著者
石井 明子 鈴木 琢雄 多田 稔 川西 徹 山口 照英 川崎 ナナ
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.5, pp.280-284, 2010 (Released:2010-11-10)
参考文献数
45
被引用文献数
2 2

腫瘍や自己免疫疾患等の治療を目的とした分子標的薬として,抗体医薬品の研究開発が国内外で活発に行われている.抗体医薬品の特徴は標的分子に高い親和性をもって極めて特異的に結合することであるが,他のバイオ医薬品と比較して血中半減期が長いことも特筆すべき点である.ペプチドあるいはタンパク質を医薬品として応用する場合には血中半減期が実用化のためのハードルとなることが少なくない.しかし,多くの抗体医薬品は,生体内IgGの分解抑制に関わるneonatal Fc receptor(FcRn)を介したリサイクリング機構を利用することができるため,数日~数週間という長い血中半減期を有している.FcRnは齧歯類の新生児小腸に高発現し,乳汁に含まれる母親由来IgGの吸収に関与する受容体として同定された.その後の研究により,FcRnが成体においても種々の組織に発現し,IgGのリサイクリングやトランスサイトーシス等に関与していることが報告され,母子免疫以外にも様々な側面でIgGの体内動態制御に関わっていることが明らかにされている.我々は,既承認抗体医薬品のFcRn結合親和性を解析し,ヒトでの血中半減期とFcRn結合親和性の相関,および抗体医薬品のFcRn結合親和性を規定する構造特性の一端を明らかにした.近年の創薬研究では,FcRn結合親和性を改変した抗体医薬品等の開発が進んでいる他,FcRnのもう1つのリガンドであるアルブミンを利用することにより体内動態特性を改変したタンパク質医薬品の開発も進んでいる.FcRnは,抗体医薬品をはじめとするバイオ医薬品の体内動態制御に関わる鍵分子の1つと言えるであろう.
著者
山口 照英 内田 恵理子
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.22, no.6, pp.651-659, 2007 (Released:2008-02-18)
参考文献数
17

ICH遺伝子治療専門家グループは,遺伝子治療薬をめぐる科学的な諸問題に柔軟に対処するために,専門家グループ会議や公開ワークショップなどを通じて得られた議論の成果を広く公開するとともに,新たな知見が得られた場合に迅速に対応していくというスタンスで活動を行っている.これまで議論が行われてきた国際標準品,ウイルスベクターの排出,X-SCID遺伝子治療における白血病発症とリスク評価,腫瘍溶解性ウイルス製品の品質・安全性確保,“生殖細胞への遺伝子治療用ベクターの意図しない組み込みリスクに対応するための基本的考え方”などについて紹介する.
著者
山口 照英
出版者
一般社団法人 レギュラトリーサイエンス学会
雑誌
レギュラトリーサイエンス学会誌 (ISSN:21857113)
巻号頁・発行日
vol.4, no.3, pp.237-247, 2014

再生医療を含む細胞治療薬の開発が急速に進展しており,この先進医療の実用化に伴い治療法のない医療ニーズ(unmet medical need)を含め多くの疾患に対する新しい治療法を提供できる可能性がある.このような先進医療製品の実用化を促進するためにいくつかの指針の発出や改訂がされてきた.さらに,再生医療製品の実用化を図るために再生医療等製品の安全性を確保するための薬事法の改定が国会で議決された.改正法の中では,再生医療製品については安全性を確保した上で,より早期の承認を行えるように期限付き,条件付き承認制度が導入される.本論文では,このような再生医療等製品に関する新たな規制的枠組みについて,安全性や承認条件などを含めて議論をした.
著者
内田 恵理子 山口 照英 永田 龍二 石井 明子
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ウイルスベクターの製造過程で混入する可能性のある増殖性ウイルスの検出は、遺伝子治療用ウイルスベクターの品質、安全性確保上重要な課題である。本研究ではウイルスベクターに混入する増殖性アデノウイルス(RCA)及び増殖性レトロウイルス(RCR)を、ウイルスの指向性細胞への感染性とリアルタイム定量PCRの迅速性、高感度性、定量性を組み合わせた感染性(R7-)PCR法により検出する方法を開発した。RCAは、HeLa細胞に感染させ、一定期間増幅後、細胞中のRCAのゲノムDNAをガラスビーズ法により簡便で効率よく抽出し、リアルタイム定量PCRで測定する感染性PCR法を確立した。感染性PCR法では、10^9 particlesのアデノウイルスベクターにスパイクした1pfuのRCAを感染3日目で検出可能であり、従来法の細胞変性効果(9日目で10,000pfuを検出)による検出と比較して、より短時間の培養で10,000倍も高感度にRCAを検出可能であることを明らかにした。RCRは、M.dunni細胞に感染させ、一定期間増幅後、上清中のRCRをポリエチレンイミン(PEI)結合磁気ビーズで濃縮し、ビーズ画分からRCRのゲノムRNAを抽出してリアルタイム定量RT-PCRで測定する感染性RT-PCR法を確立した。感染性RT-PCR法では、従来法のフォーカスアッセイと比較してより短時間の培養で10倍以上高感度にRCRを検出可能であった。また、上清中のRCRの替わりに細胞内に増幅したウイルスRNAをガラスビーズ法で抽出後に測定すると、より短時間の培養でウイルス検出が可能であった。さらに、RCRをPEI磁気ビーズと混合後に磁場の上で強制感染させる高効率ウイルス感染系を確立した。この感染系を利用して感染性RT-PCR法を行うと、さらに10倍以上高感度にRCRを検出できることを明らかにした。