著者
菊地 悟
出版者
岩手大学
雑誌
岩大語文 (ISSN:09191127)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.109-101, 2007

一般的に、日本語では性差が大きく、会話文を並べただけでどれが男性のものでどれが女性のものか、判断することができると言われている。判断のポイントは、特に一人称・二人称の代名詞、また、文末の終助詞であり、「俺は待ってるぜ」「私は待ってるわ」「お前にできるかな」「あなたにできるかしら」といった文から、それぞれの発話者の性別を推測することは容易であろう。しかし、たとえば女性特有の終助詞とされる「かしら」を、実際の日常会話の中で耳にすることはほとんどない。テレビドラマや小説・戯曲など創作の中では、男女を書き分けるのにうってつけの素材として今でも重宝に使われているかもしれないが、たとえば学生や院生に聞いてみても「使ったことがない」「使う人を見たことがない」という答えが返ってくるような状態である。である。こうした変化について、遠藤織江は、『日本語学研究事典』の「女性語」の項で、以下のように述べている。現在「女性語」の特徴は、女性専用の終助詞・人称詞・感嘆詞の使用と、動詞の命令形不使用などにあるとされる。しかし、最近の調査では、従来女性専用とされた「かしら」「だわ」「のよ」のような文末用法を使用する女性が減っていること、男性専用とされた、文末の「だ」「だよ」「なあ」、動詞に直接接続する「よ」などを使用する女性が増えてきたこと、スポーツ場面などで命令形や「ぞ」を使う女性がみられることなど、女性専用用法とされた用法の減退と、男性専用とされた語や用法を取り入れている女性が増えていることなどが報告されている。筆者は岩手大学教育学部の「日本語のヴァリエーション」という授業の1コマで、言語の性差の問題を取り上げてみた。具体的には昭和57(1982)年、男女のデュエット曲としてヒットした「三年目の浮気」(作詞・作曲:佐々木勉、歌:ヒロシ&キーボー)の歌詞を提示し、男女のパートを交換して書き換えるという課題に取り組ませてみた。筆者の記憶には、かつて「ザ・ベストテン」という番組で1回限りの企画として同様の試みを行ったことが、今なお鮮明に残っている。はや四半世紀も前のことではあるが、そのときの歌詞もほぼ覚えているつもりである。男女の人称代名詞と終助詞を機械的に入れ替えていたほか、元歌のリフレインの部分で男性の言葉が命令調の「大目にみろよ」から懇願調の「大目にみてよ」に変化するくだりが、替え歌の女性の言葉では「大目にみてよ」から「大目にみてね」への変化に置き換えられていたのが印象的であった。なるほど、女性には命令表現が許容されていないのか、と思ったものである。今回の課題でも、ほぼ同様な書き替えが見られるのではないかと想定していたのであるが、学生から提出された課題に目を通したところ、現代の大学生は必ずしも以前なら当然想定されたような変更を加えているわけではないことに気が付いた。そこには、前述のような、言語の性差の減退現象の一端が現れているのかもしれない。そこで、本稿では学生の了解のもと、その提出物を資料として、現代大学生がどのように歌詞の変更を行ったかを紹介し、現代における言語の性差意識について考察を加えてみることとする。
著者
佐々木 淳 岡田 啓司 佐藤 至 佐藤 洋 千田 広幸 大谷 久美子 池田 光秀 池田 美喜子 山本 幸男 渡部 典一
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故から1年が経過した頃より、福島県の帰還困難区域内で飼育・維持されている黒毛和牛の皮膚に白斑がみられはじめ、放射線被ばくの影響が懸念されたことから、その原因究明のため調査・研究を行った。白斑は頭頚部、体幹部、四肢などほぼ全身で認められた。白斑の大きさは直径1cm程度であり、白斑部では被毛の白色化とともに皮膚が肌色に退色しているものもみられた。皮膚生検による組織学的検索では、病変部に一致してメラニン色素の減少・消失とメラノサイトの減数が認められた。本研究結果より本病変は尋常性白斑と診断され、原因はメラノサイトの減少と活性低下の可能性が示唆された。
著者
衛 飛
出版者
岩手大学
巻号頁・発行日
pp.1-208, 2014

小型2 ストロークエンジンは燃料と潤滑油を混合して,一緒にシリンダー内に供給する混合潤滑方式をとるものが多数である.この潤滑油から,燃焼室堆積物(CCD :Combustion Chamber Deposit)が多量に生成し,その一部が剥離し,摺動面に入り込むことも摩耗促進の一因であるとされている.さらに燃焼室内にCCD が堆積することによって生じる影響として,排気孔やマフラー周辺の汚れ,排気ガス悪化,異常燃焼,出力低下,要求オクタン価の増大など様々な影響がある.シリンダーの摩耗は,シリンダーとリングの機械的な摺動,温度,圧力,トライボケミカル反応など多くの要因が関係する.そのため,実機実験では各要因の影響を個別に判定し難く,そのために,往復摺動試験機を用いた模擬実験が有効となってくる.また,近年の資源枯渇問題や環境問題から代替燃料への取り組みとしてメタノール燃料が注目されている.しかし,メタノール燃料を用いた場合,メタノールが極性を持つため市販の2 ストローク用潤滑油とは混合せず,シリンダー壁面での潤滑油特性はガソリンを燃料とした場合とは異なってくる.そこで本研究では2 ストロークエンジンの燃料の差異が摩耗に与える影響を明らかにするため,以下の三つ実験を行った.1) 実機エンジンにおいて,ガソリンおよびメタノールを燃料としたときの運転経過によるシリンダー摩耗の進行状況について調べ,2)壁面潤滑油特性について,運転中にシリンダー壁面に存在する油を採取し,エンジン内での潤滑油の状態について検討し,3) 往復摺動試験機による摩耗進行試験を行ない,小型2ストロークエンジンの運転状況を模擬し,潤滑油新油とその劣化油および新油と劣化油の混合液を用いて,シリンダー壁面の摩擦と摩耗特性を研究した.本論文の構成は以下のとおりである.第1 章 諸論 本論文の背景とその位置付け,研究目的について述べる.第2章 実機運転における摩耗の進行 摩耗試験により得られた結果をまとめることにより,2ストローク機関におけるシリンダーおよびリングの摩耗特性を考察する.燃料には市販レギュラーガソリンおよびメタノールを用い,汎用の空冷単気筒2ストローク火花点火機関を長時間運転し,シリンダーおよびピストンリングの摩耗進行について比較を行う.シリンダーは円筒形状を高精度で測定できる真円度測定器を用いた測定を試みる.これより,任意の摺動方向八方向のみの摩耗量測定であったものが,全体の形状変化として円周方向も詳細に捉えることが可能となる.また,ピストンリングの摩耗形態を調査するため,摺動面にビッカース痕を付け,レーザ顕微鏡を用いて,圧痕の深さを測定することにより摩耗量を調査する.第3 章 シリンダー壁面における潤滑油特性 メタノール燃料を用いた場合,市販の2ストローク用潤滑油は混じり合わないため,シリンダー壁面での潤滑状態がガソリン燃料と異なると思われる.そのため,運転中にシリンダー壁面に付着した油膜を採取し,ガソリン燃料およびメタノール燃料を用いたときの粘度測定および熱重量分析,示差熱分析を行い,エンジン内での潤滑油の挙動を推定する.このことより得られた結果と第2 章での摩耗実験の結果を比較し,市販のガソリン用に用いられる2ストローク用潤滑油がメタノール燃料を用いた場合でも使用可能であるかを判断する.粘度測定にはカップアンドコーン型粘度計を用いて,温度-粘度特性を調べ,潤滑状況を検討する.第4 章 往復摺動試験機による摩耗試験 実機エンジンにおいて摩擦摩耗に及ぼす影響因子を明らかにするために,往復摺動試験機で実験を行う.摺動試験片には実機エンジンのシリンダーとピストンリングから切り出したものをもちい,その摺動面に2ストローク用潤滑油と燃料を混合したものを供給する.供給燃料としてはガソリンおよびメタノールを用いる.摺動試験機の負荷を変化させ摺動試験の時間経過による,摩擦係数および摩耗量を測定して,その結果に及ぼす潤滑油混合割合や燃料種類の違いによる影響を調べ,実機機関における摩擦摩耗との関係を検討する.第5 章 実機実験と摺動試験の関係 実機実験と摺動試験の実験結果を比べて,摺動試験の実機実験における有効性を検討する.また,実験条件と同じ場合の得られた結果の関連性を分析する.さらに実機実験と摺動試験の関係を得られた.第6 章では,本論文で得られた結論を述べた.これらの実験的研究により,小型2 ストロークエンジンに代替燃料としてメタノールを用いた場合のシリンダートライボロジーについて実機運転と往復摺動試験機を用いた実験の両面から研究を行い,その成果として,市販2ストローク用潤滑油を分離潤滑方式で供給を行えば,メタノール燃料を用いた場合でも十分運転が可能であると思われ,ガソリンの代替燃料として期待できることが分かった.
著者
織田 信男 山口 浩 伊藤 拓 山本 眞利子
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2015-04-01

平成29年度は、スーパーヴァイジー(Svee)2名に対して平成28年10月より開始した第2期1年目のスーパーヴィジョン(SV)を2年目の平成29年4月から11月まで継続して実施した。その後、第3期のSveeを募集したが応募者は1人であり、12月から3月までは1人のSveeに対してマッチングを考慮の上でスーパーヴァイザー(Svor)を選定し、SVを実施した。研究の手続きは、平成27年度を踏襲し、SVを対面・電子メール・スカイプの3つのコミュニケーションメディア(CM)を用いて順番に実施した。3人の異なるオリエンテーションを持つSvorと同一のSveeへのアンケートデータをもとに、メールSVによる事例困難度の得点について3(Svor A・Svor B・Svor C)×2(事前・事後)の分散分析を行った。結果は時間の主効果のみが認められた(F(1,10)=5.65, p<.05)。メールSVは対面SVやSkype SVに比べてSveeによるSVの評価が低くなる傾向があるが、Svorによる評価を上げるための工夫がアンケート結果から確認された。具体的には、Sveeのニーズに応えるためにSveeにフィードバックを求めるといったメールのやりとり回数の増加、複数の視点をまとめて返す形式からSveeのケース報告資料にSvorのコメントを書き込む形式への変更、平均8つのケース(全てのケース)に短いコメントを返す形式から一つのケースに絞って返事をまとめて返す形式への変更等が認められた。これらの研究知見を第28回日本ブリーフサイコセラピー学会京都大会で発表する予定(投稿済み)。
著者
松坂 尚典 佐藤 至 西村 義一 志賀 瓏郎 小林 晴男 品川 邦汎
出版者
岩手大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1992

実験動物(マウス及びラット)に放射性亜鉛(Zn-65)及び放射性マンガン(Mn-54)を投与して、胎子、胎盤、胎膜における両核種の取り込みを追跡した。さらに、妊娠末期のラットに両核種を投与したのち分娩させ、在胎中に胎盤を経て胎子に移行した両核種の量と、生後に新生子が母乳を介してもらい受けた量を調べた。1.妊娠17日のマウスにZn-65及びMn-54を1回静脈内投与したのち、24時間目における胎子の取り込み量を調べたところ、それぞれ1腹あたりで36%及び9%となった。すなわち、マウス胎子におけるZn-65の取り込みは、Mn-54のそれよりも約4倍ほど多くなることが観察された。2.妊娠0日、7日、14日のマウスに両核種を1回皮下に同時投与して、分娩直後の新生子における取り込みを調べた。分娩直後の新生子におけるZn-65の取り込み量は、妊娠0日、7日、14日群で、それぞれ1腹あたりの値が11%、12%及び28%となり、妊娠初期に投与された場合よりも妊娠後半に投与された場合の方が、胎盤を経て在胎中に取り込まれた量が多くなった。Mn-54でもほぼ同様の傾向が認められたが、分娩直後の新生子における取り込み量は、Zn-65に比べて1/3から1/4となった。3.妊娠末期のラットにZn-65を1回投与したのち分娩させ、分娩直後の新生子における取り込み量を測定した。そののち、同日に分娩したZn-65無投与ラットの新生子と一部交換して哺乳させた。分娩直後の新生子には投与量の3%(1腹あたりでは約30%)が取り込まれており、さらに離乳するまでには母乳を介して1.5%(1復あたりでは約15%)が移行した。Mn-54についても、ほぼ同様の傾向が認められた。これらの結果から、Zn-65及びMn-54に関しては、胎児への経胎磐移行とともに、母乳を介する汚染経路が重要であると考えられる。
著者
武田 京子
出版者
岩手大学
雑誌
岩手大学教育学部研究年報 (ISSN:03677370)
巻号頁・発行日
vol.64, pp.122-130, 2004
著者
安井 もゆる 小川 春美 吉原 秋 鈴木 道也 小川 知幸 畑 奈保美 津田 拓郎 田村 理恵
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

世界史学習の意欲が喚起されるのはどのようなときか。本研究は学生および高校教員への聞き取り調査等により、世界史学習の契機、実践そしてその際の内面を質的に調査することによって、基礎教養的であるとともに問題解決志向型であるような新しい世界史授業の開発・提案を行い、学問と教育の架橋を目指すものである。方法としては、大学生・短大生を対象に聞き取り調査を行い、高校までの世界史学習への評価・世界史学習への動機づけ等を明らかにする。また、高大連携に積極的な学界全体の動向を踏まえ、全国の高校の世界史教員にも聞き取りすることにより、授業での学習意欲を高めるための取り組みを調査する。
著者
鈴木 幸一 御領 政信 品田 哲郎 寺山 靖夫 吉岡 芳親 高橋 智
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(S)
巻号頁・発行日
2011-04-01

カイコ冬虫夏草ハナサナギタケの熱水抽出物から同定した新規の生物活性分子は、マウス海馬に発生したアストログリオーシス(神経膠症)修復の最有力候補であり、その分子メカニズムを解明することでヒトへの応用開発を進めた。その結果、培養アストロサイトに新規生物活性因子を添加することで、神経成長因子と神経成長因子誘導体の遺伝子が発現し、さらに神経初代細胞への効果として神経突起形成を誘導した。このin vitroの分子機構に基づいて、老化促進マウスの脳機能は向上し、ヒトのアルツハイマー型認知症患者の前臨床試験でも改善効果が確認され、新しい機能性食品と医薬品候補を提案した。
著者
北村 一親
出版者
岩手大学
雑誌
Artes liberales (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
vol.81, pp.1-35, 2007-12

岩手大学人文社会科学部紀要Ἦταν στρυϕνός, οἱ ϕίλοι του ἦταν λίγοι( Σεϕέρης( 1979: 266))本稿は筆者が「人文学の終焉,或いは過去との訣別」という副題を供し,1998年9月28日に行った岩手言語学研究会における研究発表を基に,その後の東京外国語大学大学院での集中講義,筆者が独自に企画したロマンス語学セミナー,更に岩手大学人文社会科学部で筆者が担当する講義・演習等の中で学生諸君に語ったことを再構成したものである。 向後,知性が軽視され,曲解され,若い世代が貧弱な知性に曝されることになるとしたら,また彼等がそのような状況の中で成長し,更に次世代を育てていくとしたら,燦然とした人類の未来を望むことは難しいであろう。我々は知性の時代の終焉を阻み,豊かな知性を眷養すべく全身全霊を賭して学道に情熱を注ぐ必要がある。マクス・ヴェバ(ウェーバー)が„Nun kann man niemandem wissenschaftlich vordemonstrieren, was seine Pflicht als akademischer Lehrer sei. Verlangen kann man von ihm nur die intellektuelle Rechtschaffenheit"「大学で教鞭をとるものの義務はなにかということは,学問的にはなんぴとにも明示しえない。かれにもとめうるものはただ知的廉直ということだけである」( Weber( 1919:24),邦訳はウェーバー( 1980:49)6 bis))と嘗て説いたのと同じく現在の我々,大学人に求められるものは,「知的な誠実さ,公正さ」である。 「大学は,政治的には,いつの世でも,無力であり,大学の武器は,精神力と真理だけ」(滝川(1960:28))であるからこそ時流に流されることなく,あらゆる感覚を鋭敏にして時局に臨む覚悟が我々に要求される。人文学的知見は当にこの感覚を涵養せしむるものである。 周知の如く,劣僕なる筆者は諸彦諸賢には及ぶべくもないが,弱才乍らも研究及び教育を行う上で経験し思料したことを人文学の発展のために微力ながら供することができれば幸甚であると考え,本拙文を起稿した次第である。故に本稿にて筆者が所懐を述べるに僭越な点,数多あれども,平に御容赦あれかし。 以下,先んじて現在の日本における知性の悲況を一瞥し,人文学的知見を涵養することが如何に大切であるかを提示する所存である。本稿は晦渋な措辞,並びに煩多な憑拠の多用にも拘らず耐忍の上,読過される聖哲諸氏に供せんとするものである。"And he said unto them, He that hath ears to hear, let him hear." 「人文学」に対する概念定義は「人文学方法論(別稿)」にて行うが,本導論を通読する上で必要な程度の定義をここに示しておくことにする。本稿でいう「人文学」とは「自然科学」Naturwissenschaft と対立する概念であり,方法論においてハインリヒ・リケルトが相対的に「一般化的」であるとした「自然科学」と対立させて,相対的に「個性化的」であるとした非自然科学の諸学を統括した「文化(科)学」Kulturwissenschaft と等価である。但し,本稿では「人文諸学」という観点から正確にはKulturwissenschaften と対応するが,「人文諸学・文化諸学」とはせずに,総称的に「人文学」という名称を用いた。誤解の無いように付言するならば,Kulturwissenschaften と言っても本稿は文献学的伝統を基盤に据えることをあくまで重視するという点で当代の「文化科学」cultural studies とは一線を画する。アラン・ソウカルの『ソウシャル・テクスト』誌事件が本稿の意趣を代って表しているのでここでは更なる説明を省略する。(ソーカル / ブリクモン(2000)。当代の「文化科学」に対するゲルマニストからの批判は木村(2003)を参照) アルヴィン・カーナンが言及する領域は本稿とは異なり,「社会科学」分野が含まれないが,最も判りやすい言葉で「人文学」の核となる概念を説明しているのでここに引用しておく。(その邦訳で「人文科学」としている英語の原語はhumanities である。) カーナン曰く,「人文科学とは,人間が語る物語,人間の思考方法,人間の過去の姿,言葉によるコミュニケーションや説得,そして,なかでも人間の存在の奥底を突き動かす音楽などの研究からなる。これらの学問領域は,換言すれば,最も根本的な人間的な知の方法についての研究であり,日常生活を送るうえだけでなく,人間が生きるうえで最も役に立つものである。」(カーナン(編)( 2001:3)) 筆者としては極度にスコラ学Scholastik に傾くのを避けながら,Logica(論理)として統括されるArtes sermocinales, logicae, verbales のトリウィウムTrivium を中心に,Physica(自然) として纏められたArtes reales のクワドリウィウムQuadrivium をも包容させて,つまり「人文」と「自然」を連繋すべくアルテス・リベラレスArtes liberales( Freien Künste) を常に視野に収めて人文学研究を進めたいと念じている。これは人間が宇宙をも含む壮大な自然と調和するための欠くべからざる視点であると考える。(アルテス・リベラレスにおける諸学に関してはKoch(hrsg.)( 1959) の諸論文を参照。) なお,外国語の固有名を片仮名表記する場合,『外来語の表記(内閣告示・内閣訓令)』等を参考にしながらも原語の発音を可能な限り忠実に写すことを旨とした。外来語音ということで日本語の音韻体系の枠組みから外れることがあることも明記しておく。よって,筆者の表記が翻訳者の表記あるいは一般に普及している表記と異なる場合も生じたが,翻訳書の書誌的記述では当然ながら翻訳者の表記法を踏襲した。(但し,今更,如何ともし難い国名等の表記においては慣用に従わざるを得なかった。)
著者
佐々木 正輝
出版者
岩手大学
巻号頁・発行日
pp.1-53, 2010

現代社会はストレス社会ともいわれ,私たちには様々なストレスがのしかかっている。フラストレーション事態や葛藤に陥った時,理性的に対処して合理的解決ができず,非生産的で不適切な行動に走ってしまう人を社会不適応という。この不適応の反応様式は多岐にわたるが,二つに大別され,自己内に逃避する消極的なものを非社会性,外部に向かって攻撃的,破壊的反応をとるものを反社会性という。高度経済成長をとげ,国民生活が向上し,便利生活が享受できるようになった昨今,そういった時代に生まれた私たちは,不健全な欲望に対する自己抑制力や逆境に対する耐性が弱くなってきていることは否めない。同様に,高度情報化はそれらの問題に拍車をかけ,前述の非社会性を有した人々の逃げ場になっていると同時に,押しつぶされた反社会性の集積した場所になっている。一昨年6月の秋葉原連続殺傷事件といった凶悪犯罪が,近年たびたび日本のマスメディアを騒がせている。こういった猟奇的な殺人事件を起こす人間とは,いったいどんな人間なのだろうか。一説によると,この秋葉原連続殺傷事件の犯人は,神戸連続児童殺傷事件 (1997年) の犯人 (酒鬼薔薇聖斗・逮捕時14歳) や2000年の西鉄バスジャック事件の犯人 (ネオむぎ茶・逮捕時17歳) と,世間から注目を集めた少年犯罪と同世代 (同学年・1982年4月2日 - 1983年4月1日生まれ) であることから,「理由なき犯罪世代」として世代論について語られたこともある (産経新聞2008年6月11日) 。犯罪とパーソナリティの関係を考えると,凶悪犯罪者,重大犯罪者に多いとされるのが,サイコパスや,反社会性パーソナリティ障害 (ASPD) である。彼らは,社会規範に沿うことができない,自身の利益のために嘘をついたり人を操作したりする,衝動的で暴力行為に及ぶ傾向がある,無責任で自身の行為に自責の念をもたないといった性質をもち,集団生活において様々な不利益をもたらす場合がある。その性質上,犯罪を繰り返す人,快楽犯罪者などの意味で使われることが多い。また,サイコパスやASPDは,一般人口よりもこの障害を持つ人の生物学的第一度近親に多く,遺伝的要因を含んでいることがわかっている。一方でふつうの人々は罪を犯してしまう前に,自身の理性がブレーキをかけ,その行為を抑制する。犯罪者はそうした衝動性を止めることができずに実行に移してしまう点が一般の人々とちがうということができ,前述の遺伝のことを考えると,そこに何らかの先天的要因が存在すると予想できる。先天的なパーソナリティにおけるブレーキと考えられるのが,下記のCloninger理論における損害回避という概念である。Cloniger理論とは,気質と性格の7次元で構成され,パーソナリティと遺伝子多型との関連性の研究で,近年注目されている理論である。気質は先天的で,そのうち新奇性追求 (HA) ,損害回避 (HA) ,報酬依存 (RD) は,それぞれ,中枢神経内のdopamine,serotonin,norepinephrineの神経伝達物質の分泌と代謝に依存していると想定される (Cloninger,1987) 。中枢神経系内のserotonin分泌と関連があるとされる損害回避は,車でいえばブレーキに当たる存在であり,この傾向が強いと,不安を感じやすく,悲観傾向が強いとされる。一方で,この傾向が弱いとのん気で,危険行動を起こしやすいとされる (木島ら,1996) 。また,犯罪の生理学的研究として,犯罪者の脳波研究も古くから盛んに行われている。著者は学部時代から脳波について学ぶ機会に恵まれ,これまでも何度か測定を行ってきた。犯罪と脳波に関する研究は,従来,犯罪者に対するものがほとんどであり,犯罪行為に走る要因や,パーソナリティと脳波に関する研究は活発には行われてこなかったようである。そこで,本研究では,犯罪と深くかかわっている反社会性と損害回避の関連を明らかにすること,また,反社会性と脳波の関連を検証していくことを目的とする。
著者
馬 超波
出版者
岩手大学
巻号頁・発行日
pp.1-146, 2020
著者
花見 仁史
出版者
岩手大学
雑誌
特定領域研究(A)
巻号頁・発行日
1998

GRB970228をはじめとして、いくつかのバーストで、X線、光学、電波で残光現象が発見され、それが、矮小銀河の端に位置することも指摘された。ガンマ線バーストの先駆体は、寿命の短い大質量星などとすると、その形成地点は安定なディスク銀河中ではなく、不規則な矮小銀河の外縁にあることを意味し、銀河の星密度が濃い中心部ではなく、周辺で形成されることを意味し、そのような星形成がなぜ起きたかが問題になる。その銀河の形態とガスの状態とバースト源を生み出すはずの星形成との関係性をあきらかにすべく、銀河形成における星形成を視野に入れて、ダークハロー中で収縮するガスの分裂条件を調べた。角運動量を持っているガスが、収縮してディスクを形成し、あるものは分裂する。この分裂条件をシミュレーションと解析的手法を用いて、明らかにした。そのような知見をもとにすると、収縮率が大きく、角運動量による遠心力によって決まるディスクの半径がダークハロー半径の中に収まれば、分裂しやすいことが、明らかになった。これを、銀河形成の状況に当てはめると、ガス密度が高く、輻射冷却が効果的に聞く時機であるHigh-zで、分裂する条件が実現しやすいことが明らかになった。電波で観測されたこのバーストのシンチレーションの振舞は、相対論的膨張しているものから残光が放射されていると考えられるので、相対論的衝撃波説が強く指示される。しかしながら、このような相対論的衝撃波を形成するためには、火の玉と星間物質の互いのバリオン同士が充分相互作用する必要があり、銀河系内の宇宙線の拡散係数を用いると、衝撃波の厚みの目安になる1TeVの陽子の軌道変更距離が5pcにもなり、衝撃波は形成されない。ただし、比較的強い磁場10^4Gがあることにより、衝撃波の厚みを薄くすることができるが、星間物質にはこのような強い磁場は存在しない。したがって、バースト源からの放出体そのものが磁場を持っている必要がある。そこで、これらの困難を超えるものとして、我々は、 線バーストのモデルとして磁気波動砲を提出した。このモデルをさらに、回転の効果を入れた解析を行った。現在、この回転によるダイナモ効果を中心に、磁場の効果の研究を継続している。
著者
広田 純一 八巻 一成 藤さき 浩幸 土屋 俊幸
出版者
岩手大学
雑誌
萌芽的研究
巻号頁・発行日
1996

本研究の目的は、都市住民の中山間地域の農山村を舞台とした滞在型レクリエーション(=グリーンツーリズム)へのニーズに応えるとともに、中山間地域の活性化、およびそれを通じた農山村地域の環境保全を図るために、中山間地域の地域資源(自然、歴史文化、人材)をトータルに演出して観光資源として活用する方策を検討することである。最終年度である本年度は、中山間地域の滞在型レクリエーションの成功事例を比較検討し、その成功要因とともに、地域資源の観光資源としての生かし方のノウハウを探った。その結果、多くの事例は行政主導型であるが、その後の成功の如何は、主として地域住民の主体的参加および地域外の常連客(リピーター)づくりをいかに実現するかにかかっていること、その意味で、観光資源づくりの技術的なノウハウよりは、行政による住民のモチベーションの引き出し方、そして行政と住民の連携による受け入れ体制作りが重要であることが明らかになった。また、各種の施設づくり(宿泊施設、交流体験施設、直売所、農産物加工施設、飲食施設、地域の自然・歴史文化の展示施設等)やふるさと体験ツアーなどは、企画・計画策定段階から地域住民の参画を求めることによって、住民の参加意欲を引き出すことができるので、滞在型レクリエーションの受け入れ体制づくりの手段としても有効であることがわかった。さらに、持続的な滞在型レクリエーションを成立させるためには、宿泊、飲食、体験インストラクションなどについて、地域内の有機的な分業体制を敷くことが重要であることもわかり、成功事例の地域も含めて、今後の課題と言える。
著者
北村 一親
出版者
岩手大学
雑誌
Artes liberales (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.1-16, 1999-12
著者
阿久津 洋巳 平田 光彦
出版者
岩手大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

文字を読みやすくする空間配置を調べるために2つの問題を設定した。一番目は、文字認知に縦と横の配置はどのように影響するかであった。日本語は縦書きも横書きもでき、多くの印刷物にもそのどちらかが使われている。実験により、文字を読む視野の大きさを推定したところ、縦書きより横書きのほうが視野は大きかった。この傾向は、米国人でも日本人でも同様であった。二番目に、縦書きと横書きの読みやすさを、読みの速さを指標として調べた。縦書きと横書きに、読みの速さに違いはなかった。さらに「書の文字の美しさ」を研究課題に加えた。書の点画構成による美的効果を測定する尺度を開発し、実際の書の評価を実施した。