著者
康 謙三 安富 正幸
出版者
The Japan Society of Coloproctology
雑誌
日本大腸肛門病学会雑誌 (ISSN:00471801)
巻号頁・発行日
vol.39, no.7, pp.819-829, 1986 (Released:2009-12-03)
参考文献数
17

大腸の運動機能の研究では,近位結腸機能の観察・記録が手技的に困難であるため,上部消化管運動の研究に比べまだ不明の点が多い.従来,大腸運動は近位結腸と遠位結腸では全く異ったものと考えられてきた.すなわち,Cannon-Böhm点より口側の近位結腸は腸内容の貯留と吸収を行う部位として,固型化された腸内容の運搬と排泄を分担する遠位結腸および直腸・肛門とは区別されていた.そこで本研究では,動物実験(イヌ)で大腸運動と術後の排便機能障害のメカニズムにつき,筋電図, strain gauge force transducer,内圧測定により電気生理学的に検討した.覚醒犬の空腹期大腸運動の観察では,大腸各部に30~40分間隔で8~10分持続する収縮波群が周期的に出現し,それらの大部分が肛門側へ順次伝わっていく伝幡性収縮波群として記録される.さらに上部消化管のいわゆる空腹期伝幡収縮波群(migrating motor complexes: MMC)は常に回腸末端部まで到達し,その約80%が回盲括約筋を超え大腸へと伝幡した.イヌ大腸運動では近位結腸と遠位結腸の間に系統的な伝幡性収縮運動がみられ,近位結腸と遠位結腸が別個の運動機能をもつという従来の考え方とは異っていた.同時に上部消化管運動との強い関連性も示された.次に術後の排便機能障害のメカニズム解明のため,イヌを用いて(1)自律神経切断,(2)直腸切除の2つの実験モデルを作成し,下部腸管運動と内括約筋機能を検討した.下腹・仙骨両神経切断によっても肛門管静止圧は正常に保たれ,直腸肛門反射も陽性であるが,反射時の抑制相の延長が認められた.仙骨神経根切断による節前線維の脱落と壁在神経叢の変性の結果である.また低位前方切除術のモデルとしての直腸切除犬では,術後早期より吻合部口側腸管に強いspastic contractionが出現し,同時に肛門管静止圧の低下がみられた.時間とともに両者はほぼ同様な経過で回復していくが,同時に排便状態も改善した.これら2つの実験モデルは直腸癌に対する低位前方切除術後の排便機能障害の臨床経過をよく反映している.
著者
久保 隆一 喜多岡 雅典 赤埴 吉高 待寺 則和 肥田 仁一 田中 晃 進藤 勝久 安富 正幸
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.26, no.10, pp.2488-2493, 1993-10-01
被引用文献数
9

基底膜の構成成分である laminin (LN) の免疫組織化学的染色を大腸癌・胃癌に行ったところ LN 活性が癌組織の基底膜部分に認められる症例に高率に肝転移, 肝転移再発がみられることが明らかになった. また同じ基底膜成分である type IV collagen (CI V) の染色部位は LN と一致し, LN 陽性部位は基底膜であると考えられた. 1987年より LN 染色による大腸癌の肝転移再発の prospective study を行った結果, 高率に肝転移再発が予測できた. 一方, LN 陽性で基底膜を形成する癌がなぜ高率に肝転移するのかを解明するため培養細胞を用いた研究を行った. 培養細胞でも基底膜を形成する癌としない癌があったが, いずれの細胞も LN, CIV を産生していた. 以上より大腸癌・胃癌では基底膜を形成する癌としない癌があり, 基底膜形成癌 (basement membrane producing cancer; BmPC) が高率に肝転移することが明らかになった.
著者
佐伯 裕司 大和 宗久 大西 博昭 久保 隆一 田中 順也 中野 敬次 山田 博生 中嶋 一三 北條 敏也 奥野 清隆 岩佐 善二 安富 正幸
出版者
近畿大学
雑誌
近畿大学医学雑誌 (ISSN:03858367)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.299-305, 1985-09-25
被引用文献数
4

The breast is one of the most common site of cancer originated primarily. Metastatic neoplasma to the breast, however, has been reported as rare. According to the Annul of the Pathological Autopsy Cases in Japan, seventy six cases who had metastatic neoplasma to the breast out of 219,41 cases were reported in 1981,which included 35 cases of the opposite side breast cancer, 9 of gastric cancer, 9 of malignant lymphoma, 5 of cervical or corpus cancer of the uterus etc. The incidence of the metastatic cancer to the breast is 0.35% in all the malignant neoplasma. In this paper, the authors reported 3 cases with the metastatic neoplasma to the breast experienced during a period of these 10 years. The first case was intrahepatic bile ductal cancer, the second was pancreatic cancer, and the third was descending colon cancer. The intrahepatic bile ductal cancer was the first case of metastatic cancer to the breast in Japan in the literature.
著者
中居 卓也 白石 治 川辺 高史 船井 貞往 香山 仁志 康 謙三 安富 正幸
出版者
一般社団法人日本消化器外科学会
雑誌
日本消化器外科学会雑誌 (ISSN:03869768)
巻号頁・発行日
vol.32, no.12, pp.2674-2678, 1999-12-01
参考文献数
13
被引用文献数
2

症例は56歳の女性.発熱と腹痛を主訴に来院した.前医で,下部胆管癌に幽門輪温存膵頭十二指腸切除術が今永式(I型再建法)で再建され,術後繰り返す胆管炎と肝膿瘍に膿瘍ドレナージが行われていた.血清ALPなどの胆道酵素や上部消化管造影検査では異常を認めず,^<99m>Tc-PMT胆道シンチグラフィーからも胆管空腸の吻合部狭窄や胆汁うっ滞所見はなかった.食事摂取で発熱などの胆管炎症状が現れ,抗生剤動注療法も奏効しなかった.胆管炎の原因が食物の胆道内への逆流と考えられ再開腹後,再建法をI型からII型に変更した.術後,6か月経過した現在,胆管炎の再燃は認めない.