著者
山上 実紀
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.306-310, 2012 (Released:2013-01-11)
参考文献数
29

要 旨 医師は, 様々な感情を抱きながら診療を行っているが, そのことはこれまであまり語られてこなかった. 本稿では, それを可視化する概念として, 感情労働という言葉を紹介する. そして, 医師の職業ストレスやコミュニケーション能力を考えるうえで, 感情労働という視点を用いる意義について論じる.
著者
若林 崇雄 宮田 靖志 山上 実紀 山本 和利
出版者
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合学会
雑誌
日本プライマリ・ケア連合学会誌 = An official journal of the Japan Primary Care Association (ISSN:21852928)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.360-367, 2010-12-15
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

【目的】<br> 内科医撤退を経験した基幹病院を利用する患者・住民が, 医師・医療についてどのような想いを抱いているのかを明らかにする. <br>【方法】<br> 一時内科医が撤退し, 現在は診療を再開しているA市の基幹病院を利用する患者・住民を対象とした. <br>1. 質問紙作成<br>2回のフォーカス・グループ・インタビューをもとにテーマとサブテーマを抽出する質的な手法により質問項目を作成した. <br>2. 質問紙調査<br> A市基幹病院を利用する患者を対象とした. <br>【結果】<br> 有効回答は399名. 内科医師撤退の原因として, 81%の患者が大学, 79%が国の制度, また72%が病院と回答した. 内科医師が撤退したことは医師の身勝手かどうかについては50%ずつに意見が分かれた. また74%の患者は内科医師撤退が患者に不信感を与えたと回答した. 88%の患者は医師が患者に尽くしていると回答し, 88%が勤務条件で病院を移ることは仕方ないと回答したが, 96%の患者は医師に患者のために尽くすことを求めていた. 85%の患者は医師を信頼できると考えていた. <br>【結論】<br> 医師撤退を経験した患者は撤退により現実的に困っており, これは患者の利便性が損なわれるため当然と考えた. また撤退の原因として医療に関する組織に対し不信感を持っていることが示唆された一方で, 医師個人に対しての感情は複雑であった. 多数の患者は医師を聖職と考え, 医師撤退を経て尚, 医師の人間性やコミュニケーションへ期待し信頼していると考えられたが, 医師をサービス業と捉える患者も見られ, 信頼の構造に変化がある可能性も示唆された.
著者
山上 実紀
出版者
日本文化人類学会
雑誌
文化人類学 (ISSN:13490648)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.414-434, 2013

近代医療を担う医師たちの苦悩は、医学に内在する不確実性の問題や医療の安全と責任、患者の自己決定権や家族関係をめぐる倫理的な葛藤、公衆衛生対策や医療経済政策の影響、そして医師と患者の権力関係、という様々な要因が絡まりあった中で起きる社会的な経験であるといえる。医療化論において、医師による患者の統制や管理、それによる患者の無力化が批判の対象とされてきた。しかし、そのような医師の行為が形成される背景には、医師の文化や価値体系に裏打ちされた役割意識がある。ところが、そのような現場の医師たちの様々な感情や苦悩といった主観的な経験はほとんど顧みられてこなかった。本稿の目的は、特殊な役割意識を持つ医師たちが、実際の臨床現場で何に苦悩しているのか、それは医師にとってどのような意味があり、どのような対処プロセスがとられてきたのかを明らかにすることである。分析に際しては、実際に現場で働く医師たちのインタビューデータを用いた。インタビュー対象者は日本で働いている総合診療医17名である。医師たちの感情に注目し、彼らの苦悩を概観する中で、新人医師と中堅医師、ベテラン医師の語りを比較し、苦悩の経年変化や対処の方法の違いを確認した。その後、3名の新人医師の詳細な語りの分析を通じて、彼らが経験した患者の苦悩や死、失敗経験が、医師たちにどのような否定的な感情をもたらすものであったのかを分析した。結論として、医師たちは役割意識を持つことによって、患者の苦悩や死に直面することに耐えられるという側面がありつつも、その役割意識によって新たな苦悩が創出されているということが明らかになった。医師の役割意識は、患者や社会からの期待によっても影響を受けており、医師の苦悩も時代とともに変容するものでると考えられる。
著者
山上 実紀
出版者
一橋大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

医師のバーンアウトと感情労働の関係を明らかにすることを目的とし、総合診療医17名を対象としたインタビュー調査を行った。結果として、医師たちは「冷静さ」という感情規則を保つために、"患者との距離化"、"自らの感情の抑圧"という2つの方法を用いて自らの感情を管理していた。医師にとっての困難な感情体験を乗り越えるために、医師にとって感情管理は必要であり、そのような医師の感情労働を自他ともに肯定できるかどうかという状況要因が、医師のバーンアウトに関連していることを指摘した。