著者
崎尾 均 久保 満佐子 川西 基博 比嘉 基紀
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.226-231, 2013 (Released:2014-08-12)
参考文献数
29
被引用文献数
12

秩父山地においてはニホンジカの採食による森林への様々な影響が見られる。埼玉県秩父市中津川の渓畔林の林床植生の植被率は,1983 年には90% 程度であったが2004 年にはわずか3% にまで減少した。各種の個体数・被度も,ハシリドコロなど一部の有毒な植物を除いては全体的に減少した。調査地の周辺を含む秩父山地では2000 年以降にニホンジカの個体数の増加が報告されていることからも,本調査地の林床植生の減少は2000 年以降のニホンジカの急激な個体数密度の増加と関係していると考えられる。また,草丈が低い植物や生育期間の短い植物が比較的残存しており,植物種の生活史や形態によってもシカの採食の影響は異なる傾向が確認された。
著者
崎尾 均
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.465-471, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
93
被引用文献数
3 5

ハリエンジュは日本に導入されてから,山地砂防,海岸林や鉱山煙害地の緑化を目的として植栽されてきた。近年,これらのハリエンジュは河川流域を中心に分布を広げ,河川生態系に大きな影響を与えている。ハリエンジュの分布拡大には生活史特性が大きく関わっている。種子には休眠種子と散布後すぐに発芽できる非休眠種子がある。上流域のハリエンジュから散布された種子は洪水によって中下流域に散布され,新たに出現した河川の砂礫地で発芽し定着する。一旦定着したハリエンジュの実生の生長速度は早く,数年で開花結実する。この速い生長速度は高い光合成能力に依存している。ハリエンジュの実生は急速に伸長した水平根から根萌芽を発生させ分布を拡大している。このように,日本に導入されたハリエンジュは,その特異的な生活史特性によって急速に河川流域に分布を拡大してきた。
著者
崎尾 均 久保 満佐子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.643, 2005 (Released:2005-03-17)

カツラは冷温帯の渓畔林を構成する林冠木である。埼玉県秩父山地の渓畔林においては林冠木の10%を占めて点在しており、林内には稚樹や実生ははほとんどみられない。このカツラの更新機構を解明するために、繁殖戦略を中心に、生活史特性を明らかにした。 渓流に沿って距離1170m、面積4.71haの調査地を設定し、DBH>4cmの毎木調査を行なった。このときに幹の周りに発生している萌芽数も計測した。この調査地内の0.54haのプロットに20個のシードトラップを設置し、1995年から2004年まで10年間種子生産量を測定した。2000年から5年間は調査地内のすべての個体の開花・結実量を双眼鏡による目視で把握した。 10年間の種子生産には豊凶の差はあるものの、毎年大量の種子生産を行なっていた。雌雄の個体とも林冠木は毎年開花し結実していた。発芽サイトは粒子の細かい無機質の土壌か倒木上に限られており、それらの実生も秋には大部分が消失した。カツラの株は多くが周辺に萌芽を発生させており、主幹が枯死した後はこれらの萌芽が成長することによって長期間個体の維持をはかっていた。カツラの立地環境を把握した結果、かなり大きなサイズの礫上に更新していることが判明した。また、カツラの亜高木は、サワグルミが一斉更新した大規模攪乱サイトのパッチの中に位置し、樹齢もサワグルミとほぼ一致した。 以上の結果から、カツラの更新は毎年大量の種子を散布しながら、非常にまれな大規模攪乱地内のセーフサイトで定着し、萌芽によって長期間その場所を占有し続けることで成立していると考えられた。
著者
久保 満佐子 崎尾 均 須貝 杏子
出版者
島根大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

日本海にある隠岐諸島では,氷河期の遺存的な樹種が暖温帯に生育するのが特徴である。氷河期遺存樹種の分布を調べた結果,北方系針葉樹のヒメコマツは山地の露岩地,クロベは海岸から山地まで,第三紀遺存種のカツラは渓流沿いに分布していた。冷温帯樹種のミズナラは海岸から山地まで生育するものの島の北側に偏って分布し,北西の季節風の影響により冷涼で降水量の多い環境が生育地となっていると考えられた。さらに,遺伝的多様性を調べた結果,クロベは隠岐諸島を氷河期の避難地とした可能性があった。隠岐諸島は日本の気候変動における樹木の変遷を知る上で重要な島嶼であるといえる。
著者
崎尾 均
出版者
水利科学研究所
巻号頁・発行日
no.256, pp.31-54, 2000 (Released:2011-03-05)
著者
川西 基博 小松 忠敦 崎尾 均 米林 仲
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.90, no.1, pp.55-60, 2008 (Released:2008-10-15)
参考文献数
14
被引用文献数
2 3

人工林から天然性の渓畔林への誘導を目的とし,渓畔域に位置するスギ人工林において間伐およびリター除去を行い,植物の定着との関係を調査した。発芽した出現種数,発生個体数,生残個体数は無処理区や巻き枯らし区よりも皆伐区や間伐区で多い傾向があった。リターを除去した方が発生個体数,出現種数ともに有意に多かった。また,渓畔林構成種の出現種数は増加したものの,フサザクラなどの一部の樹種が優占し,シオジやサワグルミなどの主要樹種はみられなかった。草本植物の渓畔林構成種はわずかしかみられなかった。伐採や林床処理によって天然更新が可能であると考えられたが,天然性渓畔林に近い林分へ誘導するためには,長期的な研究を行い,その結果によっては,一部の種の植栽や播種による導入も検討する必要がある。
著者
比嘉 基紀 川西 基博 米林 仲 崎尾 均
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.451-456, 2015 (Released:2016-04-19)
参考文献数
25
被引用文献数
1

日本の主要河川では,侵略的外来種ハリエンジュの分布拡大が問題となっている。本研究では,埼玉県荒川河川敷のハリエンジュ若齢林の伐採跡地で刈り取り試験を行い,本種の刈り取りによる管理について検討した。2007年 1月に伐採跡地に刈り取り頻度 (年 1~3回) の異なる調査区を 10個設置した。5年間試験を行い,処理間で萌芽再生量の経年変化を比較した。年 1回処理区では開始翌年にすべての調査区で萌芽再生量が増大した。3年目以降は,萌芽再生量は減少傾向にあったが,初年度と大きな差は認められなかった。一方,年 2,3回処理区では,開始翌年から萌芽再生量の減少が認められたことから,刈り取りを継続することで萌芽再生量は抑制できると考えられる。萌芽再生量の減少率をもとに萌芽再生量が 0.1 kg/100 m2となるまでの年数を推定した結果,年 2回以上の刈り取り区では 6~8年間であった。しかし,調査地周辺は明るく開けており,刈り取りを停止すると萌芽が再生する可能性がある。このため,実際にハリエンジュを枯死させるためには作業をさらに数年程度継続する必要があると推察される。
著者
崎尾 均 川西 基博 比嘉 基紀 崎尾 萌
出版者
日本緑化工学会
雑誌
日本緑化工学会誌 (ISSN:09167439)
巻号頁・発行日
vol.40, no.3, pp.446-450, 2015
被引用文献数
1

外来樹種ハリエンジュの除去方法を検討するために,巻き枯らし(環状剥皮) 処理を行い,9年間に渡って調査を行った。巻き枯らし後,地上部の幹や水平根から萌芽が発生したが,伐採と比較して根萌芽の発生量は少なかった。萌芽の除去の回数を検討した結果,1年間に 2回以上行えばハリエンジュを枯死させることができると考えられた。また,ハリエンジュは水平根によって個体間で接続している場合があるため,林分全体の個体に対して巻き枯らしを行うことで,効果的に枯死させることができると予想された。以上の結果から,巻き枯らしはハリエンジュの除去に有効な手段であることが示された。
著者
福田 真由子 崎尾 均 丸田 恵美子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.387-395, 2005-08-31
参考文献数
25
被引用文献数
14

日本の河川敷で分布しているハリエンジュの種子繁殖とその初期侵入過程を明らかにするため、定着初期のハリエンジュ群落が成立する埼玉県の荒川中流域の中州において、2001年9月-2003年12月の期間に追跡調査を行った。その結果、ハリエンジュは春の発芽は見られないが、期間中に台風により中州が水没して土砂の供給を受けた各3回の増水の後、新たな堆積物上に一斉に発芽が見られ、河川敷で種子繁殖していることが明らかとなった。増水の時期が異なる3つの当年生実生集団の最終個体重を比較した結果、増水の時期が早いほど発芽当年の最終個体重は大きくなり、また最終個体重が大きくなるほど翌年までの生存率が高くなる傾向が見られた。そして遅くても9月の増水によって発芽することが定着のためには必要であることがわかった。増水後に発芽した実生は、粗砂からなる粒径組成の堆積物に集中して見られ、このような堆積物はハリエンジュの発芽に適した条件を備えているといえる。
著者
山本 福壽 崎尾 均 長澤 良太
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

ハリケーンの高潮により、湿地林では在来樹種のヌマスギやヌマミズキ林が被害を受け、外来のナンキンハゼとセンダンが繁茂していた。時空間的解析、現地調査、および生理的実験からナンキンハゼの耐水性、耐塩性は在来樹種に拮抗することを確認した。この結果ミシシッピ氾濫原では、大規模攪乱によりナンキンハゼは急速に分布域を拡大する可能性が示唆された。センダンは耐水・耐塩性は小さいが、局所的に純林を形成していた。
著者
久保 満佐子 島野 光司 崎尾 均 大野 啓一
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.349-354, 2000-11-16
参考文献数
19
被引用文献数
7

渓畔林においてカツラの発生サイトおよび実生の定着条件を, 共存種であるシオジ, サワグルミと比較して明らかにした。カツラは砂礫地やリターのあるところでは発生せず, 主に鉱質土壌が露出しているところで発生していた。この原因として, カツラは種子や実生のサイズが小さいため, 砂礫やリターに埋もれてしまうこと, 砂礫地では乾湿の差が土壌面に比べ大きいことが考えられた。一方, シオジ, サワグルミは砂礫地であっても, またリターがあっても発生したが, これは両種の種子サイズが大型なため, 砂礫地やリターの堆積した立地でも地上に子葉を展開できること, 十分な長さの根を伸ばせることが原因と考えられた。1年生以上の実生の定着サイトで相対照度を比較した結果, カツラはサワグルミと同様, 15〜20%程度の相対照度が必要なのに対し, シオジは5〜10%でも生存できた。ただし, 土の露出した明るいサイトに多く発生するカツラの実生は, 大雨のときなどに土ごと流されることが多いため, 共存種のシオジやサワグルミに比べ実生による更新が困難なことが予想された。