著者
奥埜 博之 西島 勇 塚本 哲朗 河島 則天
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11047, (Released:2016-04-06)
参考文献数
11

【目的】すくみ足(以下,FOG)はパーキンソン病の主要な運動障害のひとつである。FOG の適切な評価はきわめて重要であるが, その程度を客観的に示し得る有効な評価方法が存在しない。本研究ではFOG を簡便かつ定量的に評価できる方法を考案することを目的とした。【方法】16 名のパーキンソン病患者に対し,間口を自身の快適歩行速度で通り抜ける歩行課題を実施した。間口幅は40 cm から10 cm 刻みで100 cm までの7段階で設定し,間口通過の所要時間とステップ数を計測した。【結果】間口幅の減少に伴ってステップ数が増加,所要時間が遅延する傾向が認められ,その関係性は一次直線回帰によって近似可能であった。また,UPDRS スコアのPart Ⅲとの関連は,所要時間との間に有意な相関(r = 0.56, p < 0.05)がみられた。【結論】今回提案した方法は,歩行時間とステップ数という簡便な計測変数であり,歩行評価に即時活用できるものと考えられる。
著者
奥埜 博之 菅沼 惇一 橋本 宏二郎 河島 則天
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.44 Suppl. No.2 (第52回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1595, 2017 (Released:2017-04-24)

【はじめに,目的】長期臥床などによる廃用症候群を呈する症例の場合,運動機能の減退や訓練意欲の低下などによって理学療法介入に困難を伴うことが多い。本研究では廃用症候群を呈した2症例に対して,姿勢調節に関わる残存機能の賦活を企図した重心動揺リアルタイムフィードバックを用いた介入を試みたので報告する。この方法は,立位姿勢時の足圧中心(COP)の前後変位をフィードバック信号として床面をリアルタイムに動揺させ,姿勢動揺量を操作的に減弱(in-phase条件),あるいは増幅(anti-phase条件)させることで,立位姿勢調節の改善を図るものである。今回は,重心動揺を増幅させるanti-phase条件を用いて,潜在的に保持している脊髄反射系の賦活を狙いとした介入を行い,重心動揺特性及び筋活動の変化の観点から,その効果について検討することを目的とした。【方法】対象は本研究に同意を得た廃用症候群症例2名とした。症例1(70歳代女性)の特徴は,心不全後の臥床による廃用症候群で立位が不安定となり,後方に重心を移動させた際には立位姿勢の保持が困難であった。症例2(70歳代男性)の特徴は,転倒歴が多く左上腕骨近位端骨折を受傷し,骨折後の活動量の低下により廃用症候群を呈し,歩行には見守りが必要な状態であった。対象者には,重心動揺リアルタイムフィードバック装置(BASYS,テック技販社製)上に立位姿勢を取るよう指示を与え,開眼静止立位を30秒間実施した。立位姿勢に対する介入として,足圧中心の前後方向と逆方向にフィードバックを与えることにより,動揺量を増幅させる設定(anti-phase)を用いた。フィードバックゲインはCOP動揺量の5%,10%,15%の3段階とした。1症例目はanti15%では,立位困難となったため5%及び10%のみの介入とした。各試行30秒を1セットとし,介入前の静止立位,anti-phase条件(5%,10%,15%),介入後の静止立位を測定した。介入効果の評価には,静止立位姿勢時のCOPと筋電図(前脛骨筋,ヒラメ筋)の計測を実施した。【結果】症例1は介入後に,前後方向の平均値は前方に変位し,95%信頼楕円面積,前後の動揺範囲,LF/HF,前脛骨筋及びヒラメ筋の活動量は減少し,後方への重心移動時の立位の保持が可能となった。症例2も介入後にCOP動揺の前後方向の平均値は前方に変位し,動揺速度,95%信頼楕円面積,前後の動揺範囲,LF/HF,前脛骨筋及びヒラメ筋の共収縮に減少を認め,歩行は自立レベルとなった。【結論】本研究の結果は,廃用症候群を呈した症例に対してanti-phase条件での介入を行うことで,下腿筋の共収縮が減弱するとともに,脊髄反射による自律的な姿勢制御が促されたことを示唆するものであった。この方法は,患者自身は装置上に通常の立位姿勢をとるのみで,特別な教示や課題に関する努力要求を要しない。すなわち,BASYSを用いたanti-phase条件での介入は,廃用による立位不安定性を呈する症例に効果的な介入手段となり得る可能性が示された。
著者
奥埜 博之 西島 勇 塚本 哲朗 河島 則天
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.241-246, 2016 (Released:2016-06-20)
参考文献数
11

【目的】すくみ足(以下,FOG)はパーキンソン病の主要な運動障害のひとつである。FOG の適切な評価はきわめて重要であるが, その程度を客観的に示し得る有効な評価方法が存在しない。本研究ではFOG を簡便かつ定量的に評価できる方法を考案することを目的とした。【方法】16 名のパーキンソン病患者に対し,間口を自身の快適歩行速度で通り抜ける歩行課題を実施した。間口幅は40 cm から10 cm 刻みで100 cm までの7段階で設定し,間口通過の所要時間とステップ数を計測した。【結果】間口幅の減少に伴ってステップ数が増加,所要時間が遅延する傾向が認められ,その関係性は一次直線回帰によって近似可能であった。また,UPDRS スコアのPart Ⅲとの関連は,所要時間との間に有意な相関(r = 0.56, p < 0.05)がみられた。【結論】今回提案した方法は,歩行時間とステップ数という簡便な計測変数であり,歩行評価に即時活用できるものと考えられる。
著者
壹岐 伸弥 大住 倫弘 赤口 諒 谷川 浩平 奥埜 博之
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.937-941, 2017 (Released:2017-12-20)
参考文献数
12

〔目的〕日常生活動作は概ね自立しているも在宅復帰に対する不安を強く訴えた症例の要因について明らかにすること.〔対象と方法〕対象は橋延髄梗塞によりWallenberg症候群を呈した患者 1 名.一般的な理学療法評価に合わせて,入院時から退院までの約150日間,1週間ごとに①10 m歩行試験,②自己効力感,③不安と抑うつ,④状態-特性不安の評価を実施した.〔結果〕10 m歩行試験と不安・状態不安,自己効力感と③・④との間に負の相関を認め,10 m歩行試験と自己効力感の間に正の相関を認めた.また,片脚立位時間の延長に伴いできる日常生活動作も拡大した.〔結語〕退院に向けて心身能力の改善が不十分であった症例に対して,前庭機能に着目した介入や心理面への考慮が必要であった可能性が示唆された.
著者
生野 達也 奥埜 博之 信迫 悟志 川見 清豪 山田 真澄 塚本 芳久
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.36 Suppl. No.2 (第44回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.B3P3285, 2009 (Released:2009-04-25)

【はじめに】Pusher現象は、リハビリテーションの主要な阻害因子の一つである.KarnathらはPusher現象について、開眼時の視覚的垂直認知(以下SVV)はほぼ鉛直であるが閉眼時の身体的垂直認知(以下SPV)が健側へ偏倚していると報告しており、感覚モダリティによって垂直認知が異なることを示した.治療は、視覚を用いたSVVに関する報告は多いが、体性感覚を用いたSPVに関する報告は少ない.今回、閉眼時のSPVが健側へ偏倚している症例に対して、体性感覚を用いた治療アプローチを行ったので報告する.【自己身体の垂直性を認知する過程と観察の視点】1.注意を向けることによってはじめて体性感覚野の再組織化が起こる(Recanzone).2.身体の左右両側に受容野をもつニューロンが存在し身体正中部の情報を収集する(Iwamura).3.体性感覚と視覚を統合して空間内における身体像を符号化する(Iwamura).以上の知見より、SPVには患側の体性感覚に注意を向けて認知する能力と、左右の体性感覚を比較照合する能力について評価・観察することが不可欠である.【症例紹介】60歳代(女性) 診断名:脳梗塞(H20.8.2発症) 障害名:左片麻痺、左半側空間無視、注意障害 Pusher重症度分類:6.端座位ではPusher現象あり中等度介助レベル.開眼時のSVVはほぼ鉛直.閉眼時のSPVは健側へ偏倚.表在・深部感覚は重度鈍麻しているが、右側の触・圧覚に注意を向けた後であれば左側での識別が若干改善する.なお、本発表は症例の同意を得て行った.【病態解釈と訓練】本症例は、左上下肢の深部感覚に加え、左側殿部・足底部の触・圧覚を十分に細かく認知することが困難であり、左右からの体性感覚情報の収集に問題が生じた結果、SPVが変質したと考えた.訓練は、体性感覚の左右比較の基準を作ることを目的に、まず硬度の異なるスポンジを用いて右側殿部・足底部で触・圧覚に注意を向けた後に、左側殿部・足底部で硬度の異なるスポンジの認識する課題を通じて触・圧覚を弁別する課題を行った.左側触・圧覚の認知が可能になると共に左右比較を行った.前述の課題を通じて閉眼座位でSPVの偏倚が修正された後に、SVVとSPVを比較照合する課題を行った.【結果および考察】訓練一回毎の前後で変化が認められた.左側触・圧覚の認知が向上すると共に閉眼時のSPVは鉛直へと変化した.左半側空間無視・注意障害:軽減、Pusher重症度分類:2.端座位見守りレベル.SVVとSPVはほぼ一致した.注意を向ければ触・圧覚の左右比較が可能.本症例は感覚鈍麻に加え、左側殿部・足底部の触・圧覚に注意が向かずSPVが偏倚していた.体性感覚に注意を向け、必要な情報を選択できるようになり、左側殿部・足底部の触・圧覚の認知が可能になると共にSPVが再構築されたと考えた.
著者
壹岐 伸弥 大住 倫弘 赤口 諒 谷川 浩平 奥埜 博之
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.937-941, 2017

〔目的〕日常生活動作は概ね自立しているも在宅復帰に対する不安を強く訴えた症例の要因について明らかにすること.〔対象と方法〕対象は橋延髄梗塞によりWallenberg症候群を呈した患者 1 名.一般的な理学療法評価に合わせて,入院時から退院までの約150日間,1週間ごとに①10 m歩行試験,②自己効力感,③不安と抑うつ,④状態-特性不安の評価を実施した.〔結果〕10 m歩行試験と不安・状態不安,自己効力感と③・④との間に負の相関を認め,10 m歩行試験と自己効力感の間に正の相関を認めた.また,片脚立位時間の延長に伴いできる日常生活動作も拡大した.〔結語〕退院に向けて心身能力の改善が不十分であった症例に対して,前庭機能に着目した介入や心理面への考慮が必要であった可能性が示唆された.
著者
橋本 宏二郎 足立 淳二 菅沼 惇一 奥埜 博之 河島 則天
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2015, 2016

【はじめに,目的】脳卒中患者では,片側性の運動麻痺による麻痺側の支持性低下などによって,左右非対称な立位姿勢をとるケースが臨床上多くみられる。また,感覚障害を伴う場合には,立位姿勢を維持する上での残存機能が十分であるにも関わらず,患側からの感覚フィードバックを有効に活用できないことが一因となり,健側への過度な依存を示すケースが散見される。本研究では,脳卒中片麻痺患者の立位姿勢時の左右非対称性を改善するための1手段として,重心動揺リアルタイムフィードバック装置を用いて左右方向の重心動揺量を操作的に減弱させ,患側への荷重配分を促す介入的アプローチを行い,その有効性を検証したので報告する。【方法】対象は当院でリハビリテーションを実施している脳卒中片麻痺患者9名(左麻痺3名,右麻痺6名)であった。全症例,手放しで立位保持が可能であり,軽度の感覚障害を呈していた。立位時における患側への荷重配分を促し,立位姿勢の安定性を高めることを目的として,重心動揺リアルタイムフィードバック装置(BASYS,テック技販社製)を用いた介入を実施した。対象者は装置上で足部位置を左右対称に規定した立位姿勢をとり,左右方向の重心移動を行うよう指示を与えた。この時,足圧中心(Center of Pressure:COP)の左右方向の変位に応じて,COPと同方向(in-phase)に床面を動作させることで動揺量を減弱させるフィードバック操作を与えた。設定を段階的にCOP動揺量の約5%,10%,15%と増加させることで左右方向の動揺量の拡大と,健患側への均等な荷重配分を企図した調整的介入を行った。介入効果の評価として,30秒間の静止立位および随意的な左右動揺時のCOP計測をサンプリング周波数1000Hzにて実施した。評価項目は,COPの95%楕円信頼面積,総軌跡長,COP動揺の前後左右の平均位値,及び最大範囲とした。介入前後の平均値の差の検定には対応のあるt検定を用い,有意水準は5%とした。【結果】in-phase条件(5%,10%,15%)での介入により,介入前後の静止立位時においてCOP左右方向の平均位置が有意に変化した(p<0.05)。全症例の内訳を見ると,9名中7名(うち3名は介入前より麻痺側への荷重優位)においてCOPの患側方向へのシフトを認めた。また,統計的有意差はないも95%楕円信頼面積で9名中5名,総軌跡長で6名が減少を示した。随意的な左右動揺時の左右最大値では介入前後で6名が麻痺側へのCOP増大を示した。【結論】脳卒中片麻痺患者では,片側性の運動感覚麻痺の影響から左右非対称の立位姿勢を呈し,本来的な左右対称的な姿勢調節を行うことに困難を伴うことが想定される。本研究で実施した重心動揺リアルタイムフィードバックは,本人の明確な意図を伴うことなく左右方向の重心移動量を拡大し,残存機能を活用した患側への荷重配分を実現しようとするもので,より適切な立位姿勢戦略を実現する上での調整的介入の手段となる可能性が示唆された。