著者
富澤 崇
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2020-003, 2020 (Released:2020-04-02)
参考文献数
18

テクノロジーの進歩,制度改革,社会構造や価値観の変化を受け,薬剤師の職務内容や範囲,薬剤師の需給バランスが変わっていくと考えられる.したがって,薬学部出身者としての職業人生を豊かなものにするためには,将来に向けたキャリアデザインが必要である.しかしながら,薬学生・薬剤師はキャリアデザインの必要性を感じていないのではないだろうか.そこには,キャリア教育を充実させる意識が大学に欠けていることが根本的な原因として考えられる.その解決のためには,自己を知ること,労働市場を知ること,労働とは何か,キャリアとは何かなどを学習するためのカリキュラムを構築すること,薬剤師のキャリアに関する研究を推進すること,そしてキャリア教育の必要性を認知させるために,学会やメディアを通じて大学教員に啓発活動を行うこと,があると考えられる.
著者
青島 周一
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2019-022, 2020 (Released:2020-04-24)
参考文献数
12

前景疑問に向き合う上で,EBM(Evidence-based Medicine)は優れた方法論の一つですが,臨床医学に関する継続的な学びを実践していくうえでも有用です.とはいえ,EBMスタイルで学ぶことにも,いくつかの障壁が存在します.本稿ではEBMスタイルでの学習を妨げている要因を考察しながら,その障壁を乗り越えるために設立された「薬剤師のジャーナルクラブ」の取り組み概要と,教育プログラムとしての有用性について論じます.
著者
北澤 京子 佐々木 順一 中山 健夫
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.2017-007, 2017 (Released:2017-12-01)
参考文献数
16

6年制薬学部・薬科大学におけるEvidence-Based Medicine(EBM)教育の実態を把握する目的で質問紙調査を実施した.教員268人に調査票を送付し,72校の191人から回答を得た(回答率71.3%).EBMに関する50の主要キーワードのうち,研究デザイン(ランダム化比較試験,前向きコホート研究,後ろ向きコホート研究,症例対照研究)や研究結果の指標(オッズ・オッズ比,相対リスクと絶対リスク)は,ほとんどの大学で教育されていた.一方で,臨床推論,ランダム化比較試験の患者への適用,システマティック・レビューの批判的吟味,および診療ガイドラインの作成手順と解釈に関するキーワードは,教育している大学が少なかった.EBM教育が「充実している」との自己評価は32.2%にとどまり,主な課題として,時間不足,演習・実習の機会の不足,教員の意識・スキルの不足,適切な教材の不足が挙げられた.
著者
宮田 靖志
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
pp.2021-044, (Released:2022-04-12)
参考文献数
29

プロフェッショナリズム教育には,アンプロフェッショナルな行為をしないという最低限の目標と,常に高みを目指すという向上心的目標の2つの学修目標を見据える必要がある.向上心的目標のためには,規範に基づいた教育からナラティブに基づいた教育への視点の転換が重要であり,これにはロールモデル,自己の気づき(省察),ナラティブ能力,コミュニティ・サービスが挙げられる.学修者には,これらにより,実際の臨床経験を通じて患者・住民・社会の期待を実感することが求められ,このことがプロフェッショナルとしてのアイデンティティ形成につながる.また,社会のニーズに応えるという社会的説明責任を学んでいくことにもつながる.そして,個人・対人・社会レベルにおけるプロフェッショナリズムを考え,複雑で混沌とした医療状況の中で悪戦苦闘しながら課題解決に当たる省察的実践家である真のプロフェッショナルを養成することを,医療専門職教育者は考える必要がある.
著者
西村 奏咲 清水 忠
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-009, 2021 (Released:2021-03-23)
参考文献数
7
被引用文献数
1

KH Coderを用いたテキストマイニングにおいて,筆者らが試みた具体的な分析手順や注意点を交えながら述べる.2018年に実施した化学構造式研修会の受講者を対象として,選択式および自由記述式の項目からなるアンケート調査を実施し,アンケート用紙から得られた自由記述中の語句の関係を検討するために共起ネットワーク分析を行った結果,研修内容に対する理解度にばらつきが生じていることが示唆された.理解度の差による自由記述内容の違いについて検討するため,自由記述内容と研修に対する自己評価による理解度との対応分析を行った結果,理解できた点および理解できなかった点に関する自由記述内容は,受講者の自己評価による理解度別で異なっており,我々が想定した各テーマの難易度と,受講者が実感した各テーマの難易度は一致していたことが示唆された.テキストマイニングを行う際には,実施者が明らかにしたい意図に応じて分析手法を使い分けたり組み合わせたりすることにより,テキストデータのより深い解析が可能となると考えている.
著者
今福 輪太郎
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2020-002, 2021 (Released:2021-03-23)
参考文献数
15

質的研究の目的は,研究対象となる当事者の視点から見える事象や人々との関わり,その人の心情などの内面的世界を理解することにあり,事実に対する「良い」「悪い」の評価基準は保留することが重要である.医療者教育の分野においても質的研究への関心が高まり,質的研究を「やってみよう」「やってみたい」と思う人が増えてきている.しかしながら,それに比例して,「どんなリサーチ・クエスチョンを立てたらいいのか」「何人からデータを収集すればいいのか」「数値に表しきれない膨大なデータが蓄積されていくだけでこの先どうすればいいのか」「分析手順がわからない」など,質的研究を始めてはみたものの壁にぶつかる人も多くいるだろう.本稿では,質的研究を実施する中でしばしば生じる疑問に答えながら,質的研究の位置づけや目指すものを整理し,その基本理念や方略について考察していく.
著者
上田 昌宏 大原 隆司 高垣 伸匡 伊藤 栄次 大森 志保 清水 忠
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.2018-041, 2019 (Released:2019-12-26)
参考文献数
13

薬剤師が信頼性の高いプロトコールを作成するために,診療ガイドラインだけでなく,推奨文の根拠となっているシステマティックレビュー(SR)論文を評価・活用することが求められる.しかし,大学教育および生涯研修においてSR論文の評価と活用に関する実践的な教育についての報告はごく限られている.本研究では,SR論文の評価と活用を志向したワークショップの実践による知識習得度の変化と受講者のEBMの実践可能性への意識とワークショップの理解満足度について調査した.知識習得度確認試験の受講後の平均点は受講前に比べ有意に向上した(9点満点,Pre:2.29点,Post:5.16点,p < 0.001).本研究により,SR論文の評価と活用を志向したワークショップは受講者のSR論文の評価に対する知識習得度の向上およびEBMの実践可能性に対する意識づけに寄与することが明らかとなった.
著者
藤田 快男 平井 一行
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2019-034, 2020 (Released:2020-06-23)
参考文献数
13

全国より収集されたレセプト情報は,レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)に格納されている.厚生労働省は汎用性が高く,様々なニーズに一定程度応えうる基礎的なデータをNDBより抽出し,NDBオープンデータとして2016年より公開した.この医療ビッグデータは全国規模での医薬品使用実績を知りうるエビデンスレベルの高い情報源であり,薬学教育に反映させることが有益であり,実状把握能力の育成が課題発見能力への発展に繋がると考えた.本稿では,年齢別処方実績,市場動向推移,複数の効能・適応を持つ医薬品に焦点を絞り,NDBオープンデータ・薬剤データの薬学教育への有用性と限界点について述べる.
著者
北原 加奈之 栗原 竜也 田中 広紀 柏原 由佳 縄田 修一 杉田 栄樹 内倉 健 佐々木 忠徳
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.2019-002, 2019 (Released:2019-09-19)
参考文献数
15

本邦では標準化された卒後臨床教育プログラムはなく評価方法も確立されていない.そこで,我々は薬剤師レジデントを対象として,英国で開発された臨床能力の評価方法の1つであるCase-based discussion(CbD)を実施し,成長過程を可視化し得るかを検証した.CbDは「薬物治療の必要性評価」等の5項目で評価した.薬剤師レジデント78名と,専門・認定薬剤師(Board certified pharmacists; BCP)5名を対象とした.CbDを実施した結果,5項目すべてのCbDスコアが病棟の経験と共に増加し,4項目が統計学的に有意であった.BCPのCbDスコアは,全項目で最高点の6であった.以上より,CbDは,本邦においても臨床能力の成長プロセスを可視化し,若手薬剤師の教育ツールとして臨床能力の評価に応用できる可能性が示された.今後,多施設を含めた更なる検討が必要である.
著者
今福 輪太郎
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
pp.2020-002, (Released:2021-01-20)
参考文献数
15

質的研究の目的は,研究対象となる当事者の視点から見える事象や人々との関わり,その人の心情などの内面的世界を理解することにあり,事実に対する「良い」「悪い」の評価基準は保留することが重要である.医療者教育の分野においても質的研究への関心が高まり,質的研究を「やってみよう」「やってみたい」と思う人が増えてきている.しかしながら,それに比例して,「どんなリサーチ・クエスチョンを立てたらいいのか」「何人からデータを収集すればいいのか」「数値に表しきれない膨大なデータが蓄積されていくだけでこの先どうすればいいのか」「分析手順がわからない」など,質的研究を始めてはみたものの壁にぶつかる人も多くいるだろう.本稿では,質的研究を実施する中でしばしば生じる疑問に答えながら,質的研究の位置づけや目指すものを整理し,その基本理念や方略について考察していく.
著者
上田 昌宏
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
pp.2022-029, (Released:2022-05-25)
参考文献数
5

2020年からのCOVID-19の感染拡大に伴い,教育は大きな転換期を迎えた.薬学教育においても,対面授業が大きく制限され,薬学部教員の多くが,慣れないオンライン教育の実施を余儀なくされた.このため,薬学部教員は,全くノウハウがない中でそれぞれが独自に取り組みを行う必要に迫られた.2020年度内から教育系の学会では,オンライン教育の実施に関する情報共有の場が設定された.しかし,その多くは,成功体験や構築例の報告であり,意図せぬ小さな失敗や間違い(しくじり)を共有する機会は限られていた.そこで筆者は,薬学部教員を対象として,オンライン教育における「しくじり」およびその対策に関する調査を実施した.その結果,9名のしくじり先生から,報告を受けた.本稿では,しくじり先生の経験談を紹介することで,オンライン教育における「しくじり」を振り返る.今後の教育に活用し,良い点は継続し,改善すべき点は良くすることで質の高い教育を実践するためのPDCAサイクルを進める一助になることを期待している.
著者
宮崎 誠
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.2022-058, 2023 (Released:2023-06-07)
参考文献数
15

本学6年次生の読解力を測定し,得られた能力と学内で実施された試験の成績および薬剤師国家試験成績との関係を検討した.読解力の偏差値は中央値が63程度であったが,一部には50に満たない者もいた.5年間の学内総合成績が低い者は『イメージ同定』の能力が低く,国家試験不合格者は合格者に比べて『推論』の能力が低かった.個々の学生の読解力の特徴から,学生を4つのタイプに分けることができた.『推論』,『イメージ同定』,『具体例同定』のいずれもが低いタイプでは5年間の学内総合成績も国家試験模擬試験成績も他のタイプに比べて有意に低かった.以上より,読解力が国家試験の合否に間接的にも影響している可能性が示唆され,薬学部における学生の教育・指導において読解力は考慮すべき基礎能力であると考える.
著者
大里 洋一
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.2022-014, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
9

薬学生の病院・薬局実習において,しばしば指導者が実習生の言動が理解できず思考停止になることがある.なぜ実習生の言動が理解できないのかを紐解いていくと,知識・技能に関する問題,態度や行動特性に関する問題,そして性格や価値観に関する問題に大別できる.さらに,指導側の薬剤師と実習生との間でコミュニケーション・ギャップが生じるのは知識・技能以外の問題が多いことに気づく.なぜなら,これらの学問は現役の指導薬剤師でも体系的な学習をしてこなかったからだ.しかし,態度や行動特性に関する学問の多くは体系化されているため,新たに学ぶことは可能である.また性格や価値観の捉え方もMBTI®など適切なツールを使えば理解することはできる.薬剤師は独自の専門性を維持しながらも,必要とされているスキルを身につけることが実習生とのコミュニケーションのみならず様々な関係者に貢献する上で重要であると思われる.
著者
上田 昌宏 安原 智久 串畑 太郎 栗尾 和佐子 曽根 知道
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
pp.2020-059, (Released:2021-01-29)
参考文献数
6

COVID-19の影響により対面授業が大きく制限され,すべての科目において学習方略の変更を余儀なくされた.本学は,コミュニケーションを育む上で特に重要な時期である1年次,4年次に,small group discussion(SGD)を伴う科目を多く設定している.そのためSGDを実施しない選択は,コミュニケーション能力を醸成する機会を失い,教育効果に大きな影響を与えると考えられる.そこで,複数の科目において,オンラインSGDを試みたので,その運用方法や方略を記す.さらに,ピア評価から得られた結果から,評価基準が発言頻度に大きく依存し,非言語コミュニケーションは評価の対象になる程には発揮されなかったものと推測される.SGDの本質的な役割は,非言語を含んだコミュニケーションを通じての問題解決能力を養うものである.詳細な検証を行えていないことに留意しつつも,本質的な意味でのオンラインSGDがもたらす教育効果は,対面でのSGDと同等なものになりえないものと考えられる.
著者
清水 忠 上田 昌宏 大森 志保
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.2017-021, 2018 (Released:2018-08-24)
参考文献数
13

近年,Evidence-based Medicine(EBM)の実践が薬学教育においても取り入れられるようになっている.今回我々は,薬学部3年次学生に対して実施した,講義および演習を組み合わせた授業方略について,学習効果の確認と改善点の抽出を行った.授業は,臨床疑問の定式化,医学論文の吟味,患者への適用,文献検索の順に行った.学習効果の評価は,8週目授業開始前のプレテスト,医学論文の吟味と適用まで終了した12週目の授業後に実施したポストテスト(19点満点)の結果を比較した.さらに,授業内容に対する受講生からの評価も行った.その結果,ポストテストの得点は有意に向上した(pre: 1.72 ± 1.89, post: 11.38 ± 4.16).本授業形態により受講生が受講後にEBMの概念や論文の吟味ポイントについての基本的知識を得ることはできたと考えられるが,受講生がエビデンスを活用して実践する能力を身につけたかについては,適切に評価できておらず,学習方略および評価方法を改善する必要がある.
著者
岩堀 禎廣
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.2023-016, 2023 (Released:2023-06-14)
参考文献数
2

第7回日本薬学教育学会における患者参加のシンポジウムの内容について演者と参加者を代表して報告する.薬学教育関係者及び薬学生は日本薬学教育学会には全員参加を基本とすべきである.現状,残念ながら薬学人のアイデンティティは「医学の後追い」「積極的な受け身の姿勢」「現状維持」「免許を持っている」である.現状の国家試験対策の講義は全てオンライン化し,対面の講義は全てPBL化すべきである.それに合わせて国家試験を改革する必要がある.現状の均質化を目指す薬学教育の副作用として個別対応力が欠如してしまっている.個々の患者に合わせた対応のためにはイマジネーションが必要であり,それを身に着ける教育学的方法論として最も有効なのが薬学教育における患者参加である.シンポジウムはオンラインの方が有効であったため,関係者の全出席を目指す意味でも学会はオンライン開催を基本とし,講義も含めて安易に対面に戻すべきではない.
著者
青江 麻衣 朴 炫宣 安原 智久 串畑 太郎 上田 昌宏 永田 実沙 江﨑 誠治
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2020-029, 2020 (Released:2020-12-25)
参考文献数
12

大阪大谷大学で,薬学生にとって基本となる50個の化合物を題材とした構造式かるたを作成した.その「かるた」を活用し,薬学部初年次学生を対象に,学習に対する動機付け及び有機化学の基礎となる事項の理解や知識の定着につながるよう学習方略を立案・実践し,試験とアンケートにより評価した.アンケート結果を用いたクラスター分析より,学生は4つのクラスターに分けられた.また,自由記述について,各クラスターを目的変数として対応分析を行った結果,化学を好きと評し,「かるた」への興味をもつ傾向にある成績上位群では「復習-新しい-知識」,化学を嫌いと評する傾向にある成績下位群では「構造-覚える」などの抽出語との関連が確認された.これより,本方略を知識定着への手段とした群や「かるた」の内容の短期記憶の手段とした群などを見出すことができ,成績下位群ほど,短期記憶に頼る傾向がみられることが明らかとなった.
著者
孫 大輔
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
pp.2022-006, (Released:2022-04-12)
参考文献数
25

医療におけるプロフェッショナリズムの主要な要素として,卓越性,人間性,説明責任,利他主義があるが,共感(empathy)は人間性に含まれる重要な要素である.医療者の共感の代表的な定義に「患者の内的経験および視点を理解し,患者にその理解を伝える能力を伴う認知的属性」というものがある.医学教育によっていかに学習者の共感を涵養できるかは大きな課題である.患者が語る病いの物語(ナラティブ)を医療に応用する能力,すなわち「ナラティブ・コンピテンス(物語能力)」が共感教育の鍵となる.患者ナラティブの活用手法として,患者の語りデータベース「ディペックス(DIPEx)」があり,インターネットで視聴できる.また,当事者に体験を語ってもらう「患者講師(patient storyteller)」の養成も重要である.ディペックス動画や患者講師を授業に活用した事例では,学生が患者の苦悩や心理の理解に迫っており,共感の涵養につながる可能性が示唆された.
著者
上田 昌宏 清水 忠
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.2019-033, 2020 (Released:2020-04-24)
参考文献数
15
被引用文献数
2

本研究では,受講生が主体的に論文を評価し,論文データの活用を学習できるチーム基盤型学習(team-based learning: TBL)を取り入れた授業コースにより受講生の論文評価能力が向上するかについて検証を行った.TBL 1回目と2回目の個人準備確認試験(iRAT)を比較した結果,2回目のiRATの平均点が(1回目:4.60 ± 2.11,2回目:6.49 ± 2.11,平均点の差:1.88[95%CI, 1.45–2.31])向上した.アンケートの単純集計から,受講生はチーム議論よりも試験解説で論文内容を理解できたと評価し,EBMの理解においては応用課題演習が重要であると評価していることが示された.さらに,因子分析とiRATの結果から,論文を理解できたと自己評価した受講者はiRATの得点が高い傾向にあった.以上のことから,TBLを取り入れた論文評価学習コースは,EBM実践に必要な論文評価能力の向上に寄与することが明らかとなった.
著者
木下 淳 山田 勉 安原 智久 清水 忠
出版者
一般社団法人 日本薬学教育学会
雑誌
薬学教育 (ISSN:24324124)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.2021-012, 2021 (Released:2021-06-09)
参考文献数
19

これまでの薬学教育研究の成果の多くは,大学単位で実施された研究成果に基づくものであり,測定方法や評価基準が大学ごとに異なることから,複数の研究成果を比較検討することが困難である.本プロジェクトでは,薬剤師に求められる基本的資質のうち「コミュニケーション能力」について,学習成果の測定方法および評価基準の統一化と大学間での測定結果の比較,さらには各大学における研究成果を用いたコンピテンシーへの到達度に関するメタアナリシスおよびシステマティック・レビューの作成を目指している.この総説では,オーガナイザーからシンポジウム開催の経緯を述べたのち,シンポジストより教育や内部質保証における「測定と評価」の意義と要点,教育を支えるメタアナリシスを目指す意義について述べたうえで,シンポジウム当日の議論について読者と共有したい.