著者
大賀 寿郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.114-127, 2011-10-01 (Released:2011-10-01)
参考文献数
21

1945年,敗戦による大混乱からの復興を目指して立ち上がった当時の逓信省の電話機エンジニアの命題は,物理特性と人の心理特性とを定量的に把握し,カットアンドトライを排して納得できる物理量を根拠とするような設計を行うことだった.復興の機軸となるべく1949年に量産開始となった4号電話機は,伝送周波数帯域と明瞭度との関係の把握,正確な音響測定手法の確立など周辺技術の蓄積を推進しながら実用化され,定量的な設計を徹底した電話機として当時の最先端だった.その後,我が国が高度成長期に入った1964年から量産された600形電話機では,実用化にあたって聴覚心理グループが電話機の目標とすべき音響特性を示し,電話機設計サイドはこれを踏まえて電話機設計を行った.こうした過程を踏んで設計された電話機は世界に例が少ない.ここではオーディオ技術に注目し,我が国の標準電話機の実用化の概観の前編としてこうした研究実用化の経過を述べる.
著者
大賀 寿郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.205-222, 2012-01-01 (Released:2012-01-01)
参考文献数
30
被引用文献数
1

1964年の600形電話機の実用化以降,高度成長下の社会で電話機需要は増え続けた.しかし,その流れが1973年末の石油ショックで断ち切られて諸物価が急激に上昇し,社会が大混乱に陥った.電電公社は緊急プロジェクトで大幅なコストダウンを果たしながら通話性能を向上した601形電話機を実用化した.その頃から電話機への半導体ICの導入が現実のものとなり,電話機の構成を100年振りに全面変革する研究が開始された.オーディオトランスデューサもカーボン粉粒マイクロホンや高感度電磁イヤホンに代えて小形トランスデューサが検討され,パイロット商品に導入された.1980年代に入って電電公社の電話端末独占が見直され,電話機が競争市場の家電商品となる.この時期に電電公社が発表した801P電話機「ハウディ」は最後の標準電話機というべきもので,電気通信研究所で20年来検討されてきたセラミック圧電トランスデューサを活用し,その後約10年にわたる世の電話機技術の源流となった.
著者
大賀 寿郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review
巻号頁・発行日
vol.5, no.3, pp.205-222, 2012
被引用文献数
1

1964年の600形電話機の実用化以降,高度成長下の社会で電話機需要は増え続けた.しかし,その流れが1973年末の石油ショックで断ち切られて諸物価が急激に上昇し,社会が大混乱に陥った.電電公社は緊急プロジェクトで大幅なコストダウンを果たしながら通話性能を向上した601形電話機を実用化した.その頃から電話機への半導体ICの導入が現実のものとなり,電話機の構成を100年振りに全面変革する研究が開始された.オーディオトランスデューサもカーボン粉粒マイクロホンや高感度電磁イヤホンに代えて小形トランスデューサが検討され,パイロット商品に導入された.1980年代に入って電電公社の電話端末独占が見直され,電話機が競争市場の家電商品となる.この時期に電電公社が発表した801P電話機「ハウディ」は最後の標準電話機というべきもので,電気通信研究所で20年来検討されてきたセラミック圧電トランスデューサを活用し,その後約10年にわたる世の電話機技術の源流となった.
著者
大賀 寿郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. EA, 応用音響 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.105, no.651, pp.41-44, 2006-03-06
被引用文献数
1

学会の役割としては研究討論のほか、産業界のための技術標準化への貢献も重要である。ここでは実例をあげて電気音響変換器の技術標準化の過程を解説する。
著者
藤井 健作 大賀 寿郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.27-35, 1997-01-25
被引用文献数
33

学習同定法では推定精度の向上に合わせてステップゲインを徐々に小さくする制御を加えることで収束時間が短縮されることが知られている. その実現に際して問題は, そのステップゲインの制御に必要な推定精度の瞬時値が外乱の混じる残差信号からは直接的には観測できないことである. 本論文では"加算正規化"LMS法においてその適用が可能となるブロック長の制御はステップゲインの制御と同様に推定精度の収束値を高めること, また, そのブロックの延長によって収束特性の飽和が繰り返し観測可能となることを利用して収束時間の短縮を実現する方法を提案している. また, 実際の適応システムでは参照信号や外乱のパワー変動, 非巡回形フィルタの係数として推定される未知システムのインパルス応答が変化することも十分に想定される. 収束特性の制御法の検討に際して, これらの変化の可能性を無視することは現実的ではない. 本論文では最後に, これらの変化に対しても本制御法によれば対応可能となることを示す.
著者
藤井 健作 大賀 寿郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.314-322, 1995-03-25
参考文献数
16
被引用文献数
30

学習同定法を適応アルゴリズムとするエコーキャンセラにおいてダブルトークは,適応フィルタの係数を乱し,ハウリング発生の危険を増大させる.その対策としてエコーキャンセラでは通常,ダブルトークの発生を検出する回路を別に設け,検出時には適応フィルタ係数の更新を休止してその乱れを小さく抑える構成をとる.このダブルトーク検出には,エコーに埋もれたダブルトーク成分の検出が可能となる残留エコーの増加を監視する方法が有効である.しかし,その増加はエコー経路変動によっても生起するため,同検出法においてはエコー経路変動検出の併用が必須となる.本論文では,エコーを含む入力と疑似エコーの相関の大小からダブルトークとエコー経路変動を識別する方法を提案する.すなわち,疑似エコーとエコーの相関はダブルトークのときに大きく,エコー経路変動のときに小さくなることが利用される.更に,残留エコーと疑似エコーのパワー比をパラメータとするダブルトーク検出法も併せて提案し,係数更新演算に遅延を前置する構成によってエコー消去量が全く減少しないダブルトーク検出が可能となることを示す.
著者
藤井 健作 棟安 実治 大賀 寿郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. A, 基礎・境界 (ISSN:09135707)
巻号頁・発行日
vol.82, no.3, pp.299-305, 1999-03-25
参考文献数
17
被引用文献数
48

Filtered-x法を適応アルゴリズムとする能動騒音制御装置では通常, その起動に先だって誤差経路系のインパルス応答を観測し, それを誤差経路フィルタの係数として与える処理が実行される. 当然ながら, そのインパルス応答が起動後において変化することは十分に想定される. その変化は誤差経路フィルタの係数との差を拡大し, 騒音制御動作を不安定にする. 本論文では誤差経路フィルタ係数の算定を必要としない騒音制御フィルタ係数の更新法を提案する. ここでは, 騒音制御フィルタに二つの異なる係数の組を与えたときに騒音検出マイクロホンから誤差検出マイクロホンに至る系は騒音伝達系と誤差経路系のインパルス応答を未知数とする二つの独立な方程式を成立させることが利用される. 騒音制御フイノレタの係数はこの連立方程式を繰り返し解くことによって更新される.
著者
大賀 寿郎
出版者
一般社団法人 電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会 基礎・境界ソサイエティ Fundamentals Review (ISSN:18820875)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.4_46-4_61, 2008-04-01 (Released:2011-03-01)
参考文献数
30
被引用文献数
3 3

圧電材料を用いたマイクロホン,スピーカなどの音響部品は構造が簡単なことを特徴とし,長い歴史をもっており,最近の技術の進展にも見るべきものがある.しかし,この種の部品のまとまった技術解説が意外に少ない.ここでは基本的な事項の説明と実用部品の技術の概観を目的として,やや長く詳しい解説を行う.対象としてセラミック圧電材料と高分子圧電材料とを取り上げ,材料の性質,基本的な設計法から最新の研究成果までを述べる.