著者
妹尾 麻美 三品 拓人 安田 裕子
出版者
日本質的心理学会
雑誌
質的心理学研究 (ISSN:24357065)
巻号頁・発行日
vol.20, no.Special, pp.S140-S147, 2021 (Released:2022-04-28)

本研究では,予期せぬ妊娠を経験した女性が子どもを「産む」と決めた事例を,キャロル・ギリガンの議論から示唆を受けたケアの倫理を用いて,分析・考察する。これまでの研究は女性の「産まない」決定に焦点を当ててきたが,「産む」決定について十分には論じてこなかった。そこで,いばらきコホート調査による妊娠女性 48人への聞き取り調査のうち,「産む」決定について語られた 1 人の女性に焦点を当てる。女性は不安や苦悩を抱えながらも,身近な他者と話しあい,ときに拒絶もありつつ交渉し「産む」ことを決める。このプロセスのなかで, 女性は自分のこと,周囲の他者のことを考え,自他に配慮しながら責任を引き受けていた。それに対し,周囲の他者も女性の声に応答・配慮しており,ここにはケアの応酬が見られた。本研究では,女性とその周囲のケアの実践によって「産む」ことに対する不安を解消し,それを引き受けていくプロセスを示した。この結論から,互いへの配慮を基盤とする場の形成を促す必要が示唆される。
著者
妹尾 麻美 Senoo Asami セノオ アサミ
出版者
大阪大学大学院人間科学研究科 社会学・人間学・人類学研究室
雑誌
年報人間科学 (ISSN:02865149)
巻号頁・発行日
no.37, pp.17-33, 2016-03-31

新規大卒就職活動において「同時期」に「一斉」に活動を行うことは、個々の学生の活動にどのような影響をもたらすのだろうか。この点を明らかにするため、本稿では、就職活動を行う大学生がどのように他の就職活動学生を認識しているのか、就職活動過程で経時的に行った聞き取り調査のデータから検討する。1990年代後半以降、就職活動は早期化・長期化した。また、早期化・長期化する就職活動が大学生のQOLを著しく阻害するとも指摘されている。しかし、先行研究はもっぱら活動量と結果の関連および採用スケジュールに焦点をあててきたため、学生間の競争には注意を払ってこなかった。そこで、就職活動過程で経時的に聞き取り調査を実施し、収集した大学生8名のデータを用いて、大学生が他の就職活動学生をどのように認識しているのかを分析する。その結果、大学生は、常に他者と比較し、自らの活動量や進捗状況を把握していることが明らかになった。このような他者との比較が、彼らを就職活動へと駆り立てている。さらに、大学生は「内定取得は活動量が要因となる」と認識し、他者や自身を評価していた。早期に内定が得られず就職活動を継続する場合、彼らは、結果への「納得」を評価基準とし、他者と比べていた。以上より、就職活動において、大学生は他の就職活動学生と常に比較し、互いに評価を下し/下されるものとなることを指摘した。
著者
妹尾 麻美
出版者
社会学研究会
雑誌
ソシオロジ (ISSN:05841380)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.39-55, 2015-02-28 (Released:2019-05-24)
参考文献数
33

The purpose of this paper is to examine whether what university students “want to do” correlates with their success during the job hunting process. Recently, career education emphasizes that university students have personal goals, in other words, what they want to do, in order to find a job. Some studies on the transition from university to work, which has influenced career education, point out that university students should have long-held personal goals for work. Meanwhile, the research on unemployment among youth shows that personal goals are not necessary, and studies on the recruitment of new graduates argue that having personal goals is only important during the job hunting process. However, it has yet to be revealed whether university students’ personal goals are connected to the results of job hunting. Therefore, this study analyzed the connection between personal goals before and after job hunting and their result, with the data collected from a two-wave panel survey conducted in 2011 and 2012.The results showed that there was no correlation between having personal goals for work before job hunting and the result, while clarifying personal goals during the job hunting process correlated with finding a job. These results suggest that personal goals university students had before job hunting was not as important as career education had emphasized, and this also implies that career education might have not provided proper support for them to get a job. Thus, this paper suggests understanding job hunting as an activity that required of university students to adapt to society.