著者
川口 真実 綿 祐二
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = JOURNAL OF ECONOMIC STUDIES, Nihon Fukushi University (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.60, pp.77-85, 2020-03-31

福祉・介護サービスの職場(以下, 「福祉・介護職場」とする) では, 地域共生社会の実現に向けて, 「地域を基盤とする包括的支援の強化」等の内容が示されており, 質の高いサービスが提供できる人材育成が急務とされている. しかし, はっきりとした評価基準を作ることが難しいことが指摘されている. そこで本研究は, 福祉・介護職場における人事評価・人事考課の課題について,先行研究の概観から課題を明らかにすることを目的とした. 福祉・介護職場の人事考課においては, キャリアパス制度が進められているが, 各職層において業務内容が多岐にわたるため, 固有の職務が見えづらいことで, 評価の観点が伝わりづらいことが職員のモチベーションへ影響し, またそのことを改善するしくみがないことが明らかになった. また, 事業所の規模によっても, 実施に影響することも明らかとなった. 今後の課題は, 規模によらず人事考課ができるしくみづくりのため実態調査を進め, 個別の現場に応じたキャリアアップの仕組み構築についても検討する必要があると考えられる.
著者
川村 潤子 / 原田 忠直
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The Journal of Economic Studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.59-81, 2018-09-30

本論は,「子ども」を保育園などに預けることなく,母親たちの相互扶助システムのもと,新たな働き方を模索するNPO 法人マザーズライフサポーターの成立経緯や諸活動を紹介する.その上で,マザーズライフサポーターの運営方法(とくに経済活動)と中国の「包」的営みとの類似性から,その活動の社会的な意義を問い,「家族」にいかなる影響を与えるのかを考察する.
著者
井原 加代子 岩田 純
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = JOURNAL OF ECONOMIC STUDIES, Nihon Fukushi University (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.62, pp.207-227, 2021-03-31

超高齢社会へ と 突入し た 日本は , 疾病の 有無に 関わ ら ず , 人々の 暮ら し は 療養の 場か ら 暮ら し の場へ と シ フ ト し , 看護職は こ れ ら の 人々の 健康・ 医療と 生活の 視点を 持ち , 多様な 場に お い て そ の役割を 発揮す る こ と が 求め ら れ て い る . 決め ら れ た 形の な い 地域包括ケ ア シ ス テ ム の 構築に 向け て病院組織の 立場か ら , 組織運営の 中で 最も 中心的役割を 果た す こ と が 期待さ れ る 病院看護管理者に焦点を 当て た . 地域包括ケ ア シ ス テ ム 構築に 向け 看護部の ト ッ プ マ ネ ジ ャ ー で あ る 看護部長が , どの よ う に 行動し , ど の よ う な 行動特性を 発揮し て い る か に つ い て イ ン タ ビ ュ ー 調査を 実施し , 看護管理者の 役割に つ い て 検討し た .
著者
吉村 輝彦
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The Journal of Economic Studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.89-105, 2017-09-30

少子高齢化や人口減少の進展, 社会構造の変化に伴い, また, 価値観やライフスタイルの多様化が進み, 地域社会やそれを取り巻く環境が大きく変化してきている. そんな中で, 全国各地で地域まちづくりをめぐる近年の実践の動きは多彩である. 実際に, エリアマネジメント, 地域マネジメント, コミュニティ・マネジメントなど地域づくりにおいてマネジメントに基づくアプローチへの関心が高まってきている. 国レベルでも, マネジメントを切り口に多様な議論が行われるようになってきた. これらの取り組みの特徴としては, 地域文脈を尊重し, 地域資源を活用したアクション志向であり, そのことを通じて, 地域の価値の向上を目指していること, そして, シビックプライドの醸成を含めて「自分ごとのまちづくり」を展開していること, さらに, マネジメントの視点から「自立型のまちづくり」を実現していこうとしていることが挙げられる. ここでは, マネジメント・アプローチによる地域まちづくりの展開を整理するとともに, 名古屋市における取り組み事例をも参考にし, 今後の地域まちづくりのあり方を論じた.
著者
岡本 眞理子 Mariko Okamoto
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The journal of economic studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.51, pp.1-12, 2015-09

少額の融資をあつかうマイクロファイナンス機関は,発展途上国の農村住民,とりわけ女性達に金融へのアクセスを可能にし,金融インフラを実質的に提供してきた.しかし,その中には,メキシコのコンパルタモス銀行のように,実効年利子率が100%を超える高金利で無担保融資を行ってきたところがある.それらの金融機関の利子率はなぜそれほど高いのかについて,想定される諸要因を他のマイクロファイナンス機関と比較しつつ検討した.その結果,極めて小額であり短期貸し付けであることや,融資方法と地域特性のゆえに運営費が極めて高くなることが主たる要因であることを明らかにした.また,借り手にはなぜそれが受け入れられているのかについて,現実に支払われる利息額の小ささ故に事業を圧迫するものとはならないことを示し,また短期ローン利子率の年利換算が借り手にとっては重要ではない可能性を示唆した.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The journal of economic studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.55, pp.1-32, 2017-09

雇用調整助成金は景気後退時の失業発生を未然に防ぐために, 休業等の一時的雇用調整を実施した企業に賃金(休業手当等) の一部を補助する制度である. これは失業手当の替りに短時間労働への補助金を支給して雇用関係を維持するSTWA の一種であると考えられる. この制度が失業率をどの程度低下させるかについては従前より議論があったところである. しかしながら, 政策効果を評価する理論や実証分析手法が確立していなかったために, 評価が難しかった. そのため, 失業を未然に防いでいるという主張がなされる一方で, 正社員の囲い込みを助長する, さらには産業構造の転換を遅らせるという批判がなされてきた. 本論では海外も含めた制度の概要, これまでの研究の概観を行うとともに, サーチ・モデルであるMP version を用いて雇用調整助成金の意義と限界を明らかにする. その結果, 雇用調整助成金は雇用保護立法と補完的であること, 正社員の労働時間を柔軟化させて雇用を維持する効果があること, 但し, 効率性低下も少なからずあるということが判明した.
著者
山上 俊彦
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = JOURNAL OF ECONOMIC STUDIES, Nihon Fukushi University (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.62, pp.1-12, 2021-03-31

雇用調整助成金の 失業回避効果に つ い て サ ー チ 理論に 基づ く MPversion を 用い て calibrationと シ ミ ュ レ ー シ ョ ン を 行っ た . 企業が 一時休業を 選択す る の は 休業手当の う ち 再雇用の た め の 権利価格で あ る オ プ シ ョ ン ・ バ リ ュ ー と 解雇費用を 除い た 部分が 補助さ れ る 場合で あ る . そ の た め 雇用調整助成金の 補助率は 休業手当の 7 割~9 割が 必要で あ る こ と , 雇用調整助成金は 雇用保護立法と補完的関係が あ る こ と , 景気が 悪化す る と 必ず し も 必要な 助成率は 高く な ら な い こ と が 示さ れ る .雇用調整助成金に は 最大で 失業率 1~2%ポ イ ン ト 程度の 失業回避効果が あ る こ と が 示さ れ る . 但し 社会的損失も 発生す る 可能性が あ る た め , 実際の 効果は そ れ よ り も 小さ い . ま た , 助成率を 引き上げ る と 効果が 高ま る 訳で は な く , 支給期間内に 生産性が 旧水準に 復帰し な け れ ば 大量の 失業者が発生す る 可能性が 高い .
著者
楠田 康之
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The Journal of Economic Studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.159-204, 2019-03-31

本稿では, 消費者が財を1つのみ選択して購入する静的離散選択モデルの構造推定について考える.具体的には, Berry et al. (1995) (BLP)が提示した需要関数の推定方法について概説することにする. まず, 基本モデルとしてランダム係数モデルを説明し, その推定法について考える. 推定のためのアルゴリズムとして, 「BLP アルゴリズム」と「MPEC アルゴリズム」の2つを考え, シミュレーションを行い, その2つのアルゴリズムを比較する. 次に, BLPモデルのフルモデルを考えるために, 所得効果, 供給サイドを含んだいくつかの拡張を行い, 「ネステッドロジット型モデル」について説明する. さらに, 経済学上の応用として3つのモデルについても説明する.
著者
張 淑梅
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The Journal of Economic Studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.71-87, 2016-09-30

本稿は, 近年脚光を浴びている共有型経済に注目し, その中核的要素の1 つである協働的消費に焦点を当てて, 経験価値の創出によるサービス・イノベーションのあり方について議論するものである. イノベーションを実現させる最新の事例分析を通じて, 成功したビジネスモデルの本質が消費者の潜在的需要を見抜き, 優れた経験価値の提供にあることを明らかにする. その上で, 既存の企業が共有型経済のトレンドに適応すべく, 経験価値の観点から自社のサービス定義を再考し, その提供方法を実験的に見直すべきであることなど, サービス・イノベーションを実現させるための戦略と課題について考察する.
著者
毛利 良一 Ryoichi Mohri
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The journal of economic studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
no.51, pp.33-60, 2015-09

本稿は,「広島・長崎への原爆投下から福島第一原発崩壊へ」をメインタイトルに,「日米核同盟,核燃料サイクル,原発の新増設・脱原発を中心に」をサブタイトルにする.狙いは,①原爆投下地広島・長崎の非戦闘員・一般住民が無差別かつ大量に殺傷(両市の死者は20万人超)されたこと,②福島第一原発崩壊による無辜の住民(およそ10数万人)が長期にわたる避難生活を余儀なくされていること,③1953年のマーシャル諸島近海のビキニ環礁で静岡県焼津のマグロ漁船「第五福竜丸」が被曝をし,世界に例を見ないマルチ被ばく国日本という国が,「日米原子力協定」という日米核同盟に繋がっていることの政治経済学的意味,④地球上では米・英・独など西側主要国が中止するに至った核燃料サイクル政策の分裂,すなわち他方でフランス,ロシア,さらには新興中国と並んで日本が追い求めている理由と展望,⑤福島第一事故後の世界でルネッサンスとも呼ばれる原発推進や新規導入,原発輸出に走る国々の思惑と,⑥脱原発を選択したドイツやスイスの政治的社会的決断の重みの比較,を私なりに整理してみたいと考えたからである.「マンハッタン計画」および広島・長崎への原爆投下から始めたのは,原発の歴史および根源を理解しておくためである.福島の被災地の住民の状況や日本国民の選択をむすびで書きたかったが不勉強ではたせなかった.原発推進国と対比してドイツ国民の脱原発で稿を閉じるのは,地球世界の連続と不連続を統一的に把えたいと考えたからである.「戦後70年」における私なりのひとつの総括としたい.This paper studies on the facts and meanings of the followings:(1)More than 200 thousand of non-military citizens at Hiroshima and Nagasaki were killed by atomic bombs. (2)Around 150 thousand citizens at Fukushima have been forced to evacuate for more than four years and more.(3)Japan has maintained tenacious Nuclear Alliance with U.S. in spite of Japan's radioactive contamination for four times, historically rare in the world, including nuclear exposure at the Marshall islands.(4)Japan has desperately pursuited nuclear fuel cycle in spite of resignation of other advanced countries such as U.S., UK, Germany, etc., but France, Russia and China have continued the efforts. (5)So-called Runaissance of nuclear power plants building and export boom are in bloom in many countries unwisely, on one hand. (6)We have heard hopeful decisions the people of Germany, Switzerland and others have selected wisely phase-out policy of nuclear power on the other hand.
著者
張 淑梅
出版者
日本福祉大学経済学会
雑誌
日本福祉大学経済論集 = The Journal of Economic Studies (ISSN:09156011)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.71-87, 2016-09-30

本稿は, 近年脚光を浴びている共有型経済に注目し, その中核的要素の1 つである協働的消費に焦点を当てて, 経験価値の創出によるサービス・イノベーションのあり方について議論するものである. イノベーションを実現させる最新の事例分析を通じて, 成功したビジネスモデルの本質が消費者の潜在的需要を見抜き, 優れた経験価値の提供にあることを明らかにする. その上で, 既存の企業が共有型経済のトレンドに適応すべく, 経験価値の観点から自社のサービス定義を再考し, その提供方法を実験的に見直すべきであることなど, サービス・イノベーションを実現させるための戦略と課題について考察する.