著者
安藤 英紀
出版者
徳島大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2019-04-01

腫瘍内は酸性環境にあり、腫瘍の成長や転移を促進することでがんは悪性化する。一方、塩基性抗がん剤は、酸性環境で分子型分率が低くなることで細胞膜透過性が低下し、治療効果が減弱する。よって、腫瘍内環境を中性化することで、がんの悪性化を抑え、抗がん剤の治療効果を増強することが期待できる。そこで、アシドーシス治療剤である重曹に着目し、重曹を飲水投与することで腫瘍内中性化を図れるのではないかと仮定した。非侵襲的に腫瘍内中性化を評価する手法として、尿pH変化を利用する。本応募課題では、重曹投与による尿pHアルカリ化を指標として腫瘍内中性化を図り、塩基性抗がん剤の抗腫瘍効果を増強させることを目的とする。
著者
石田 竜弘 異島 優 安藤 英紀
出版者
徳島大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2020-07-30

中分子医薬品であるバイオ医薬品の経口投与技術の開発が切望されている。最大のバリアである小腸での吸収性を改善させるため、界面活性剤、キレート剤などの透過促進剤が提案されてきたが、中分子医薬品の吸収改善には至っておらず、実用化に進む可能性のある技術の開発は未達である。本研究では、バイオ・医療応用がなされていないイオン液体をキャリアとし、腸管上皮細胞の突破という最も大きな課題を解決し、中分子医薬品の経口投与法を開発する。
著者
松﨑 隆朗 清水 太郎 安藤 英紀 異島 優 山中 勝弘 三輪 泰司 濱本 英利 石田 竜弘
雑誌
日本薬学会第142年会(名古屋)
巻号頁・発行日
2022-02-01

【目的】近年、がん抗原に対して特異的な免疫反応を誘導できるがんワクチンが注目されている。従来の皮下投与に比べて、免疫反応を増強するために抗原提示細胞が多く存在する皮膚を標的としたワクチンが注目されてきている。以前、我々は角質層透過性を持ち経皮吸収促進剤として利用できるイオン液体(ILs)にアジュバントとがん抗原模倣ペプチドを溶解させたワクチンを調製した。腫瘍を皮下移植したマウスの腹部にアジュバントを24時間貼付した後にペプチドの24時間貼付を行う免疫を3週間で3回行ったところ、有意な腫瘍増殖抑制効果が得られることを示した。本検討では、腫瘍増殖抑制効果が得られたメカニズムを明らかにするために、貼付部位の皮膚および流入リンパ節での免疫細胞の存在割合の変化を経時的に評価した。【方法】アジュバントであるResiquimod(R848)を含むILs(R848-ILs)およびOVAペプチド(OVAp)を含むILs(OVAp-ILs)を調製し、それぞれを貼付したマウスの貼付部位の皮膚およびリンパ節を経時的に回収し、その中の白血球(CD45)、更にはマクロファージ(CD11b)及び樹状細胞(CD11c)の存在割合をフローサイトメーターで測定した。【結果・考察】R848-ILsを貼付したマウスの皮膚では、各細胞の割合が貼付12時間以降に有意に増加した。また、R848-ILsの24時間貼付し続けた後にOVAp-ILsを貼付したところ、OVApの抗原提示を行っている細胞の割合が皮膚ではOVAp-ILs貼付3時間後から有意に増加し、リンパ節では貼付の6時間後から増加した。腫瘍増殖抑制効果が得られたメカニズムとして、R848-ILsによって皮膚免疫細胞が増加し、そこにOVAp-ILsを貼付することで、皮膚でペプチドが抗原として捕捉される機会が増加するのと同時にリンパ節へと運搬されやすくなり、結果として細胞傷害性Tリンパ球の活性化が強くなり、高い腫瘍増殖抑制効果に繋がったものと考えられた。以上より、イオン液体を利用したワクチン製剤は皮膚免疫反応の増強を可能とすることが示され、新規の非侵襲性ワクチンへの展開が可能であることが示唆された。
著者
松尾 菜々 異島 優 池田 真由美 安藤 英紀 清水 太郎 石田 竜弘
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【背景・目的】活性イオウ分子種(RSS)は、チオール基やジスルフィド結合にS原子がさらに付加した分子であり、S原子放出能や高い抗酸化作用を有する。近年、過剰なS原子のがん細胞内への導入は、還元ストレスを与え、効率的に細胞死を誘導することが期待されているものの、既存のRSSは生体内での血中滞留性やがん細胞指向性に乏しいことが知られている。そこで、ヒト血清アルブミン(HSA)を過イオウ化させたPoly-Persulfide-HSAの作製を試みた。HSAは、高い血中滞留性とがん細胞指向性を有しており、生体内でRSSとして機能する報告もあることからキャリアとして有益と考えた。本研究では、作製したPoly-Persulfide-HSAの還元ストレスによる抗腫瘍効果を評価した。【方法】HSAにIminothiolaneを反応させ、Lys残基にSH基を導入した後、そのSH基をIsoamyl nitriteでS-ニトロソ化し、Na2S4と反応させることでPoly-Persulfide-HSAを作製した。In vitroの検討において、マウス結腸がん細胞Colon26細胞を用いて、Poly-Persulfide-HSAの細胞内取り込み及び細胞生存率を評価した。In vivoでは、Colon26担がんマウスを作成し、Poly-Persulfide-HSAを静脈内投与した際の抗腫瘍効果を評価した。【結果・考察】Poly-Persulfide-HSAはHSA 1分子あたり約7分子のS原子が付加していた。Poly-Persulfide-HSA処理Colon26細胞において、高い細胞毒性が見られ、その効果には活性イオウの取り込みが関与することが示唆された。In vivoの実験より、顕著な腫瘍体積増加の抑制が認められた。これらより、Poly-Persulfide-HSAは、がん細胞内にS原子を送達することで還元ストレスを惹起し、細胞死を誘導したと考えられる。以上より、作製したPoly-Persulfide-HSAは、還元ストレス誘導型抗がん剤として有用であると示唆された。
著者
安藤 英紀 石田 竜弘
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
MEDCHEM NEWS (ISSN:24328618)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.19-24, 2020-02-01 (Released:2021-05-01)
参考文献数
15

標的遺伝子の発現を特異的に抑制するRNA干渉(RNA interference;RNAi)医薬品は、patisiran(Onpattro®)が2018年に世界で初めて販売されたことを契機に、これまで以上に高い注目を集めている。筆者らは臨床での実用性を考慮したRNAi医薬品の開発を試み、すでに量産が可能な工業化技術を確立し、体腔(胸腔および腹腔)内直接投与により悪性胸膜中皮腫や承認薬のない胃がん、卵巣がん、膵臓がんの腹膜播種転移の治療剤としての有用性を前臨床レベルで確認した。本稿では、すでに本格開発段階に移行している体腔内投与型RNAi製剤(開発コード:DFP-10825)について、これまでの開発経緯を紹介する。
著者
角南 尚哉 安藤 英紀 丸山 敦也 三輪 泰司 濱本 英利 清水 太郎 異島 優 石田 竜弘
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

【目的】イオン液体(ILs)は有機アニオンと有機カチオンからなる常温で液体の塩で、様々な分野での応用が期待されている。我々は以前に、イオン液体を用いてタンパク質などの高分子、中分子核酸、ペプチドなどを経皮吸収させる技術を開発した。ところで、2型糖尿病治療薬でペプチド製剤であるグルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)受容体作動薬はほとんどが皮下注射製剤であり、低い服薬コンプライアンスが課題である。それに比べ、経口投与製剤は投与の簡便さ、非侵襲的なことが利点で、高い服薬コンプライアンスを実現できる。そこで、ILsを基剤として用いることで腸管での吸収性向上を期待し、GLP-1受容体作動薬の一つであるLixisenatide(Lix.)をILsと混合した時の腸管での吸収性を評価した。【方法】Lix.をILsに溶解させ(Lix.-ILs)、Lix.の胃での分解を避けるため経腸投与、あるいはLix.をSalineに溶解させ(Lix.-Saline)皮下投与し、Lix.血中濃度をEIAキットを用いて評価した。また、それぞれ投与した後に糖負荷試験をすることで、血糖値の上昇抑制効果を評価した。【結果・考察】Lix.をILsと混合して顕微鏡で確認したところ、加温することでLix.の結晶が消失したことから溶解したと判断した。Lix.-ILsの経腸投与により、Lix.血中濃度が顕著に上昇したことから、ILsはLix.の腸管吸収を促進することを新たに見出した。この時、Lix.-ILsは投与後1時間でピークとなり、投与後6時間まで高いLix.血中濃度が維持された。糖負荷試験において、Lix.-ILsの経腸投与で血糖値の上昇抑制が認められ、同程度のLix.血中濃度を示すLix.-Salineの皮下投与と同等の薬理効果が確認された。以上の結果より、Lix.をILsに溶解させることでGLP-1受容体作動薬の腸管吸収性が上昇することを示した。