著者
大橋 春香 星野 義延 大野 啓一
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.123-151, 2007
被引用文献数
12

&nbsp;&nbsp;1. 1990年代以降ニホンジカの生息密度が急激に増加した東京都奥多摩地域において,ニホンジカが増加する前の1980-1985年に植生調査が行われた77スタンドにおいて,1999-2OO4年に追跡調査を行い,植物群落の階層構造,種組成,植物体サイズ型の変化を比較した.<BR>&nbsp;&nbsp;2. 調査地域の冷温帯上部から亜高山帯に成立するシラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計7タイプの植物群落を調査対象とした.<BR>&nbsp;&nbsp;3. 1980-1985年と1999-2004年における植物群落の各階層の高さおよび植被率を比較した結果,全ての植物群落で草本層の高さまたは植被率が減少していた.さらに,森林群落では低木層の植被率が減少する傾向がみられた.<BR>&nbsp;&nbsp;4. 1980-1985年と1999-2004年における総出現種数は471種から397種に減少し,奥多摩地域全体での植物種の多様性が低下していることが示唆された.<BR>&nbsp;&nbsp;5. 1980-1985年から1999-2004年の間に,調査を行った全ての植物群落で種組成の変化が認められた.種組成の入れ替わりはミヤコザサ-シモツケ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集の順に高く,シラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集では低かった.<BR>&nbsp;&nbsp;6. 各植物群落の構成種を植物体サイズによって類型化し,その増減傾向を比較した結果,中型・大型の草本種に減少種が多く,小型の草本種と大型の高木種には増減のない種が多い傾向が全ての植物群落に共通してみられた.<BR>&nbsp;&nbsp;7. スタンドあたりの出現種数はシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計5群落で減少していた.これらの群落では特に中型草本および大型草本のスタンドあたりの出現種数の減少が著しかった.また,森林群落のシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集ではスタンドあたりの低木の出現種数も減少していた.<BR>&nbsp;&nbsp;8. コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集ではスタンドあたりの出現種数に変化がみられなかった.これらの植物群落ではスズタケの優占度の減少量と調査スタンドに新たに加入した種数の間に相関がみられることから,摂食によって種数が減少する一方,スズタケの優占度の低下に伴って新たな種が加入することにより,種数の変化がなかったものと考えられた.
著者
比嘉 基紀 師井 茂倫 酒井 暁子 大野 啓一
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.207-217, 2008-11-30
被引用文献数
1

木曽川感潮域の自然堤防帯からデルタ帯への移行帯において、絶滅危惧植物タコノアシPenthorum chinense Pursh(ユキノシタ科)の生育適地を解明することを目的に調査を行った。本調査地は、河床勾配が緩やかなことに加え、様々な人為的インパクトの影響で河床が全体的に安定傾向にある。これまで本種は、河川では自然攪乱にさらされやすい澪筋沿いの明るく開けた立地に出現すると報告されている。しかし草本植物全体の分布特性について検討した結果、タコノアシは比高が高く地表攪乱の痕跡のないアカメヤナギ群落の林縁や林床で多く確認された。このことから本調査地では、タコノアシは地表攪乱以外の要因によって個体群を維持していると考えられた。タコノアシの成長と開花に影響を及ぼす環境要因を、最尤推定法の変数選択で検討した結果、表層堆積物硬度がすべての統計モデルで選択され、標準化推定値も大きかった。個体の地上部乾燥重量と枝数、開花個体数、花梗数は、表層堆積物が軟らかく、上層の開けた明るい泥湿地的環境で増加する傾向を示した。本調査地でタコノアシの成長と開花が良好な環境は、堆積物硬度が0.16〜0.82kg/cm^2、7月のRPPFDが20〜60%、1日の冠水時間が3.97〜5.84h、表層の細粒堆積物厚が32〜40cm、表層堆積物の中央粒径が0.048〜0.053mm、淘汰度が1.24〜1.79であった。比高の低い立地にも表層堆積物が軟らかく上層の明るい環境は存在したが、そこではヨシやマコモ、ミズガヤツリの優占群落が成立しており、タコノアシの出現個体数は少なかった。冠水・塩水ストレスが本種の分布制限要因とは考えにくく、比高の低い立地でも生育は可能と推察されることから、タコノアシの分布特性を解明するためには、種間関係を含めたさらに詳細な検討が必要である。
著者
大橋 春香 星野 義延 大野 啓一
出版者
植生学会
雑誌
植生学会誌 (ISSN:13422448)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.123-151, 2007-12-25 (Released:2017-01-06)
参考文献数
60
被引用文献数
13

1. 1990年代以降ニホンジカの生息密度が急激に増加した東京都奥多摩地域において,ニホンジカが増加する前の1980-1985年に植生調査が行われた77スタンドにおいて,1999-2OO4年に追跡調査を行い,植物群落の階層構造,種組成,植物体サイズ型の変化を比較した.  2. 調査地域の冷温帯上部から亜高山帯に成立するシラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計7タイプの植物群落を調査対象とした.  3. 1980-1985年と1999-2004年における植物群落の各階層の高さおよび植被率を比較した結果,全ての植物群落で草本層の高さまたは植被率が減少していた.さらに,森林群落では低木層の植被率が減少する傾向がみられた.  4. 1980-1985年と1999-2004年における総出現種数は471種から397種に減少し,奥多摩地域全体での植物種の多様性が低下していることが示唆された.  5. 1980-1985年から1999-2004年の間に,調査を行った全ての植物群落で種組成の変化が認められた.種組成の入れ替わりはミヤコザサ-シモツケ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集の順に高く,シラビソ-オオシラビソ群集,コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集では低かった.  6. 各植物群落の構成種を植物体サイズによって類型化し,その増減傾向を比較した結果,中型・大型の草本種に減少種が多く,小型の草本種と大型の高木種には増減のない種が多い傾向が全ての植物群落に共通してみられた.  7. スタンドあたりの出現種数はシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集,ススキ-ヤマトラノオ群集,ミヤコザサ-シモツケ群集の計5群落で減少していた.これらの群落では特に中型草本および大型草本のスタンドあたりの出現種数の減少が著しかった.また,森林群落のシラビソ-オオシラビソ群集,シオジ-ミヤマクマワラビ群集,ミズナラ-クリ群集ではスタンドあたりの低木の出現種数も減少していた.  8. コメツガ-ウラジロモミ群落,ブナ-ツクバネウツギ群集ではスタンドあたりの出現種数に変化がみられなかった.これらの植物群落ではスズタケの優占度の減少量と調査スタンドに新たに加入した種数の間に相関がみられることから,摂食によって種数が減少する一方,スズタケの優占度の低下に伴って新たな種が加入することにより,種数の変化がなかったものと考えられた.
著者
大野 啓一
出版者
奥田重俊先生退官記念会 = The Association to Commemorate the Retirement of Prof. Dr. Shigetoshi Okuda
巻号頁・発行日
2001-09

奥田重俊先生退官記念論文集 = Papers in Commemoration of Prof. Dr. Shigetoshi Okuda's Retirement
著者
久保 満佐子 島野 光司 崎尾 均 大野 啓一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.349-354, 2000-11-16
参考文献数
19
被引用文献数
7

渓畔林においてカツラの発生サイトおよび実生の定着条件を, 共存種であるシオジ, サワグルミと比較して明らかにした。カツラは砂礫地やリターのあるところでは発生せず, 主に鉱質土壌が露出しているところで発生していた。この原因として, カツラは種子や実生のサイズが小さいため, 砂礫やリターに埋もれてしまうこと, 砂礫地では乾湿の差が土壌面に比べ大きいことが考えられた。一方, シオジ, サワグルミは砂礫地であっても, またリターがあっても発生したが, これは両種の種子サイズが大型なため, 砂礫地やリターの堆積した立地でも地上に子葉を展開できること, 十分な長さの根を伸ばせることが原因と考えられた。1年生以上の実生の定着サイトで相対照度を比較した結果, カツラはサワグルミと同様, 15〜20%程度の相対照度が必要なのに対し, シオジは5〜10%でも生存できた。ただし, 土の露出した明るいサイトに多く発生するカツラの実生は, 大雨のときなどに土ごと流されることが多いため, 共存種のシオジやサワグルミに比べ実生による更新が困難なことが予想された。
著者
相田 美砂子 大野 啓一 岡田 和正 勝本 之晶
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

放射線による構成塩基の直接的損傷を調べるため、モデル分子として2-アミノ-3-メチルピリジンを対象とし、その窒素および炭素内殻領域での解離を調べた。その結果、特に窒素内殻イオン化が起こる励起エネルギーにおいて、窒素原子周りでの解離が顕著となる特徴的な反応が観察された。この系に対して提唱した解離機構は、2-, 3-, 4-ピコリンを用いた同様の実験によって支持された。DNA構成塩基のモデル分子として2-アミノピリジン類をとりあげ,紫外光による直接的損傷がどのように生じるのかについて,実験と理論計算から取り組んだ。低温マトリックス赤外分光システムに紫外線照射光学系を組み込み、光反応を追跡したところ,紫外光励起によってアミノ-イミノ互変異性が生じることを明らかにした。間接的損傷として,活性酸素による核酸塩基の修飾塩基をとりあげた。それらが,どのようなメカニズムでDNA損傷につながるのかを明らかにするために,精度の高い非経験的分子軌道法およびQM/MM法を用いた理論化学計算を行った。突然変異を引き起こす修飾塩基としてよく知られている8-オキソグアニンは,互変異性体の相対的安定性がグアニンとは大きく異なり,このことが突然変異能の一つの原因であることを明らかにした。DNA塩基の互変異性化に対する溶媒効果については,これまで系統的に調べられていなかった。そこで,様々な溶液中におけるモデル塩基の互変異性化を,赤外分光法と量子化学計算によって調べた。その結果,ピリドンやピリミジミノンおよびそれの誘導体の互変異性は溶媒の極性に大きく依存することを明らかにした。これらの結果は,DNA損傷をもたらす別の要因として,外部環境によるDNA塩基の互変異性化促進が重要であることを示している。