著者
片岡 一則 横田 隆徳 位髙 啓史 津本 浩平 長田 健介 石井 武彦 西山 伸宏 宮田 完二郎 安楽 泰孝 松本 有 内田 智士
出版者
公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター)
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2013

脳は高度に発達した生体バリアに守られているため薬剤の送達が極めて困難な部位である。本研究では、この生体バリアを克服して核酸医薬を脳内に送達して機能させるウイルス・サイズの薬剤送達システムを、高分子材料の自己組織化(高分子ミセル化)に基づいて構築した。すなわち、(1)血管内腔側内皮に局在するグルコース輸送タンパク質を標的とするグルコース結合型高分子ミセルを創製し、血管内腔からの脳内薬物移行を制限する内皮細胞バリア(血液脳関門)を突破して核酸医薬を脳内送達する事によって、アルツハイマー病(AD)の発症に関わる酵素の産生を抑制する事に成功した。(2)生体内で速やかに酵素分解を受けるmRNAのミセル内包安定化を達成し、脳室内局所投与による単鎖抗体のその場産生を実現する事によって、AD発症に関わるタンパク質であるアミロイドβ量を有意に低下出来る事を実証した。
著者
安楽 泰孝
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

前年度までに静電相互作用力を形成駆動力とする100-300nmのNano-PICsomeを容易に作り分けることに成功した。しかしながらこれらの粒子は生理条件下での安定性が低いため、申請目的にあるような生体内でデリバリーキャリアとして応用する際に問題が生じる。そこで当該年度では、まず水溶性の縮合剤である1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride)を用いてPIC膜中にアミド結合を形成することで、生理条件下でも安定にサイズと構造を維持可能な架橋Nano-PICsomeを調製することに成功した。さらにこの架橋Nano-PICsomeは、従来のNano-PICsomeとは異なり「耐凍結乾燥」「耐遠心濃縮安定性」を有していることをも明らかとした。また、加える架橋剤の量でPIC膜の透過性をコントロールできることも示し、選択透過性を有するNano-PICsomeという新しいベシクルキャリアの提案を行った。さらにサイズの異なる架橋Nano-PICsome(100-200nm)を調製し、担がんマウスの尾静脈より循環血液中に導入することによって、その血中滞留性および臓器分布を評価した。その結果、100-150nmの架橋Nano-PICsomeは、がん組織における血管壁が物質透過性の亢進を示すという性質(EPR効果)に基づいて、がん局所への高い集積性を示すことを明らかとした。一方、サイズを大きくした150-200nmのNano-PICsomeは、約20時間という著しく長い血中半減期を達成出来ることが明らかとなった。この値は、これまで報告されている他の中空粒子型キャリアと比較して、同等かもしくはそれ以上であり、今後、生体内長期循環型デリバリーキャリアとして応用展開される可能性が示唆された。このように本研究は、サイズと構造が厳密に制御された中空粒子を設計する独創的な指針の提案や得られた成果の薬物送達システムとしての高い有用性から考えて、バイオマテリアルの分野において極めて秀逸であると考えられる。