著者
阿栄娜 酒井 奈緒美 安 啓一 森 浩一
出版者
日本音声言語医学会
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.169-177, 2018 (Released:2018-06-05)
参考文献数
33

成人吃音者1名に,自宅スピーチ・シャドーイング訓練のみを実施し,その効果を検証した.症例は,自宅で任意のラジオ音声で3ヵ月間,1日10分程度スピーチ・シャドーイング訓練を実施した.訓練終了後の3ヵ月間の追跡期間後に再度追跡調査を実施した.効果の検証に,吃音検査法,日常生活やコミュニケーションでの困難の度合い(OASES-A-J)と心理面の質問紙(吃音の悩み,コミュニケーション態度,社交不安症),発話に関する自己評価を用いた.訓練の結果,吃音検査法の文章音読,絵の説明と自由会話の3場面の吃音中核症状の頻度が低下し,追跡調査時も効果が維持されていた.また,訓練後にOASES-A-Jや吃音の悩みが改善し,コミュニケーション態度が肯定的になり,発話に対する自己評価が向上した.自宅スピーチ・シャドーイング訓練は成人吃音の治療法として,吃音症状と心理的側面の両面に効果をもたらす可能性があることが示された.
著者
辻 美咲 荒井 隆行 安 啓一
出版者
一般社団法人日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.179-183, 2013-04-01
参考文献数
13

残響時間が長い環境では,情報伝達が困難となることがある。そのため,残響による影響を軽減させ,正しく情報伝達することが求められている。本研究は,残響下での聴き取りを改善するため,子音強調及び母音抑圧を施す前処理手法を提案する。処理音声に残響を畳み込んだ刺激を用いて単語了解度試験を行い,処理の効果を検討した。その結果,各子音部の最大振幅を1.0とし,各母音部の最大振幅を0.4〜1.0とした場合に関しては有意差はなかった。一方,各母音部の最大振幅を0.2とした場合に関しては有意に了解度が低下した。
著者
進藤 美津子 菅原 勉 荒井 隆行 飯田 朱美 平井 沢子 程島 奈緒 安 啓一 飯高 京子 川中 彰 進藤 美津子
出版者
上智大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2004

私共は、平成16年度〜19年度にかけて、音声コミュニケーション障害者、高齢者、聴覚障害者、言語聴覚障害児者に対する支援システム、評価法の開発およびコミュニケーション援助の開発や臨床への応用を目的として、以下の3グループに分かれて研究を行ってきた。研究分担者や研究協力者は、文系と理系からなる学際的なメンバーで構成され、それぞれの専門性を活かした研究に取組み、成果を上げてきたことが特記される。3グループの研究は次の通りである。1.音声コミュニケーション障害者への支援システムの開発とコミュニケーション援助:神経筋病患者の自声による日英両言語のコミュニケーション支援システムの構築を行い、臨床への応用が可能であることを示した。コーパスベース方式でシステム構築を行った後、より少ないデータで構築可能なHMM音声合成方式でも試作を行い実用レベルに達するという評価結果を得た。2.聴覚障害者に対する支援システムの開発とコミュニケーション援助:聴覚障害児者や老人性難聴者のための残響環境下における聞きやすい拡声処理と補聴器のための音声処理方式の開発と実用化への適用を推進した。3.言語聴覚障害児者に対する支援システムの開発とコミュニケーション援助:高次脳機能に障害を持つ、後天性小児失語症児や中枢性聴覚障害児のコミュニケーション能力向上のための評価、指導法を開発し、発達性構音障害の鑑別診断となる基礎的研究と臨床への応用を行い、発達性読み書き障害児への基礎的、臨床的検討を行った。また、言語習得過程の不備からコミュニケーション障害が形成される可能性について問題提起した。