- 著者
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田中 晃平
- 出版者
- 電気通信大学
- 巻号頁・発行日
- 2014-02-05
卓球ボールは半径2cmと小さく, 質量2.7gと軽量である. また, ボールとラケットラバーとの摩擦が大きいのでボールに回転をかけやすい. ほかの球技に比べて競技中の無次元速度(Re?1.0×?10?^5)は低く, 無次元回転数(SP?2)が大きくなるのが特徴である. そのため, Re数, SP, 回転軸が空気力(抵抗と揚力)に大きく影響し, 重力を凌駕して飛翔軌道を変化させる. 一般にトップスピンボール(ドライブ)には鉛直下向きの, バックスピンボール(カット)には鉛直上向きのマグナス力が働くことが知られている. 一方, Tanedaの水槽実験ではマグナス力の方向が逆転する「負のマグナス効果」が観測されるパラメーター領域の存在が示された. Tanedaの提唱した「負のマグナス効果」の領域はRe=5.0×?10?^4まで広がっている. 卓球競技中に「負のマグナス効果」が発生するとなると, 競技者による球種の選択に重大な影響を及ぼす可能性が生じる. スポーツ流体力学の観点からも低Re 数領域での「負のマグナス効果」の詳細が注目される. 本論文では, Re 数, SP, 回転軸が空力に及ぼす影響を調査するため, 3ローター式発射装置により発射された卓球ボールの飛翔軌道を, 高速度ビデオカメラを用いて撮影し, 卓球ボールの抗力係数C_D , 揚力係数C_LZを計測した. Nittaku社製の卓球ボール(真球)を試験球とし, 卓球競技で想定されるRe 数とSP領域で, C_D, C_LZ のRe 数依存性, SP 依存性, 回転軸依存性を調査した. バックスピンする卓球ボールに対する2.0×?10?^4?Re?9.0×?10?^4 のSP 依存性を測定した結果, C_LZ<0となる領域はなかったが, Re=9.0×?10?^4ではSP=0.5でC_LZ?0となることを確認した. 卓球競技で想定されるRe 数領域で「負のマグナス効果」が発生しないが, C_LZ はSP の単調な増加関数でないことを見い出した. また, SPを固定してRe 数依存性を調べた. SP=0.5の場合, C_D, C_LZ ともにRe 数が増加するにつれて減少した. SP=1.0 の場合, Re 数が増加するにつれてC_D は減少し, C_LZ は増加した. 次に回転軸を水平面内の様々な角度に設定した. SP=0.34,θ=0°,30°,45°,90° におけるRe 数依存性は, C_D はほぼ一定で, C_LZ はRe 数が増加するにつれて減少した. また, Re=3.0×?10?^4,5.0×?10?^4におけるC_D, C_LZ の回転軸θ 依存性を測定した結果, C_D はほぼ一定で, C_LZ は回転軸が0°から傾くにつれて緩やかに増加し, 45°?θ?60°付近から一定となった. 以上のように, 飛翔実験では「負のマグナス効果」は発生せず, Tanedaの水槽実験や小西らの風洞実験結果とは一致しなかった. 逆に小西らの風洞実験結果から準定常性を仮定して飛翔軌道を求めてみても, 本実験結果は再現できないことがわかり, 現象の非定常性の重要性が示唆される結果となった.