著者
永野 和男 天花寺 博司
出版者
日本教育工学会
雑誌
日本教育工学雑誌 (ISSN:03855236)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.1-11, 1986-12-20

学習反応データの処理については,これまで統計的手法が主であったが,学習診断においては,教師の扱っている情報のほうが,実際にコンピュータにデータ化し入力できる情報より質・量ともに上回っているため,教師が主観的に判断した値や,判断過程そのものをパラメータとして扱えるようにする必要がある.本研究では,学習項目の関連情報と学習反応データをあらかじめ蓄積しておいた場合に,これに基づいて,教師の学習診断をシミュレートするシステムを開発した.このシステムは,1)会話形式で定義した項目関連構造から自動的に診断ルールを生成し,これを用いて診断を実行する,2)学習反応データに対応する下位目標の達成度を求める場合には,必ず教師の主観的判断を問い合わせる,3)判断ルールを蓄積しておき,以後の診断に再利用できる,4)教師でも利用できるように,なめらかな日本語会話で動作する,の特長をもつ.このシステムが実用にたえるものであるかを評価するために,実際の中学校数学の授業で収集した34時間分の学習データを用いて,1クラス全員について,診断を試みた.その結果,ほとんど教師の予測と一致した診断結果が得られた.このシステムは,教師の入力した診断ルールにより,診断過程をシミュレートしていることになるが,エキスパートシステムのようにベテラン教師の診断をまねるのではなく,教師自身に診断過程を明示し,意識化させる訓練システムとしての機能ももつことがわかった.