著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.309-322, 2015 (Released:2015-11-03)
参考文献数
55
被引用文献数
6 7

本研究では, 体型に関するメディアの情報を受けた個人が, その影響から痩身理想をどの程度内在化しているかを評価するSociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3 Revised(SATAQ-3R ; Thompson, van den Berg, Keery, Williams, Shroff, Haselhuhn, & Boroughs, 2000)の日本語版を作成し, 大学生の痩身理想の内在化とメディア利用頻度との関連性について検討した。研究1では, 男女大学生1,054名を対象に調査を実施し, 29項目(4下位尺度)の日本語版SATAQ-3Rを作成し, 尺度の信頼性と妥当性を確認した。研究2では, 男女大学生998名を対象に日本語版SATAQ-3Rとインターネットやテレビ, 雑誌といったメディア利用頻度との関連性を調べた結果, 男性より女性のほうが, メディアの影響を受けて痩身理想を内在化し, メディア情報を重要だと考え, 外見に関するプレッシャーを感じていることが示された。一方でスポーツマン体型への内在化は女性より男性のほうが高いことが示された。また, メディアのうち特にテレビと雑誌が大きく影響を及ぼす可能性が示され, わが国の摂食障害患者の増加を防ぐためにも, 学校教育におけるメディアリテラシー教育の重要性が示唆された。
著者
小島 弥生 太田 恵子 菅原 健介
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
性格心理学研究 (ISSN:13453629)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.86-98, 2003
被引用文献数
20

人は自分の自己呈示的行動に対し,他者から何らかの評価を受けることを期待する.その際,期待する評価の方向性に個人差があり,自己呈示方略に影響を与えていると考えられる.本研究では菅原(1986)をふまえ,他者からの肯定的な評価の獲得を目標としやすい「賞賛獲得」と,否定的な評価の回避を目標としやすい「拒否回避」の2つの独立した欲求を想定し,その強さを測定する尺度の作成を試みた.研究1では,賞賛獲得欲求と拒否回避欲求が独立した因子として抽出され,2つの欲求尺度の信頼性,併存的妥当性が検証された.研究2では,賞賛獲得欲求と拒否回避欲求の強さによって他者からの評価的フィードバックへの情緒的反応が異なることが示され,尺度の構成概念妥当性が支持された.研究2の結果から,2つの欲求の概念により,他者からの評価が自己概念とは異なるものであった場合の対処方略についても説明できる可能性が示された.このことから,賞賛獲得欲求・拒否回避欲求の概念が,自己呈示と個人の社会的適応の問題をはじめとする様々な社会的行動を考える上での重要な枠組みを提供し得ることが示唆された.
著者
小島 弥生 太田 恵子 菅原 健介
出版者
日本パーソナリティ心理学会
雑誌
性格心理学研究 (ISSN:13453629)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.86-98, 2003-03-27 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
5 20

人は自分の自己呈示的行動に対し,他者から何らかの評価を受けることを期待する.その際,期待する評価の方向性に個人差があり,自己呈示方略に影響を与えていると考えられる.本研究では菅原(1986)をふまえ,他者からの肯定的な評価の獲得を目標としやすい「賞賛獲得」と,否定的な評価の回避を目標としやすい「拒否回避」の2つの独立した欲求を想定し,その強さを測定する尺度の作成を試みた.研究1では,賞賛獲得欲求と拒否回避欲求が独立した因子として抽出され,2つの欲求尺度の信頼性,併存的妥当性が検証された.研究2では,賞賛獲得欲求と拒否回避欲求の強さによって他者からの評価的フィードバックへの情緒的反応が異なることが示され,尺度の構成概念妥当性が支持された.研究2の結果から,2つの欲求の概念により,他者からの評価が自己概念とは異なるものであった場合の対処方略についても説明できる可能性が示された.このことから,賞賛獲得欲求・拒否回避欲求の概念が,自己呈示と個人の社会的適応の問題をはじめとする様々な社会的行動を考える上での重要な枠組みを提供し得ることが示唆された.
著者
小島 弥生
出版者
埼玉学園大学
雑誌
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇 (ISSN:13470515)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.89-98, 2010-12

本稿では、エントリーシートへの記述を就職活動における自己呈示の1形態として捉えている。大学3年生の女子を対象に、本格的な就職活動を始める直前に志望している「働き方」を分類し、その志望の表現の仕方の違いによって模擬エントリーシートへの記述内容に質的な違いがあるかを探索的に検討した。就職活動直前に志望する働き方の表現形態によって、「具体的イメージ群」、「職務イメージ群」、「企業(ブランド)イメージ群」の3つのイメージ群と、働き方をイメージできていない「分類不能群」の4つに分けることができた。さらにエントリーシートや履歴書の書き方に関する準備活動(セミナーへの参加等)の経験の有無によって分析対象者を分けて検討した。特定の働き方をイメージできていない大学生にとって、準備活動を行うことが豊かな記述に結びつく可能性が示されたとともに、準備活動を型通りにしか行わないことが就職活動の流れを阻害する(エントリーシートの次の段階に進めない)可能性があることが示唆された。
著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.146-157, 2013 (Released:2013-10-10)
参考文献数
48
被引用文献数
12 4

「痩身理想の内在化」とは, 社会的に魅力がある, 価値があるとされる痩身を, 自己の価値観や理想として取り込んでしまう概念である。本研究の目的は, この痩身理想の内在化と痩身願望との関係について検討することであった。具体的には, 雑誌からの影響の受けやすさ, 他者からの承認欲求, 自尊感情といった個人特性が, 痩身理想の内在化を媒介した場合に痩身願望へどのように結びつくかについて, 男女大学生を対象に多母集団同時分析を行い, その相違点について検討を行った。男女大学生585名を対象に質問紙調査を実施し, 現在の体重(体型)を下回る体重が魅力的だとする336名について分析を行った結果, 男女ともに, 個人特性は痩身理想の内在化を媒介することで, 痩身願望とより強い関連が認められた。また, 男女によって個人特性が直接的に痩身願望に結びつくパターンと痩身理想の内在化と媒介するパターンに違いがみられた。本研究の結果から, 痩身理想の内在化は摂食障害の危険因子である痩身願望に大きな影響を及ぼす要因であることが明らかになった。今後は, この痩身理想の内在化に焦点を当てて実証的な研究を行う必要性が示唆された。
著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子 坂野 雄二
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.263-273, 2009 (Released:2012-02-29)
参考文献数
21
被引用文献数
14 5

本研究では, 現代において男性社会にも広がっていると考えられる痩身願望の存在に注目し, 体型への損得意識を媒介に痩身願望が規定される心理的メカニズムのモデルを検討した。体型の損得意識においては, 自己肯定感のような自己の視点からみたメリット感と対人関係のように他者の視点からみたメリット感があるのではないかと仮定した。青年期男子224名を対象に質問紙調査を実施し, 体型への損得意識に影響を及ぼすと考えられる個人特性と痩身願望との関連について検討した。現在の体型よりも痩せることが魅力的だとする男子学生131名について分析した結果, 「賞賛獲得欲求」「拒否回避欲求」「身体満足度」などが痩身願望と関連のあることが示された。これらの関連を検討したところ, 痩せれば自分に自信がもてるといった「自己視点からの痩身のメリット感」が痩身願望に直接影響し, それ以外の変数はこの「自己視点のメリット感」を媒介として痩身願望に影響することが明らかにされた。痩身願望に至るルートとして, 第1に自己顕示欲求から発する痩身願望, 第2に自己不満感や不安感から発する痩身願望, 第3に自分の意識する肥満度から発するルートが見出せた。
著者
小島 弥生 田中 道弘 Yayoi KOJIMA Michihiro TANAKA
出版者
埼玉学園大学
雑誌
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇 = Bulletin of Saitama Gakuen University. Faculty of Humanities (ISSN:13470515)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.113-125, 2020-12-01

先行研究(田中・小島, 2019)に引き続き、諦観傾向尺度の構成概念妥当性を検討することが本研究の目的であった。諦観傾向の強さは自己肯定感との間に負の相関関係があると想定した。また、諦観傾向と自己愛との間の相関、諦観傾向と友人関係への態度(深い友人関係を望むか否か、広い友人関係を望むか否か)との間の相関についても探索的に検討した。予測どおり諦観傾向と自己肯定感の間には強い負の相関が示されたほか、諦観傾向と自己愛の下位概念である主導性との間に弱い負の相関がみられた。また、諦観傾向と友人関係への態度の間には性差がみられ、男性は諦観傾向が強いほど狭い友人関係を志向するのに対し、女性は諦観傾向が強いほど浅い友人関係を志向するという結果が得られた。
著者
小島 弥生 Yayoi KOJIMA
出版者
埼玉学園大学
雑誌
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇 = Bulletin of Saitama Gakuen University. Faculty of Humanities (ISSN:13470515)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.67-74, 2011-12-01

賞賛獲得欲求と拒否回避欲求という2つの異なる承認欲求について、先行研究においては個々の欲求が人の認知や行動に与える影響力や認知・行動との関連の検討は行われてきたが、2つの承認欲求がともに強い人の特徴は明らかにされていない。本研究では認知的方略としての防衛的悲観性が、2つの承認欲求がともに強い人にみられる認知的方略であることを明らかにすることを試みた。大学生を対象とした調査研究から尺度得点の比較を行い、賞賛獲得欲求と拒否回避欲求のともに強い人が防衛的悲観性を有している可能性が示唆された。
著者
小島 弥生 Yayoi KOJIMA
出版者
埼玉学園大学
雑誌
埼玉学園大学紀要. 人間学部篇 (ISSN:13470515)
巻号頁・発行日
no.13, pp.83-96, 2013-12

大学生が学業場面で他者からほめられる際に、ほめ言葉を発する相手やほめ言葉が伝えられる状況が、ほめの受け手の心理的反応(感情・認知)にどのように影響を及ぼすかについて想定場面を用いた質問紙実験で検討した。実験参加者148名は相手(教員・同級生・後輩)と状況(直接・伝聞)を組み合わせた6つの実験条件のいずれか1つに割り当てられ、ほめ言葉の受けとめ方、相手のほめ行動の受けとめ方、場面から感じる感情(肯定的、否定的)を回答した。さらに、心理的反応を調整する個人差変数として、賞賛獲得欲求と拒否回避欲求を測定し、分析に投入した。結果は仮説の一部を支持し、直接ほめ言葉を聞かされる場合よりも第3者から相手のほめ言葉を伝え聞く場合の方が、ほめ言葉やほめ行動を肯定的に認知することが示された。ただし、教師が相手のほめの場合に状況間での認知の違いはみられず、同級生からほめられる場合に状況間での認知の違いが顕著となった。すべての条件において肯定的な感情が高く評定されていたが、賞賛獲得欲求はほめに対する肯定的感情を促進し、拒否回避欲求は肯定的感情を抑制する調整効果があることも示された。
著者
浦上 涼子 小島 弥生 沢宮 容子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.309-322, 2015
被引用文献数
7

本研究では, 体型に関するメディアの情報を受けた個人が, その影響から痩身理想をどの程度内在化しているかを評価するSociocultural Attitudes Towards Appearance Questionnaire-3 Revised(SATAQ-3R ; Thompson, van den Berg, Keery, Williams, Shroff, Haselhuhn, & Boroughs, 2000)の日本語版を作成し, 大学生の痩身理想の内在化とメディア利用頻度との関連性について検討した。研究1では, 男女大学生1,054名を対象に調査を実施し, 29項目(4下位尺度)の日本語版SATAQ-3Rを作成し, 尺度の信頼性と妥当性を確認した。研究2では, 男女大学生998名を対象に日本語版SATAQ-3Rとインターネットやテレビ, 雑誌といったメディア利用頻度との関連性を調べた結果, 男性より女性のほうが, メディアの影響を受けて痩身理想を内在化し, メディア情報を重要だと考え, 外見に関するプレッシャーを感じていることが示された。一方でスポーツマン体型への内在化は女性より男性のほうが高いことが示された。また, メディアのうち特にテレビと雑誌が大きく影響を及ぼす可能性が示され, わが国の摂食障害患者の増加を防ぐためにも, 学校教育におけるメディアリテラシー教育の重要性が示唆された。