- 著者
-
尾形 邦裕
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2010
本研究の目的は人の持つ高度な運動スキルを解明し,ロボットの新たな運動制御法を確立することにある.本研究では,高度な運動スキルとして他者の身体を扱う動作に注目し,これを解析するために甲野善紀に実験協力を得た.そして片手で人を引き上げる動作,人を押す動作,竹刀で相手の姿勢を崩す動作など様々な動作の計測解析を行なってきた.そして各動作において動作の成否を分ける重要な運動特徴を抽出した.これらの運動特徴の有効性を検証する必要がある.そこで,片手で人を引き上げる動作及び押し動作において力学モデルを導出し,動力学シミュレータによってそのモデルの妥当性を検証した,その結果,いずれにおいても動作の主体者のみならず,受け手の運動も重要でありことが分かり,甲野は受け手に任意の運動を誘導することで少ない労力でタスクを成功させていることが分かった.本研究では,押し動作に注目し,解析から得た運動特徴に基づくロボットを開発した.押し動作では腕部の高剛性と全身を活用した瞬間的な加速度変化が重要であることが動作解析の結果から分かっている.腕部の高剛性は多関節筋の拮抗が重要な役割を果たしていると考えられ,これを実現するために空気圧人工筋をアクチュエータとして用いた.このロボットを用いた押し動作の実験の結果,受け手の運動誘導が確認され,運動特徴に基づくロボットの有効性が確かめられた.本研究で開発したロボットは運動特徴の重要な点を実装したに過ぎず,複雑な人の身体において運動特徴が重要な役割を果たしていることを正確には示していない.そこで,運動特徴をコツという簡易な表現にまとめ,このコツを人に教示することで動作に変化が生じるかどうかを検証した.実験の結果,コツの教示による主体者の運動に統計的に有意な変化が確認できた.このように,人の運動解析から重要な運動特徴を抽出し,その再現性,工学的応用などを示すことができた.