著者
安中 進 鈴木 淳平 加藤 言人
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.73, no.1, pp.1_212-1_235, 2022 (Released:2023-06-16)
参考文献数
29

本稿では、日本の有権者の間で消費税をめぐる政治対立がどのように展開しているかを明らかにする。先行研究では、受益者の幅を広げた普遍主義的給付と、消費税を中心とした逆進的な課税構造を持つ福祉国家が、中・高所得者や右派からの支持を獲得し、高い平等を達成するとされる。しかしこの主張には、低所得者や左派は一様に福祉国家の拡大を支持する、という暗黙の前提がある。この前提を検証するため、消費増税に注目し、増税によって実現され得る福祉給付の性質と消費税の逆進的性質が有権者の態度形成に影響を与えるか、その影響が所得・イデオロギーによって条件付けられるかを、サーヴェイ実験を用いて検討した。結果は、福祉の普遍的な給付、または税の逆進的性質を強調すると、高所得者の間では高率な消費税がより許容される一方、低所得者の間では低率な税がより志向される傾向を示した。ただし、普遍主義と逆進性を同時に強調しても、これらの傾向は増幅されなかった。また、所得に対してイデオロギーは、実験刺激効果に対して明確な条件付け効果を持たなかった。これらの知見は、福祉・増税政策をめぐる政治対立の理解に有権者の態度形成の側面から重要な示唆を与えるものである。
著者
加藤 言人 安中 進
出版者
日本選挙学会
雑誌
選挙研究 (ISSN:09123512)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.151-167, 2020 (Released:2023-11-16)
参考文献数
44

特定の政策において,日本で「左派」や「右派」と呼ばれる政党やその支持者は,欧米における左派や右派とは逆の「ねじれ」た選好を持つことが指摘されてきた。特に金融緩和政策では,緩和拡大に対し,欧米では左派が右派に比べて積極的な傾向がある一方で,日本では左派が反対する動きが根強い。この要因に関しては様々な議論があるが,経験的な検証は行われていない。本稿では日本の有権者を対象にサーベイ実験を行い,情報環境の側面からイデオロギーと金融緩和選好の関係を規定する要因を探る。実験では,特に貧困削減フレームと経済学者の賛成意見が同時に提示された条件下で,左派が右派と同程度かそれ以上に金融緩和を支持する傾向が見られた。結果は,日本におけるイデオロギーと政策選好の関係が欧米とは異なる背景について,情報環境が重要な役割を果たしていることを示唆している。
著者
安中 進
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究 (ISSN:21890552)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.19-39, 2019 (Released:2020-01-29)
参考文献数
59

本研究は政治体制と栄養不足の関係を考察する。本研究は飢饉と異なり学問的蓄積の乏しい栄養不足を対象に、状況が最も深刻だと考えられているサブサハラ・アフリカにおいて、1991年から2014年にいたるTime-Series-Cross-Section(TSCS)データを用いた統計的分析によって、民主主義国家が他の変数を統制した上で民主主義自体の効果で栄養不足の改善に好ましい影響を与えているという分析結果を報告した。これは民主主義の好ましい影響が特に貧しい国々において見られることを意味し、これまで民主主義は貧しい国々では、うまく機能しないとした先行研究とは異なる結果である。また、貧困国のマラウイを対象にした事例分析によって、民主化後の農業を中心とする政策が栄養不足減少に寄与したメカニズムを説明した。
著者
安中 進
出版者
日本比較政治学会
雑誌
比較政治研究
巻号頁・発行日
vol.5, pp.19-39, 2019

<p>本研究は政治体制と栄養不足の関係を考察する。本研究は飢饉と異なり学問的蓄積の乏しい栄養不足を対象に、状況が最も深刻だと考えられているサブサハラ・アフリカにおいて、1991年から2014年にいたるTime-Series-Cross-Section(TSCS)データを用いた統計的分析によって、民主主義国家が他の変数を統制した上で民主主義自体の効果で栄養不足の改善に好ましい影響を与えているという分析結果を報告した。これは民主主義の好ましい影響が特に貧しい国々において見られることを意味し、これまで民主主義は貧しい国々では、うまく機能しないとした先行研究とは異なる結果である。また、貧困国のマラウイを対象にした事例分析によって、民主化後の農業を中心とする政策が栄養不足減少に寄与したメカニズムを説明した。</p>