- 著者
-
小田 博志
- 出版者
- 日本平和学会
- 雑誌
- 平和研究 (ISSN:24361054)
- 巻号頁・発行日
- vol.56, pp.1-26, 2021-08-26 (Released:2021-08-26)
- 参考文献数
- 37
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは人類に何を問いかけているのだろうか?ワクチン接種に収斂しつつあるCOVID-19対策において、生体の自然治癒力および森林破壊、グローバル気候変動など生態学的な背景が等閑視されている。この行動のパターンは、自然から人間を切り離して、主体としての人間が客体としての自然を支配するという近代文明の前提に由来する。ここで自然と人間をいかにつなぎ直すのかという根本的な問題が浮上する。生きているということの本質規定は自発性であり、この生命の根拠は客観化も所有も支配も不可能である。この生きているということにおいて自然と人間とはつながっている。近代において植民地化されてきた先住民族の視点に立つと、個々の生きものだけではなく、世界が生きているということが見えてくる。この生きている世界では、動植物ばかりか、山や川や大地も生きており、互いにケアし合っている。このつながりの中で個々の生きものは生きている(内在性)。またつながりのケアは世代間で継承される(世代間平和)。深い脱植民地化が向かう先はこの生きている世界である。多様な存在者がつながり合って生きている様を、人間を含むいのちの網の目のイメージで捉えることができる。これは先住民族/近代人の別なく存在論的に基層の次元にあたる。いのちの網の目の存在論に基づくと、研究、言葉、技術、経済、そしてパンデミックとの関わりも自ずと変わらざるを得ない。