著者
井上 大樹 安心院 朗子 谷口 隆憲
出版者
一般社団法人 日本予防理学療法学会
雑誌
日本予防理学療法学会雑誌 (ISSN:24369950)
巻号頁・発行日
pp.JPTP-D-23-00009, (Released:2023-08-04)
参考文献数
27

【目的】靴の種類や特徴を統一したサイズが異なる靴を用いて,高齢者における靴のサイズ適合性が歩行安定性に影響を及ぼすかを検討した。【方法】介護予防教室体験会に参加した高齢者27 名を対象とした。歩行能力の評価には,3 軸加速度センサにて歩行速度,歩幅,歩行周期のばらつき,歩行の動揺性の指標となるRMS を算出した。靴のサイズ測定は,Brannock device にておこない「適合」,「不適合」の2 条件に合致する靴を準備した。対象者ごとに無作為に割り付けた順に靴を着用し,歩行能力の測定をおこなった。 統計解析は,靴のサイズ適合性における歩行関連指標の比較に対応のあるt 検定をおこなった。【結果】適合と不適合を比較して,不適合の靴を着用した場合,前後のRMS のみ有意に低値を示した。【考察】歩行時の推進力に影響を及ぼした可能性が考えられるが,さらなる検討が必要である。
著者
梅野 朋美 積山 和加子 岩根 美紀 安心院 朗 武居 光雄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.145, 2004

【はじめに】<BR> 質の高い在宅生活を継続するには、家族と安定した日常生活を送るだけでなく、心身機能及び活動度の維持や向上を図りながら、個々の役割を分担し社会参加を実現することも重要である。しかし実際には、屋外に外出する機会は少なく自宅内の活動にとどまる場合が多い。そこで当通所リハビリテーション(以下、通所リハ)では、自立支援は当然のことながら、趣味や社会参加へのきっかけ作りを目的に、個別的な目標を掲げチームで取り組んでいる。今回、屋外レクレーション(以下、屋外レク)を積極的に行うことにより、在宅での屋外活動が拡大し、IADLのみならずQOLの向上が認められた症例を経験した。この症例を通し、質の高い在宅生活の実現に向けた通所リハの個別的な関りの重要性を考える機会を得たので報告する。<BR>【屋外レクレーションの取り組み】<BR> 利用者の屋外活動のニーズや自宅周囲の環境を評価した上で、目標を設定し実施している。ショッピングセンターでの買物、園芸活動及び公園の散歩等を、利用者に対して月平均3回行っている。活動度に合った介助法を職員間で統一し、実施状況について家人に情報提供を行い、個別的な対応を心がけている。<BR>【症例紹介】<BR> 症例1:53歳、女性、脳出血左片麻痺。要介護1、日常生活自立度(以下、自立度)A2。プラスチック短下肢装具装着し、杖歩行屋内自立レベル。自宅周囲の環境により外出は困難であるが、「外を歩きたい」という要望を持っていた。まず通所リハ内で、自宅周囲の環境を考慮し砂利道や坂道といった不安定な場所での歩行獲得に対するアプローチを開始した。屋外レクでは、目的をもった外出及び主婦としての役割の再獲得を視野にいれ、スーパーでの買物を開始した。屋外レクを継続する中で、店内の杖歩行が安定して行えたことで自信を獲得し、「自宅近所のスーパーへ買物に行きたい」と具体的なニードにつながった。「屋外歩行自立と買物動作の獲得」を目標に、カート押し歩行での移動の獲得、計画性を持った買物の実施を促した。実際のスーパーでの買物は通路が狭く、人や障害物で混雑していることが多い。そのため安定した移動をしながら、購入品目、値段及び所要時間等の状況判断をする必要がある。当初は課題設定を行い買物を実施した。見守り、独力での実施と段階を経ていくうちに、楽しみとしての買物から生活の一部としての買物に変化していった。1ヵ月後、自立度J2、坂道の移動も安定し自宅周囲の歩行が自立した。IADLとして買物や銀行での金銭管理も実施できるようになり、主婦としての役割が確立した。現在は買物が日課となり忙しい毎日を過している。<BR> 症例2:69歳、女性、脳出血両片麻痺。要介護4、自立度B2。ADLは車椅子介助レベル、立位動作は手すり等を使用し介助を要していた。本人は外出に対して意欲的だったが、車椅子座位の耐久性低く車の移乗動作や外出先での排泄の経験がないため、外出に対して不安が強かった。「日中は車椅子で過し家人同伴での屋外活動」を目標に、立位動作訓練や移乗動作訓練を行い日中は車椅子での活動を促した。1ヶ月後、通所リハ内では車椅子座位の耐久性が向上し、車の移乗動作も軽介助にて可能になった。屋外レクでは外出先の身障者用トイレでの排泄動作が安定し、「また外出したい」と前向きな感想が聴かれた。一方で、通所リハでの活動度は向上したものの、家人の「車への移乗等の介助方法が分からない」という不安により、自宅での屋外活動は行われることなく、依然活動度の低い状況であった。この乖離を埋めるために積極的に情報交換を行い、家人へ適切な介助法について指導を実施した。2ヵ月後、自立度B1。車の移乗動作や屋外での車椅子駆動は介助を要すが、IADLとして週末は家人と共にスーパーでの買物や公園に外出を行うようになった。本人は家族との週末の外出を楽しみにしている。<BR>【まとめ】<BR> 今回、屋外レクを通し利用者の真のニーズを見出すことができ、また家族との情報交換によりADLに介助を要していても、アプローチによりIADLの拡大だけでなくQOLの向上が認められた症例を経験した。IADLの拡大に向けては、利用者の生活様式が様々なため、画一的な関りでは不十分で、個々の利用者の実用的な活動を想定し、アプローチを行うことが大切である。利用者の生活背景が多種多様である中で、今後もニーズに応じた、個別性を重視したプログラム及び通所リハの提供に取り組んでいきたい。