- 著者
-
天ヶ瀬 紀久子
- 出版者
- 公益社団法人 日本薬学会
- 雑誌
- ファルマシア (ISSN:00148601)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.8, pp.775, 2021 (Released:2021-08-01)
- 参考文献数
- 5
自己免疫疾患の1つである多発性硬化症(multiple sclerosis: MS)は,脳および脊髄における散在性の脱髄斑を特徴とし,脱髄による神経伝達障害が視力障害,運動障害,感覚障害,認知症,排尿障害などさまざまな神経症状を引き起こすが,その発症原因は明らかでない.近年,腸内細菌叢の宿主に対する生理学および病理学的役割が注目されており,炎症性腸疾患,精神・神経疾患,免疫および代謝内分泌疾患などさまざまな疾患での研究が進められている.MSにおいても,2011年に健常人の糞便微生物移植によりMS患者の症状改善が報告され,患者の腸内細菌叢とMS発症および増悪との関係性が明らかになりつつある.現在,腸内細菌によるMSの増悪にはヘルパーT細胞のサブセットTh17細胞の分化誘導が関与すると考えられているが,その詳細は明らかでない.今回紹介する論文では,MSモデルであるマウス実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis: EAE)を用い,2種の腸内細菌が協調して疾患の発症と増悪を促進することを報告している.なお,本稿は下記の文献に基づいて,その研究成果を紹介するものである.1) Borody T. J. et al., Am. J. Gastroenterol., 106, S352(2011).2) Cosorich I. et al., Sci. Adv., 3, e1700492(2017).3) Miyauchi E. et al., Nature, 585, 102-106(2020).4) Jangi S. et al., Nat. Commun., 7, 12015 (2016).5) Mangalam A. et al., Cell Rep., 20, 1269-1277(2017).