- 著者
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大﨑 裕子
- 出版者
- 数理社会学会
- 雑誌
- 理論と方法 (ISSN:09131442)
- 巻号頁・発行日
- vol.32, no.1, pp.35-48, 2017 (Released:2017-07-19)
- 参考文献数
- 19
多くの主観的ウェル・ビーイング研究において,経済的な豊かさの向上が主観的ウェル・ビーイングの上昇に必ずしも結びつかないことが報告される一方で,近年,経済的な豊かさ以外の要因としてソーシャル・キャピタルのもつ可能性に関心が集まっている.本研究は,ソーシャル・キャピタルのうちとくに一般的信頼に着目し,主観的ウェル・ビーイングにおける経済的豊かさの限界を補完する可能性を検討した.その方法として,東京都に住む1,033人の個人レベルデータをもちい,従属変数を生活満足感,独立変数を一般的信頼と経済的安心とする回帰分析をおこなった.その際,これら2要因が生活満足感を高める効果に対し客観的な所得レベルが与える影響について,交互作用効果を検討した.分析の結果は以下のとおりである.(1)所得レベルが高い人ほど,経済的安心が生活満足感を高める効果は小さい.(2)所得レベルが高い人ほど,一般的信頼が生活満足感を高める効果は大きい.すなわち,所得が高い人々は低い人々に比べて,経済的安心から得られる生活満足感は少なくなり,それを補完する形で,一般的信頼が生活満足感の向上により強く結びつくことが明らかとなった.以上の結果から,理論的および政策的含意について論じた.