著者
宮田 完二郎 内田 智士 内藤 瑞 片岡 一則
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.44-53, 2016-01-25 (Released:2016-04-25)
参考文献数
51
被引用文献数
2 1

核酸医薬は、がんをはじめとする多様な難治性疾患の治療薬となり得ることから、その実用化に大きな期待が寄せられている。しかしながら、酵素により容易に代謝され、また細胞膜を透過できないことから核酸のバイオアベイラビリティは非常に低く、その医療応用は困難を極めている。このような状況を打破するために、核酸を標的部位に効率よく運ぶためのDDSの開発が世界的に行われている。本稿では、合成高分子材料を基盤とする核酸DDSの設計指針を、とりわけ細胞内の局所環境に応答して機能発現する“スマート”ポリイオンコンプレックス(PIC)ミセルに注目して説明する。また、siRNAとmRNAデリバリーに関して得られた最近の成果を紹介する。
著者
片岡 一則 Cabral Horacio 津本 浩平
出版者
公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター)
雑誌
挑戦的研究(開拓)
巻号頁・発行日
2018-06-29

免疫チェックポイント阻害剤によるがん免疫療法を膠芽腫に対して奏功させるためには、膠芽腫が形成する血液脳腫瘍関門を突破するとともに膠芽腫内の免疫チェックポイント阻害剤の濃度を格段に高められる革新的技術の開発が不可欠である。そこで、本研究では、免疫チェックポイント阻害剤をコードする伝令RNA(mRNA)の構築とmRNAを膠芽腫に届ける高分子ミセルの開発に取り組むことにより、膠芽腫内で大量の免疫チェックポイント阻害剤を持続的に増幅産生させ、膠芽腫を徹底的に駆逐できるがん免疫療法を開発する。
著者
片岡 一則 横田 隆徳 位髙 啓史 津本 浩平 長田 健介 石井 武彦 西山 伸宏 宮田 完二郎 安楽 泰孝 松本 有 内田 智士
出版者
公益財団法人川崎市産業振興財団(ナノ医療イノベーションセンター)
雑誌
特別推進研究
巻号頁・発行日
2013

脳は高度に発達した生体バリアに守られているため薬剤の送達が極めて困難な部位である。本研究では、この生体バリアを克服して核酸医薬を脳内に送達して機能させるウイルス・サイズの薬剤送達システムを、高分子材料の自己組織化(高分子ミセル化)に基づいて構築した。すなわち、(1)血管内腔側内皮に局在するグルコース輸送タンパク質を標的とするグルコース結合型高分子ミセルを創製し、血管内腔からの脳内薬物移行を制限する内皮細胞バリア(血液脳関門)を突破して核酸医薬を脳内送達する事によって、アルツハイマー病(AD)の発症に関わる酵素の産生を抑制する事に成功した。(2)生体内で速やかに酵素分解を受けるmRNAのミセル内包安定化を達成し、脳室内局所投与による単鎖抗体のその場産生を実現する事によって、AD発症に関わるタンパク質であるアミロイドβ量を有意に低下出来る事を実証した。
著者
内村 英一郎 宮崎 浩明 片岡 一則 岡野 光夫 桜井 靖久
出版者
一般社団法人 日本人工臓器学会
雑誌
人工臓器 (ISSN:03000818)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.472-475, 1997-04-15 (Released:2011-10-07)
参考文献数
13

我々は、糖鎖認識部位であるフェニルボロン酸基を側鎖に有する水溶性ポリアクリルアミド誘導体がリンパ球増殖活性を示すことを明らかとしてきた。しかし、フェニルボロン酸のpKaは8.6付近のため、生理的pH7.4においては、細胞膜上にある糖鎖と結合可能な4価のボロン酸基の数が必ずしも充分ではない。そこで本研究では、この結合能を上げるためにボロン酸ポリマー中にアミノ基を導入した。すなわち、アミノ基をボロン酸基に配位させることにより生理的pH7.4においても糖鎖との安定なコンプレックスを形成させるという概念である。アミノ基含率の異なるボロン酸ポりマーを調製しリンパ球増殖活性評価を行なった。その結果、アミノ基含有ポリマーは、アミノ基のないものに比べて、低い濃度においても活性を示し、その活性化能の増大が観察された。これより『、アミノ基導入による配位効果により効率的にリンパ球の活性化が可能であることが示された。
著者
上坂 充 中川 恵一 片岡 一則 遠藤 真広 西尾 禎治 粟津 邦男
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2006

医学物理および医学物理士のあり方については、日本医学物理学会、日本医学放射線学会、日本放射線腫瘍学会や厚労省関連の諸委員会にて長年議論されている。代表者らが主な活動の場としている日本原子力学会や日本加速器学会などに加わっている多くの学生、研究者、理工系大学教員が医学物理に興味を持ちその発展に参画したいと考えている。それらの方々が、放射線医療の新科学技術の開発研究を行っている。アメリカではこの40年で5,000人以上の医学物理士が単調増加的に誕生しているが、それには新技術の開発と普及が定常的に行われたことの証でもある。今の日本ではライナックを始め、国産治療装置が撤退し、輸入品に席巻されている。「研究開発型」医学物理士に掛けた思いは、輸入品のメンテナンスのみでなく、欧米のような機器開発を伴った医学物理の学問の創成と人材育成である。その議論の場を円滑に運営するため、日本原子力学会に「研究開発的医学物理」研究特別専門委員会を設立した。議論の対象として以下のテーマを設定した。1.イメージガイドピンポイント照射システム開発(1)X線・電子線(2)イオンビーム(3)中性子(4)レーザー、2.生体シミュレータ開発(1)DDS(Drug Delivery System、薬品送達システム)設計(2)人体線量分布高精度評価(3)薬剤流れの解析(4)治療計画の高度化、3.教育プログラムの充実と人材育成(1)欧米を目指したカリキュラム(2)大学院生の奨学金(3)ポスドク制度(4)留学。ここまで4回委員会(9月4日午前、28日、11月1日、2月28日午前)と2回の研究会(第6,7回化学放射線治療科学研究会、9月5日午後、2月28日午後)を開催し、上記テーマについて深く議論を行った。結果、1については白金が入ってX線吸収と増倍効果のある抗がん剤シスプラチンミセル、金粒子を手術して注入せず注射でがん集中させて動体追跡できる金コロイドPEG、シンチレータとPDT(光線力学療法)剤を一緒に送達してX線PDTを行う、3つのタイプのX線DDSの開発が始まったことが特記事項であった。また陽子線治療しながらPETで照射部が観察できる国立がんセンターの手法も画期的である。2については、粒子法による臓器動体追跡シミュレーションの可能性、CTのダイコムデータ形式からのシミュレーションメッシュデータ生成、地球シミュレータを使ったDDS設計など、日本に優位性のある技術が注目された。放射線医療技術開発普及のビジネス価値の定量分析(リアルオプション法など)も実用化に向けて有用である。教育体制につては、特に北大、阪大、東北大、東大にて整備されつつあった。これら革新的研究テーマと人材育成プログラムを、すでにスタートした粒子線医療人材育成プログラムのあとに用意すべきである。その際国際レジデンシー(研修生)など欧米機関との連携も重要である。アメリカMemorial Sloan Kettering Cancer Centerがその窓口としての可能性が高くなった。本活動は日本原子力学会研究専門委員会としてもう2年継続できることとなった。特定領域研究相当のものを立案してゆきたい。
著者
片岡 一則 山崎 裕一 西山 伸宏 長田 健介 宮田 完二郎 岸村 顕広 石井 武彦
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2005

本研究では、難治がんの標的治療の実現を目指して、細胞内低pH環境応答性と標的細胞結合能を賦与した制がん剤内包高分子ミセルを開発し、その有効性を担がんマウスを用いた動物実験により明らかにした。また、遺伝子デリバリーに基づくがんの分子治療の実現に向けて、細胞内還元的環境下で選択的に開裂する結合を介して内核が架橋安定化された高分子ミセル型ベクターを構築し、がんの血管新生阻害治療における有用性を明らかにした。
著者
今西 幸男 松田 武久 川口 春馬 片岡 一則
出版者
京都大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1992

長さ5cmのポリウレタン管の内壁に細胞増殖因子と接着因子を共固定化し,管の一端にシードした内皮細胞が培養によって成長し,他端まで管壁を一様に覆うのに要する時間が約1/2に短縮された。また,90日以上培養を続け,管壁が完全に内皮細胞層で覆れたあとも,細胞層ははく離しなかった。さらに,共固定化PMMA膜を用いて培養した内皮細胞のプロスタサイクリン分泌量は,流殖因子だけを固定化した場合の約1,7倍であった(今西)。ボロン酸素含有率を高めた水溶性ポリマーは,リンパ球の増殖能を有し,リンパ球増殖促進剤としてレクチン様の機能を有することが明らかとなった。このような合成ポリマーによるリンパ球活性化は,非抗原性,安定性など,天然レクチンに比して優れた特徴が期待され,新しい生物応答調節剤としての展開が考えられた(片岡)。表面構造をさまざまな制御した高分子ミクロスフェアを用いて,表面構造との生体成分との相互作用性の関係を解析した。また,DNA固定化ミクロスフェアを用いてDNA結合性転写活性因子の精製効率を上げるためDNAの固定化量を高めることを試み,成功した。さらに,細胞接着因子の活性部位テトラペプチド(RGDS)を固定化したミクロスフェアに対する顆粒球の認識応答として,特異的な活性酸素に基づく酸素消費を観察した(川口)。人工基底膜や平滑筋細胞を組め込むことにより安定性を高めた内皮細胞層は,非凝血性を著明に促進し,また,階層性構造をとることにより,高次の配向組織化をもたらした。平滑筋細胞の形質転換は,(1)生体中の環境因子(体液性因子および内皮細胞との細胞間相互作用),(2)拍動,および(3)三次元環境による細胞の形態,などの諸因子によって起こると考えられた(松田)。