著者
高橋 劭 RUTLEDGE S. KEENAN T.D. 守田 治 中北 英一 木村 龍治 藤吉 康志 深尾 昌一郎
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

本研究は、地球の気候変動に重要なアジア多島域の巨大積乱雲の組織化過程、降水機能についての国際共同プロジェクトに参加、研究を行うことを目的としている。観測は、オーストラリア・ダ-ウィン沖のMelville島で行ったが、この島は平坦で研究には理想的である。ここではモンスーン直前島全体を覆うような大きな雲システムの発達が知られているが、昼過ぎ海陸風の収束域に雲は発達し始め約1時間で雲頂が18kmにも達する雲、Hectorが東西方向に発達する。強い雨と1分間に数百回もの雷をもたらし面白い事に急に雲は南北に並びを変え、ゆっくり西に動く。このHector雲の組織化過程と降水についての研究のためオーストラリア気象局を中心に国際プロジェクトが組織化された。多くの大学・研究所が参加、オーストラリア側ではドップラーレーダ、エ-ロゾンデ、ウインドプロファイラー、ゾンデ観測が行われ、米国もウインドプロファイラーでの観測を行い、我々のグループはビデオゾンデを持って参加した。ビデオゾンデはHector雲内の降水粒子の分布の直接測定を行うもので、このプロジェクトでも大きな比重を持つものである。観測は常にドップラーレーダと緊密な連絡を取りながら行われた。平成7年夏、研究代表者はオーストラリア気象局のJasper氏とMelville島でのSite Surveyを行い、観測地、宿舎、輸送に伴う税関手続きなどについて調査を行った。平成7年10月、約1トンにも及ぶ観測資材を船で輸送、同年11月15日より1ヶ月間、大学院生4名と研究代表者がMelville島での観測を行った。観測は朝7時から夕方まで日曜なしで行われた。内陸の観測地までは宿泊地から車で40分であった。連日35℃を越す暑さで、幸いレンタルの観測室は冷房はあるが、外は蚊やブヨ、ヒルが多い湿地帯であった。気球格納庫を設置、すぐそばに気球飛揚のため水素ボンベを並べた。ヘリウムは高価なためこの予算では購入できなかった。昼過ぎHector雲が発達、真っ黒い雲列が東に現れ、ドンドンという雷の音とともに接近、一旦Hector内に入ると大変である。激しい雨と突風があり雷はすぐ近くに落ち続ける。一度はすぐ10m先に落雷、強電流が地面から流れ、すべての器械を破壊してしまった。日本に連絡を取り、パ-ツを輸送させ修理をしたが、4日間費やした。この激しい雨と雷の中、水素
著者
高橋 劭 鈴木 賢士 織田 真之 徳野 正巳 De la Mar Roberto
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.509-534, 1995-06-15
被引用文献数
4

西太平洋における大気・海洋結合系国際観測プロジェクト(TOGA-COARE)の一環として西太平洋赤道域マヌス島(2°S,147゜E)で21個のビデオゾンデを飛揚、降水機構の研究を行った。観測は1991年11月24日〜12月5日と1992年11月20日〜12月9日の2回にわたり行われた。観測期間中多くの異なった雲システムが発達、それらの出現は水蒸気の高度分布に著しく依存し、台風による水平風の変動が水蒸気分布に大きな影響を与えていることが示唆された。降水系には2種あり、強い降雨をもたらすレインバンドでは"温かい雨"型で雨の形成が行われ、厚い層状の雲では小さい霰の形成が活発に行われていた。0℃層で霰の雪片が初めて観測された。降雪粒子分布がカナトコ雲や台風の層状雲内でのものと著しく異なることから、観測された厚い層雲はレインバンドからの延びた雲ではなく0℃層以上での一様な大気の上昇で形成されたのかも知れない。他の熱帯域と比較して氷晶濃度が赤道で極端に少なかった。
著者
高橋 劭
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.121-129, 1977
被引用文献数
6

ハワイ島の雨を逆転層の高さ,強度に関係させて分類することをこころみた。貿易風の強い8月の場合がこの論文ではくわしく解析された。雨は逆転層が低い時に見られる早朝と夕方のシャワー(海&bull;陸風に左右される),逆転層の高い時に見られる日中の強い雨,逆転層が2層あるときの地雨に大別された,又この逆転層が上層のcyclonic ce11の動きと密接な関係があることもわかった。<br>Front systemの影響をうけるハワイの冬の雨との比較で空中電場に強い差が見られた。氷晶の存在がその原因であろう。
著者
高橋 劭 鈴木 賢士 Wang Caiwei Guo Changming
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1191-1211, 1995-12-25
被引用文献数
1

「黒河流域における地空相互作用における日中共同研究」HEIFE プロジェクトの一環として中国・平凉での半乾燥地域に発達する夏の雲の降水機構の研究を行った。ビデオゾンデによる降水粒子の映像、レーダ、ゾンデ上昇速度、地上電場の測定から雲内での降水粒子の成長過程について解析を行った。この地域においては降水機構の全く異なる2つの降水雲システムが観測された。1つは電気的に活発な霰形成が主な雄大積乱雲で他は梅雨前線に伴う雪片形成で雨を降らす層状雲である。Hobbsの主張する "Generation Cell" の降水への役割については、本地域に現れた梅雨前線帯の層状雲では当てはまらないようである。
著者
高橋 劭 久原 和冶
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
気象集誌 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.21-31, 1993-02-25
被引用文献数
1

ミクロネシア・ポナペ島に特殊ラジオゾンデ8台を飛揚した。この装置は雲内の降水粒子の映像と電荷の情報を地上に伝送する。ミクロネシアの雲には多くの雪が成長していた。興味のある降水粒子の映像は偏平楕円体状の雨滴、フリスビーのような雪片、テトラポッド型の雹、成層圏付近の広い平板を持つ立体樹枝等である。降水粒子の高度分布から降水機構を考察した。強い雨を降らすレインバンドは0℃高度のすぐ上の狭い層で凍結氷・雹を成長させていた。この層に水が多く蓄積される。他に二種異なった雲系が観測され、その1は孤立積乱雲で他は上層対流雲である。前者では"温かい雨"と加住霰形成が独立に起こり、後者では霰形成が盛んに行われていた。これらの雲の電気的性質についても簡単に調べた。
著者
中北 英一 鈴木 賢士 坪木 和久 大石 哲 川村 誠治 橋口 浩之 高橋 劭 城戸 由能 田中 賢治 中川 勝弘 岩井 宏徳 市川 温 杉本 聡一郎 鈴木 善晴 出世 ゆかり 若月 泰孝 相馬 一義 大東 忠保 山口 弘誠
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2010-04-01

集中豪雨やゲリラ豪雨による水災害軽減のための総合的基礎研究を実施した。最新型偏波レーダーとの同期フィールド基礎観測実験においてビデオゾンデ観測の汎用化をはかることでこれまで夢に描いてきた積乱雲内の多地点連続観測を実現するとともに、ヒートアイランドの影響を受ける都市域での積乱雲形成・発達過程のマルチセンサー同期観測の緒も開いた。それらを土台に積乱雲のモデル化と豪雨予測手法の開発を行い、加えて早期警戒情報提供や水位予測などの水管理に重要な手法をも構築した。特に、開発したゲリラ豪雨の早期探知・危険性予測手法は国土交通省で現業化され試験運用が開始されており、科学的にも社会的にも意義深い貢献を果たした。
著者
中北 英一 田中 賢治 坪木 和久 大石 哲 中川 勝広 鈴木 善晴 大石 哲 坪木 和久 鈴木 賢士 川村 誠治 高橋 劭 田中 賢治 中川 勝弘 市川 温 杉本 聡一郎 鈴木 善晴 出世 ゆかり 大東 忠保 山口 弘誠
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

豪雨災害の軽減を目指して、次世代型偏波レーダーの降水量推定・降水予測への利用を目的に、偏波レーダーとビデオゾンデの同期集中観測を実施し、その結果、降水粒子の粒径と種類の推定手法を構築することに成功した。さらに、モデル予測への応用や現象の理解を深めることで降水量推定・降水予測の高度化を実現した。
著者
高橋 劭 T Takahashi (1990) 安井 元昭
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

ハワイのレインバンドは雲頂高度が3kmと低く、温かく氷晶は形成されないが降水強度が100mmh^<-1>以上の強い雨を降らせる。このレインバンドは早朝ハワイ島の風上海上にア-ク状に発達し、降雨の開始と同時に動きはじめ陸上に強いシャワ-をもたらす。レインバンドの通過に伴いスコ-ルラインと同様、風は急変するがスコ-ルラインと異なり気圧変化は殆どない。スコ-ルラインと異なる強力な雨を降らせる機構が考えられる。研究は1985年、研究代表者も参加したハワイ島でのキングエア機による観測デ-タの解析から始めた。観測機は種々の高度でレインバンドに垂直及び平行に飛行し、その航路にそって6秒毎に温位、気温、水蒸気量、雲粒、キリ粒、雨滴の含水量、降水粒子の粒度分布、雲粒空間濃度が図示された。解析の結果強力なレインバンドでは下層に強い収束帯が形成されていること、下層の湿った空気が上層に傾斜しながら上昇(sloped updraft)すること、キリ粒のRecycleで下層での降水粒子が急速に成長すること、従って研究代表者が先に見い出したように雲頂ですでに雨滴が多く観測された。雲底が低く、貿易風帯は高湿なので雨滴の蒸発は少なく、従って“cold dome"の形成は弱い。しかし下層(数百米以下)で温度の不連続帯が観測され、レインバンドはこの帯にそって発達していた。この温度不連続帯は海陸風による場合と、海流に起因するものとの2つが考えられた。更にレ-ダ観測との比較で、強く長続きする雨を降らせるレインバンドは垂直方向の風が飽物線型の時形成されることが分かった。3次元数値モデルとの比較の結果、風のジェットが雨で下層に輸送され、強い下層収束帯が形成されるためと結論された。この時雨の集積が風のジェットの高度で行われることがレインバンドの強弱を支配し、降雨機構が強力なレインバンド形成に密接に関連していることが分った。更にハワイのレインバンドの特徴を明らかにするために1990年ハワイ島で再び大規模な研究が行われた。エレクトラ機の他、ドップラ-レ-ダ2台、地上ネットワ-ク50台が持ち込まれ、観測は2ケ月に渡り膨大なデ-タが得られた。解析はこれからである。ハワイから更に南下すると逆転層高度が高くなり、又弱くなる。雲はこの逆転層を突き抜き圏界面まで達する。雲はバンド雲に発達、強力な雨を降らせる。圏界面温度は-80℃と低く、雲内には氷晶の成長が考えられる。ミクロネシア・ポナペ島で新しく開発したラジオゾンデを飛揚した。これは内にテレビカメラがあり、降水粒子が入るとフラッシュがたかれ、映像が地上に伝送される。驚いたことに霰や雹が観測され、氷晶の数も0.1/ccと多く南洋の雲は氷晶を多量成長させていることが分かった。この雲は雲底から0℃層までの雲の厚さが4kmと厚いので氷晶がなくとも雨滴成長は行われる。降水への氷晶の役割を3次元数値モデルで研究を行った。南洋の雲で氷晶が成長しないと雨はシャワ-性となり短時間で止む、一方水滴が凍って雹が成長すると、雨は雲のライフの後半から降りはじめるが雨は長続きする。もし氷晶が成長すると飽和水蒸気圧が水より氷で低いこと及び雪は2次元的に成長することから氷晶成長が雨滴成長より著しく早く、過冷却雲粒を捕捉して霰を作る。このため雨は早くはじまり、強く、長続きする。霰成長を通しての過程の方がWarm Rain型より大きい雨滴が作れる。氷晶はWarm Rain型の雨滴形成より高い高度で成長する。従って、風があると降水粒子の落下位置が異なり風が飽物線型の時Warm Rain型の場合、下層収束帯を弱めるように降るが、氷晶成長を通しての霰は逆に下層収束帯を強めるように降る。このため雲は強力に成長、強い降雨が長時間続く。このように南洋の雲でも氷晶があれば降水能率が著しく増加することが分かった。氷晶の西太平洋南洋でのスコ-ルラインへの寄与に関する研究は今後の大きな研究課題である。
著者
高橋 劭
出版者
九州大学
雑誌
試験研究(B)
巻号頁・発行日
1993

この研究は豪雨機構の研究のため豪雨雲内の降水粒子の分布を全降水粒子について求められるビデオゾンデを開発することを目的とした。直径200μmより大きい降水粒子についてはフラッシュ方式を採用、降水粒子が赤外線束を遮るとストロボが作動、フラッシュがたかれ、粒子映像を静止させてビデオカメラで撮影、1680MHzの搬送波を変調して地上に送信するものである。一方、雲粒子の粒度分布の測定のため新しく雲粒子ビデオゾンデの試作を行った。このビデオゾンデの原理はポンプで外気を吸い込み、透明なフイルム上に雲粒を捕捉、顕微鏡で撮影、CCDカメラの映像を地上に送信するものである。この雲粒子ビデオゾンデの特徴は、フイルムを流しながらフラッシュを作動して雲粒の映像を地上に送信するもので、フイルムの固定による外気の吸引では雲粒が次々と重なり見かけ上大きな雲粒が観測されるがこのフラッシュ方式の採用により雲粒粒度分布の測定誤差を最小限にすることが可能となった。室内実験でのビデオゾンデのテスト後、平成7年11月15日から1ヶ月間オーストラリア・メルヴィール島で行われたMCTEX国際プロジェクトに参加、降水粒子ビデオゾンデ16台、雲粒子ビデオゾンデ2台を雲内に飛揚することができた。ここでの雲はHectorと呼ばれ雲頂は18kmにも達し、強い雨と雷は想像を絶するものであった。我々のビデオゾンデで初めてHector雲の降水粒子の測定が行われ、氷晶域の異常な活発化、霰の融解に伴う雨滴のリサイクル、それに伴う大凍結氷の形成等が明らかになり10個/cm^2にも達する多くの氷晶数は雷活動の活発さを説明するものであった。全降水粒子ビデオゾンデの試作とこれらの飛揚によるHector雲の降水粒子の測定は当初予定していた降水機構の解明に大きな成果があった。