索した。その結果、リファキシミン著効例(高アンモニア血症の改善例)とリファキシミン非著効例(高アンモニア血症が改善しなかった症例)で、異なる菌が抽出された。リファキシミン著効例で同定した菌を、四塩化炭素投与による肝硬変モデルマウスに2週間服用させたところ、高アンモニア血症が生じ、この菌が高アンモニア血症の原因菌のひとつであることが明らかになった。興味深いことにこの菌は、もともと口腔細菌として知られており、プロトンポンプ阻害薬を内服している患者の腸内で顕著に増加してしており、胃酸バリアを突破して腸内で生着した可能性が示唆された。
著者
大隅 典子
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S16-2, 2021 (Released:2021-08-12)

近年、疾病の原因が胎児期にまで遡ることができるというDOHaD(Developmental Origin of Health and Disease)説が着目を浴びている。DOHaDでは古典的には母体の栄養摂取や薬物暴露等、胎仔にとっての子宮環境に主眼が置かれてきたが、近年の疫学研究により、父親側の因子も次世代に影響することが指摘されつつある(Paternal Origin of Health and Disease, POHaD)。例えば、高齢の父から生まれた子どもにおいて、低体重出生児や、神経発達障害の増加が繰り返し報告されている。米国では、神経発達障害の一つである自閉スペクトラム症(ASD)のリスク因子を特定するための試みとして縦断調査(EARLI study)が行われ(http://www.earlistudy.org/)、この調査成果により、父親の精子DNAメチル化の変化と子どものASD的な兆候が確かに相関することや、そのうちの複数のDNAメチル化変化がASD患者の剖検脳においても共通していることが明らかにされた。このような背景にもとづき、我々は、加齢雄マウスを用いて父親の加齢が子どもの神経発達障害のリスクとなる分子機構について研究し、継精子エピゲノム変異に着目している。このような父親の加齢だけでなく、内分泌かく乱物質等、様々な要因によって変化し得る雄性生殖細胞エピゲノムが子どもの疾患リスクとなることが明らかとなりつつある。これは精子を介するエピゲノムの経世代影響の結果として、子孫が多様な表現型を持ち得るということも示唆している。エピゲノム変異の経世代影響という観点はこの問題に対する新たな切り口となるかもしれない。
著者
秋山 雅博 関 夏美 熊谷 嘉人 金 倫基
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.P-13, 2021 (Released:2021-08-12)

【目的】腸内細菌叢は食事や薬剤などの環境因子によって容易に変化し得る。我々は食事を介してメチル水銀(MeHg)を一定量摂取しており、それらが腸内細菌に影響を与える可能性は高い。一方で、腸管には硫酸還元菌が常在し硫化水素 (H2S)などのイオウを産生していることから、イオウ付加体形成を介したMeHgの不活性化に寄与している可能性が高い。そこで、MeHgによる腸内細菌への影響と、MeHgの毒性軽減作用に対する腸内細菌叢の役割を検証した。【方法】腸内細菌タンパク質中チオール(SH)基はBPMアッセイにて検出した。Lactobacillus属菌の増殖は好気条件下37℃で24時間培養し1時間ごとに600 nmの吸光度を測定することで検出した。H2SおよびH2S2はLC-ESI-MS/MSにより測定した。C57BL/6マウス臓器中の水銀濃度測定に際し、抗生剤を14日間飲水投与後、MeHgを経口投与した。臓器中の水銀濃度は原子吸光水銀検出器を用いて測定した。【結果】まず、腸内細菌由来のタンパク質がS-水銀化されるかを調べた。その結果、マウス糞便タンパク質中でBPMにより検出されたSH基はMeHg曝露濃度依存的に減少した。 次に、MeHgが腸内細菌の増殖に与える影響を検証するために、小腸から大腸まで幅広く存在する乳酸菌であるLactobacillus属菌を用い、MeHgを添加した培地で培養した。その結果、非添加培地で培養した場合と比べて、MeHgを曝露した培地では、MeHgの濃度依存的な増殖阻害作用がみられた。また、SPFマウスの糞便中からH2SだけでなくH2S2も検出され、その濃度は無菌マウスで有意に低かった。さらに、抗生剤によって腸内細菌叢を撹乱したマウスでは、MeHg曝露による小脳、肺、肝臓への水銀蓄積が促進された。【考察】本研究よりMeHgは腸内細菌タンパク質へのS-水銀化を介して悪影響を与えている可能性が示唆された。また一方で腸管常在菌により産生されるイオウ化合物がMeHg毒性から宿主を保護している可能性も示唆された。
著者
野村 由美子 野田 清仁 大橋 祐介 鹿野 真弓
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S5-2, 2021 (Released:2021-08-12)

感染症予防ワクチンは、免疫反応の惹起を介して有効性を発揮する特徴があり、通常の医薬品を対象とした非臨床試験ガイドラインが適用可能とは限らない。日本では、「感染症予防ワクチンの非臨床試験ガイドラインについて」(2010年5月27日)により考え方が示されてきたが、近年はワクチンの開発環境が変化しており、ワクチンの改訂の必要性が認識された。 ワクチンの開発に係る困難な点を企業アンケートによって抽出したところ、非臨床試験に関して、投与経路追加時等の全身暴露毒性試験の要否や安全性薬理試験要否の判断基準等が指摘され、これらの課題について、開発品目における対応状況の調査や国内外のガイドラインの比較等を実施した。 投与経路追加に関しては、筋肉注射と皮下投与が可能な7品目について、いずれも反復毒性試験は一方の投与経路のみで実施し、局所刺激性試験を両方の投与経路で実施していた。また、WHOのガイドラインでは、経鼻投与に際しての脳神経系への影響など代替経路開発時の留意点が具体的に示されていた。 安全性薬理試験については、国内ガイドラインでは他の毒性試験であらかじめ安全性薬理のエンドポイントを評価できる必要があるのに対し、WHOガイドラインでは他の試験で生理機能への影響が懸念される場合に実施することとされていた。この違いを反映して、国内のみで開発されているワクチンの方が海外でも開発されているワクチンより、安全性薬理試験の実施率が高かった。 これらの結果に基づき、投与経路追加時等について全身暴露の毒性試験は必ずしも全投与経路で必要ないこと、安全性薬理試験については他の非臨床安全性試験で評価可能とする等の改訂を提案した。ワクチンについても、日本で遅滞なく新規ワクチンが導入されることが重要であり、ガイドラインの違いによる非臨床試験のやり直しを防ぐため、要求事項の国際整合性を踏まえた改訂の提案を行った。
著者
Myrtle DAVIS
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第48回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S6-1, 2021 (Released:2021-08-12)

CRISPR is an acronym for Clustered Regularly Interspaced Short Palindromic Repeat that refers to the unique organization of short, partially palindromic repeated DNA sequences found in the genomes of bacteria and other microorganisms. Since that discovery, CRISPR-Cas9 is recognized as a powerful and flexible functional genomic screening approach that can be employed to provide mechanistic insight and advance or capabilities in toxicology. CRISPR is known for its role in gene editing and Toxicologists most often employ this technology to modulate gene expression in mechanistic investigations. When CRISPR is used as a modality to treat disease, the challenge for toxicologists in characterization of potential on-and off-target toxicities and informing human safety risks that may be caused by these unique treatments are significant. In this introductory segment, various methods and strategies that have evolved since the discovery of this special bacterial defense system will be discussed. The use of CRISPR for investigative work in toxicology, assay development and the challenges CRISPR-based therapies pose for toxicologists will also be reviewed. Last, an overview of some of the current challenges and potential for CRISPR in toxicology will be outlined to bridge to the main talks in the session.