著者
TAKAHASHI Tsutomu 安井 元昭
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(A)
巻号頁・発行日
1988

研究の目的は雲の組織化過程をメソ擾乱の場で考え、その組織化した雲での降水過程について考察することである。研究ははじめ3次元数値モデルを用い、雲の組織化過程について考察、その結果をハワイのレインバンドの観測デ-タと比較した。次いで3次元モデルで孤立雲に限定、微物理過程を導入、Warm CloudとCool Cloudについての鉛直風と降水効果についての研究を行った。更に海洋性雲で氷晶の降水への役割について研究を行った。この結果の検証のため熱帯でビデオカメラによる観測を行った。主な結果は次の通りである。1.3次元モデル内での浅い雲群で、強力なバンド雲は下層の温度ステップにそって発達、下層でネジれた放物線が加わり、バンド雲内に大きなセルが成長した。降水効率はバンド雲内に大きなセルが出現するほど増大した。2.キングエア機によるハワイレインバンドの研究では強力なレインバンドの形成のモデル計算の結果を確かめることが出来た。レインバンドの発達に伴い、下層での湿った空気の輸送を補うよう風上側で下降があり、このように形成された安定層は風上側に新しいバンド雲を形成する。3.微物理過程を導入した3次元孤立モデル雲での降水は、氷晶成長を通して、早く、強く、長く継続した。背の高い海洋性雲では水滴の凍結の降水への重要性が示された。4.熱帯積乱雲内の降水粒子観測を新しく試作したビデオカメラゾンデてミクロネシア・ポナペ島とパプアニュ-ギニア・マヌス島で行った。熱帯積乱雲には多くの雪・雹がはじめて観測され雨滴凍結を通して0℃少し上方の狭い層内で水の大きな集積が観測され、降水機構が水の凍結で効率よく行われていることが判明した。
著者
高橋 劭 T Takahashi (1990) 安井 元昭
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

ハワイのレインバンドは雲頂高度が3kmと低く、温かく氷晶は形成されないが降水強度が100mmh^<-1>以上の強い雨を降らせる。このレインバンドは早朝ハワイ島の風上海上にア-ク状に発達し、降雨の開始と同時に動きはじめ陸上に強いシャワ-をもたらす。レインバンドの通過に伴いスコ-ルラインと同様、風は急変するがスコ-ルラインと異なり気圧変化は殆どない。スコ-ルラインと異なる強力な雨を降らせる機構が考えられる。研究は1985年、研究代表者も参加したハワイ島でのキングエア機による観測デ-タの解析から始めた。観測機は種々の高度でレインバンドに垂直及び平行に飛行し、その航路にそって6秒毎に温位、気温、水蒸気量、雲粒、キリ粒、雨滴の含水量、降水粒子の粒度分布、雲粒空間濃度が図示された。解析の結果強力なレインバンドでは下層に強い収束帯が形成されていること、下層の湿った空気が上層に傾斜しながら上昇(sloped updraft)すること、キリ粒のRecycleで下層での降水粒子が急速に成長すること、従って研究代表者が先に見い出したように雲頂ですでに雨滴が多く観測された。雲底が低く、貿易風帯は高湿なので雨滴の蒸発は少なく、従って“cold dome"の形成は弱い。しかし下層(数百米以下)で温度の不連続帯が観測され、レインバンドはこの帯にそって発達していた。この温度不連続帯は海陸風による場合と、海流に起因するものとの2つが考えられた。更にレ-ダ観測との比較で、強く長続きする雨を降らせるレインバンドは垂直方向の風が飽物線型の時形成されることが分かった。3次元数値モデルとの比較の結果、風のジェットが雨で下層に輸送され、強い下層収束帯が形成されるためと結論された。この時雨の集積が風のジェットの高度で行われることがレインバンドの強弱を支配し、降雨機構が強力なレインバンド形成に密接に関連していることが分った。更にハワイのレインバンドの特徴を明らかにするために1990年ハワイ島で再び大規模な研究が行われた。エレクトラ機の他、ドップラ-レ-ダ2台、地上ネットワ-ク50台が持ち込まれ、観測は2ケ月に渡り膨大なデ-タが得られた。解析はこれからである。ハワイから更に南下すると逆転層高度が高くなり、又弱くなる。雲はこの逆転層を突き抜き圏界面まで達する。雲はバンド雲に発達、強力な雨を降らせる。圏界面温度は-80℃と低く、雲内には氷晶の成長が考えられる。ミクロネシア・ポナペ島で新しく開発したラジオゾンデを飛揚した。これは内にテレビカメラがあり、降水粒子が入るとフラッシュがたかれ、映像が地上に伝送される。驚いたことに霰や雹が観測され、氷晶の数も0.1/ccと多く南洋の雲は氷晶を多量成長させていることが分かった。この雲は雲底から0℃層までの雲の厚さが4kmと厚いので氷晶がなくとも雨滴成長は行われる。降水への氷晶の役割を3次元数値モデルで研究を行った。南洋の雲で氷晶が成長しないと雨はシャワ-性となり短時間で止む、一方水滴が凍って雹が成長すると、雨は雲のライフの後半から降りはじめるが雨は長続きする。もし氷晶が成長すると飽和水蒸気圧が水より氷で低いこと及び雪は2次元的に成長することから氷晶成長が雨滴成長より著しく早く、過冷却雲粒を捕捉して霰を作る。このため雨は早くはじまり、強く、長続きする。霰成長を通しての過程の方がWarm Rain型より大きい雨滴が作れる。氷晶はWarm Rain型の雨滴形成より高い高度で成長する。従って、風があると降水粒子の落下位置が異なり風が飽物線型の時Warm Rain型の場合、下層収束帯を弱めるように降るが、氷晶成長を通しての霰は逆に下層収束帯を強めるように降る。このため雲は強力に成長、強い降雨が長時間続く。このように南洋の雲でも氷晶があれば降水能率が著しく増加することが分かった。氷晶の西太平洋南洋でのスコ-ルラインへの寄与に関する研究は今後の大きな研究課題である。