著者
小島 聡子
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
Artes liberales (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.69-86, 2010-06-25

近年,地域の言語の多様さの例として,伝統的「方言」ではなく「標準語」とも異なる独特の言葉が取り上げられるようになってきた。これらの語のあり方の多様さを反映して,「地方共通語」や「新方言」など様々な用語もある。具体的には,東北地方に特有なものとして「しなきゃない」(=「しなければならない」),「お先します」などが知られている1)。本稿では,そのような伝統的「方言」とも「標準語」とも異なる地域に独特な言い方について,岩手の例を挙げてみたい。
著者
小島 聡子
出版者
国立国語研究所
雑誌
国立国語研究所論集 (ISSN:2186134X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.27-41, 2013-05

近代は「言文一致体」・「標準語」を整備し普及させようとしていた過渡的な時代である。そのため,当時,それらの言語とは異なる方言を用いていた地方出身者は,標準語を用いる際にも母語である方言の影響を受けた言葉づかいをしている可能性があると考え,近代の東北地方出身の童話作家の語法について,彼らの言葉づかいの特徴と方言との関連について考察した。資料としては,宮沢賢治の『注文の多い料理店』,浜田広介の『椋鳥の夢』を全文データ化してコーパスとして利用した。その上で,文法的な要素に着目し,格助詞・接続助詞等の一部について,用法や使用頻度・分布などを既存の近代語のコーパスと比較し,その特徴を明らかにすることを試みた。また,『方言文法全国地図』などの方言資料から,彼らの言葉づかいと方言との関連性を探った。その結果,格助詞「へ」の用法・頻度については,方言の助詞「さ」の存在が関連している可能性があることを指摘した。また,接続助詞の形式,限定を表す表現などにも方言からの影響がある可能性を指摘した。
著者
盛田 紗緒莉 小島 聡子 MORITA Saori KOJIMA Satoko
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
Artes liberales : Bulletin of the Faculty of Humanities and Social Sciences, Iwate University = アルテスリベラレス : 岩手大学人文社会科学部紀要 (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
no.97, pp.29-42, 2016-01

一般に,大学は高校よりは広い地域から学生が集まっている。そのため,大学入学後異なる言語圏の出身者と話す機会が増え,言葉の地域差のヴァリエーションに興味を持つ学生は少なくない。岩手大学の学生は,東北地方出身者が8割以上を占め,中でも半数近くは岩手県の出身1)なので,首都圏の大学に比べれば,言語のヴァリエーションは少ないかもしれない。しかし,東北地方の面積は広大で内部の言葉の地域差は小さくなく,岩手大学の学生たちも,大学進学後に言葉の違いに気がつくことがあるのは他の大学の学生と同じである。 とはいえ,岩手大学の学生たちが大学で必ずしも「地元の言葉」で話しているというわけではない。近年は「方言ブーム」などもあって,方言に対する劣等感は減っているという指摘もあるが,東北地方では未だに方言に対するコンプレックスは根強く,学生たちも例外ではない。そのため,「地元の言葉」は出さないようにしている学生も少なくない。また,特に盛岡市など都市部出身の学生たちは,自身の言葉を「標準語である」と意識しているか,あるいは少なくとも「あまりなまっていない」と思っていることが多い。つまり,お互いに「標準語」で話していると思っている学生が多いのである。それにもかかわらず,通じない言葉があり,それが地域差によるものであると発見すると,一段と興味をそそられることも多いようである。 本研究では,そのような「標準語」的な表現の中で一部の学生たちが用いている「あるくない?」「するくない?」などと使う「クナイ」という形に注目し,東北地方における地域的な広がりと使用状況を明らかにしようとするものである。 「あるくない?」は動詞「ある」に「クナイ」という形式が付いた形で,「あるよね?」あるいは「あるんじゃない?」と同じような意味を持つ表現として用いられる。岩手大学では,主として秋田出身の学生が多く発話していることが観察される。しかし,岩手大学でも使用しない学生の方が多く,初めて聞いて驚く人も少なくない。一方,「あるクナイ」を使用する人は,相手に驚かれて初めて通じない場合があると気が付くようである。この形は,秋田県のいわゆる伝統的な方言の範疇に入るような表現ではなく,使っている人にも方言であるという意識はない。 そこで,本稿では,「あるくない」のような〈動詞+クナイ〉という形式が,どのような地域的な広がりを持ち,また,どのように用いられているのかについて,岩手大学の学生を対象に東北地方における実態を調査した。 その結果,秋田県では地域的にも広く用いられ,また,待遇的にも敬体で用いられることもあるなど,用法も広いことが明らかになった。さらに,周辺への広がりという点では,秋田県の南側に接する山形県では同様に用いられている可能性があるが,岩手県・青森県・宮城県・福島県ではほぼ用いられることがないことがわかった。
著者
小島聡子
出版者
明海大学
雑誌
明海日本語
巻号頁・発行日
no.8, 2003
著者
盛田 紗緒莉 小島 聡子
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
Artes liberales (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
vol.97, pp.29-42, 2016-01-29

一般に,大学は高校よりは広い地域から学生が集まっている。そのため,大学入学後異なる言語圏の出身者と話す機会が増え,言葉の地域差のヴァリエーションに興味を持つ学生は少なくない。岩手大学の学生は,東北地方出身者が8割以上を占め,中でも半数近くは岩手県の出身1)なので,首都圏の大学に比べれば,言語のヴァリエーションは少ないかもしれない。しかし,東北地方の面積は広大で内部の言葉の地域差は小さくなく,岩手大学の学生たちも,大学進学後に言葉の違いに気がつくことがあるのは他の大学の学生と同じである。 とはいえ,岩手大学の学生たちが大学で必ずしも「地元の言葉」で話しているというわけではない。近年は「方言ブーム」などもあって,方言に対する劣等感は減っているという指摘もあるが,東北地方では未だに方言に対するコンプレックスは根強く,学生たちも例外ではない。そのため,「地元の言葉」は出さないようにしている学生も少なくない。また,特に盛岡市など都市部出身の学生たちは,自身の言葉を「標準語である」と意識しているか,あるいは少なくとも「あまりなまっていない」と思っていることが多い。つまり,お互いに「標準語」で話していると思っている学生が多いのである。それにもかかわらず,通じない言葉があり,それが地域差によるものであると発見すると,一段と興味をそそられることも多いようである。 本研究では,そのような「標準語」的な表現の中で一部の学生たちが用いている「あるくない?」「するくない?」などと使う「クナイ」という形に注目し,東北地方における地域的な広がりと使用状況を明らかにしようとするものである。 「あるくない?」は動詞「ある」に「クナイ」という形式が付いた形で,「あるよね?」あるいは「あるんじゃない?」と同じような意味を持つ表現として用いられる。岩手大学では,主として秋田出身の学生が多く発話していることが観察される。しかし,岩手大学でも使用しない学生の方が多く,初めて聞いて驚く人も少なくない。一方,「あるクナイ」を使用する人は,相手に驚かれて初めて通じない場合があると気が付くようである。この形は,秋田県のいわゆる伝統的な方言の範疇に入るような表現ではなく,使っている人にも方言であるという意識はない。 そこで,本稿では,「あるくない」のような〈動詞+クナイ〉という形式が,どのような地域的な広がりを持ち,また,どのように用いられているのかについて,岩手大学の学生を対象に東北地方における実態を調査した。 その結果,秋田県では地域的にも広く用いられ,また,待遇的にも敬体で用いられることもあるなど,用法も広いことが明らかになった。さらに,周辺への広がりという点では,秋田県の南側に接する山形県では同様に用いられている可能性があるが,岩手県・青森県・宮城県・福島県ではほぼ用いられることがないことがわかった。
著者
大野 眞男 鑓水 兼貴 竹田 晃子 小島 聡子 吉田 雅子 小島 千裕
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

近代国語観の変遷に関して、各地に散在する全国各県の地方教育会資料から方言関係記事を抽出した戦前期地方教育会雑誌方言関係記事データベース(PDF形式1527ファイル)を作成した。戦前期地方教育会資料が収載された膨大な方言情報の活用に関して、岩手県郷土教育資料(昭和11年・15年)に反映した岩手の小学校教師たちの草の根的な国語観を分析した上で、岩手県郷土教育資料に収載された14681点の方言情報についてデータベース化を行い、これを活用して昭和初期の岩手県方言地図の電子的復元を試行した。これらの研究成果の報告会を岩手県立図書館と共催で開催した。