著者
小田 裕昭
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.137-149, 2007-06-10 (Released:2009-01-30)
参考文献数
41
被引用文献数
2 5

必須アミノ酸, 非必須アミノ酸という命名法の問題点は古くから指摘されてきたが, 特に非必須アミノ酸の定義には曖昧さもあり, 厳密にすればするほど複雑になってしまう。必須アミノ酸の必須性は, 主にその炭素骨格に依存しているが, 必須アミノ酸を生体内で合成するには長いステップを必要とするため, 進化の過程でその合成系が失われたと推測される。原核生物, 植物, 菌類は, すべてのアミノ酸合成能をもっているため必須アミノ酸をもっていない。一方, ヒトを含むすべての動物から原生生物の細胞性粘菌は必須アミノ酸をもち, その必須アミノ酸はほとんど同じである。原生生物の進化のあるときに10種ほどのアミノ酸合成能が一斉に失われたようである。ゲノム情報からもこのことが裏付けられる。原生生物の進化過程の限られた時期に複数のアミノ酸合成能を欠落させた原因は不明である。
著者
小田 裕昭
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

栄養・運動・睡眠は健康の要である。この3つの要素は生物時計という観点で見ると,統合的に制御できると考え、臓器間時計ネットワークの同調を介して代謝を正常化させて健康に結びつけるための分子的基盤を明らかにすることを目指した。摂食リズムが不規則になるモデルとして,ダラダラ食いや,夜食症候群モデルを作成してきたが,ヒトでも起きうる不規則な摂食タイミングとして朝食欠食を取り上げた。朝食欠食は,休息期から最初の食事が数時間だけ遅れるだけであるが,代謝異常が起きることが多くの研究で明らかになっている。朝食欠食モデルを作成して,様々な実験食を与えて,実験を行ってきた。高脂肪食では,肝臓時計と肝脂質代謝のリズムが数時間遅れるが,高コレステロール食では,肝臓時計が変化せずに肝脂質代謝が遅れた。いずれの場合も活動期の体温上昇が遅れることは同じであり,摂食タイミングの数時間の遅れが,脳視床下部の体温中枢へは同じ影響を与えていることがわかった。何を食べるかということと,そのタイミングが相乗的な効果を生んでいることが初めてわかったためその因子を検討しはじめることにした。時計リセット食品の探索の一貫として,まず三大栄養素の中でほとんど検討されてきてこなかった糖質について検討した。スクロースでは,肝脂質代謝の異常が生じることが知られているが,肝臓時計に影響を与えることはなかった。ところが,肝脂質代謝酵素のリズムを大きく変動させていた。これまで脂質代謝酵素のリズムは,肝臓時計の支配下にいると考えてきたが,食事成分が代謝のリズムを独立に制御することが明らかとなった。
著者
千々松 武司 山田 亜希子 宮木 寛子 吉永 智子 村田 夏紀 秦 政博 阿部 和明 小田 裕昭 望月 聡
出版者
公益社団法人 日本食品科学工学会
雑誌
日本食品科学工学会誌 (ISSN:1341027X)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.63-68, 2008-02-15 (Released:2008-03-31)
参考文献数
20
被引用文献数
3 8

タイワンシジミは肝臓に良いとされ台湾で食されているが,その科学的根拠は乏しい.そこで本研究では,ラットにおいてD-ガラクトサミン誘発肝障害およびエタノール急性投与誘発脂肪肝に対するタイワンシジミ抽出物の効果を検討した.D-ガラクトサミン誘発肝障害に対し,タイワンシジミ抽出物は血清AST値およびALT値の上昇を有意に抑制した.また,エタノール急性投与誘発脂肪肝に対し,タイワンシジミ抽出物は肝臓脂質の上昇を抑制する傾向を示した.また肝臓のコレステロールは有意に低下した.更に,エタノールを急性経口投与したラットの血中エタノールの消失速度を有意に速めた.これらの結果から,タイワンシジミ抽出物は肝炎および脂肪肝に対し予防効果を示し,アルコール代謝を促進する可能性が示唆された.
著者
小田 裕昭
出版者
公益社団法人 日本栄養・食糧学会
雑誌
日本栄養・食糧学会誌 (ISSN:02873516)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.331-342, 2023 (Released:2023-12-22)
参考文献数
71

栄養学は主に「何をどれだけ食べるか」について研究を行ってきた。一方, 栄養が充足される以前から人間の知恵として「規則正しい食生活は健康に秘訣だ」と考えられてきた。体のすべての細胞がその時計システムを備えており, 時計遺伝子による生物時計の制御機構が明らかとなった。さらに体内時計が食事により同調を受けることがわかり, 食事のタイミングは, 多くの代謝リズムを制御している。そして, 不規則な食生活をすると, 脂質代謝異常を誘発して, 肥満やメタボリックシンドロームなどに結びつくことがわかった。食事のタイミングによって形成される体内時計は個人の「体質」である。概日リズムをはじめとするさまざまな生体リズムの総体をリズモーム (rhythmome) としてとらえると, 健康を維持するため個人化対応した栄養学 (「プレシジョン栄養学」) の基盤データとしてとらえることが可能になる。時間栄養学を考えることにより, メタボリックシンドロームや生活習慣病, ロコモティブシンドロームを予防することが期待できる。