著者
神野 透人 香川 聡子 大河原 晋
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2012-04-01

生活環境化学物質が原因あるいは増悪因子と考えられる疾患において重要な役割を果たしていると考えられる侵害刺激受容体TRPA1 チャネルについて、その感受性個体差に影響を及ぼす遺伝的要因並びに環境要因を明らかにすることを目的として、既知のSNPs を導入した異型TRPA1 5種並びに野生型TRPA1をHEK293細胞で強制発現させて機能変化を明らかにした。また、ヒト気道及び肺組織について、TRPA1 mRNA発現量の差をReal Time RT-PCR法により定量的に解析し、ヒト気道組織においてはTRPA1 mRNAレベルで100倍以上の個体差が認められることを明らかにした。
著者
朝倉 宏 中村 寛海
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

本研究では,食品媒介性感染症として世界中で多発するカンピロバクターがヒト生体内での感染過程で顕す遺伝子発現及び腸内細菌叢の動態を発症患者由来検体を研究対象にプロファイル化し,疫学情報及び原因菌株のゲノム特性と融合を通じ,本菌感染に伴う病態発現の分子基盤に係る基礎知見の集積を図ることを目的としている。ヒト腸管環境において本菌が顕す病態形成機構は依然として不明な点が多く、主たる病原因子の同定並びに微生物間クロストークに関する分子解明,ひいては予防治療に資する標的分子の特定や腸管環境下の細菌叢調節を通じた感染制御策の構築等へと波及することが期待される。
著者
今任 拓也
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

福岡県下のA企業の男性被保険者3648名を対象に、エネルギー代謝に関連する遺伝子であるアドレナリン受容体β2、アドレナリン受容体β3および脱共役蛋白1の遺伝子多型(SNP)の測定を行い、BMIおよび肥満との関連に関する疫学研究を実施した。それぞれのSNPとBMIなどの基本属性・BMI27.5以上の肥満割合に有意な違いが認められなかった。さらに3SNPのリスクアレル数の総和をGenetic risk scoreとし、3SNP間の相互作用について検討を行なった。リスクアレルが0の群をリファレンスとすると、1つでもリスクアレルを持つ群では、BMI27.5以上の肥満割合は、約3倍有意に高くなっていた。
著者
柴田 識人
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

重篤な疾患を引き起こすウィルスは数多く存在するが、抗ウィルス治療薬の充足率は決して高くない。私はこれまでに酸化コレステロールである25ヒドロキシコレステロール(25OHC)が宿主細胞の生存に影響を与えずに、ウィルスの複製を抑制することを見出している。本研究では、宿主細胞における25OHCの受容機構、そしてそれに伴うストレス関連遺伝子の発現誘導機構を解明した。本結果は25OHCの持つ抗ウィルス作用の分子機構を明らかにすると共に、25OHCを基盤とした新たなウィルス治療薬開発の可能性を提示するものである。
著者
内山 奈穂子 有竹 浩介 マリシェフサカヤ オリガ
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2016-04-01

大麻由来カンナビノイドΔ9-THC或いは合成カンナビノイド(JWH-018)を投与したマウスの脳波と自発運動量の変化を調べた.マウスにΔ9-THCを腹腔内投与すると,有意な行動量の低下が観察され,痙攣行動と痙攣脳波が誘発され,痙攣脳波は断続的に4時間以上持続して起こることが判明した.一方,JWH-018を腹腔内投与すると,Δ9-THCと比較して,行動量の抑制と痙攣がより投与から短時間に誘発されることが判明した.さらに,JWH-018によるマウスへの痙攣誘発作用が容量依存的に起こることが明らかとなった.また,CB1受容体選択的拮抗薬AM251をΔ9-THC 或いはJWH-018投与の30分前に腹腔内投与しておくと,行動量の抑制と痙攣の誘発が完全に消失することが判明した.従って,Δ9-THCやJWH-018は,CB1受容体を介してマウスに痙攣を誘発することが示された.次に,痙攣を誘発するΔ9 -THC用量の閾値を検討した結果,投与量2.5 mg/kgが痙攣を誘発する最低用量であった.さらに,脳波スペクトルの特性を視覚的に区別することができる脳波解析:スペクトログラムとエンベロープ変動係数解析を行った.さらに,Δ9-THCの反復投与により,投与3-4日後に痙攣の発生数が減少したことから,Δ9-THC連続投与により身体的な耐性が生じることが示された.また,CB1受容体拮抗薬をマウスに前投与することにより,Δ9-THCおよびJWH-018によって誘発される痙攣が抑制されたことから,これらの痙攣作用は,CB1受容体を介して起こることが示された.さらにCB1受容体KOマウスにJWH-018を腹腔投与した結果,CB1受容体KOマウスはJWH-018投与後に痙攣の脳波または痙攣行動を示さなかったことから,JWH-018の痙攣作用は,CB1受容体を介して起こることが改めて確認された.
著者
中村 亮介 岡本 美孝 秋山 晴代 岡本 好海
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

アレルゲン舌下免疫療法(SLIT)は、スギ花粉症等のアレルギー疾患の根治が期待できる非常に有望な治療法であるが、治療が長期に渡る一方、必ずしも全例が奏効するとは限らないことが問題となっている。そこで本研究では、SLITのメカニズムの解明に取り組むとともに、患者血清中からSLITによる治療の奏効性を早期に予測するバイオマーカーを探索することを目的としている。申請者は近年、培養細胞を用いる独自のアレルギー試験法「EXiLE法」を開発した。この手法は、特異的アレルゲンに対する血清中IgEの架橋活性だけでなく、血清中の中和活性を評価することも可能である。そこで今年度では、2シーズン以上に渡ってスギ花粉症のSLITを実施した患者38名における、血清中特異的IgE抗体価、血清中IgEによるEXiLE応答性および中和活性を経時的に評価し、患者の治療スコア(TNSMS)と比較することで、SLITの奏効性と相関するバイオマーカーを探索した。その結果、SLIT実施患者の血清中中和活性は治療開始2シーズン後に顕著に増加した。TNSMSの差(ΔTNSMS)をSLITの奏効性と定義すると、治療開始前のEXiLE応答性及びスギ花粉特異的IgE抗体価で患者群を層別化したときに、奏効性はカットオフの上下群間で有意に異なることが分かった。カットオフはそれぞれ2.0倍と10 UA/mLで、P値はそれぞれ0.00048と0.0021であった。この結果は、SLIT開始時の特異的IgE抗体価およびその架橋能はSLIT奏効性を予測するよいバイオマーカー候補であることを示唆している。症状発現へのIgEの寄与率が低い症例ほどSLITが効きにくい、というメカニズムが想定される。
著者
内藤 幹彦 服部 隆行
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2016-04-01

我々は標的タンパク質を人為的にユビキチン化してプロテアソーム分解を誘導する各種のSNIPER化合物を開発してきたが、新規標的タンパク質を分解するSNIPER化合物を開発するためにはその標的タンパク質に結合するリガンドが必要である。しかし適当な結合リガンドが無いためにSNIPERを開発できない標的タンパク質も多い。そこでHisタグを付加した標的タンパク質を細胞に発現させ、Hisタグを認識するSNIPERで標的タンパク質をユビキチン化する実験系の開発を行った。まずHisタグと結合するNi-NTAをIAP antagonist(MV1)と繋いだSNIPER(His)を合成したが、分子全体の親水性が高くほとんど細胞内に取り込まれない事が明らかになった。そこでSNIPER(His)の細胞への透過性を高くするために、細胞膜透過性ペプチド(CPP)をSNIPER(His)に付加した化合物を各種合成し、そのHisタグ標的タンパク質分解誘導活性を調べた。その結果、R9及びTatペプチドを付加したSNIPER(His)はいずれも細胞内透過性が高まり、Hisタグ標的タンパク質を分解する活性を示した。また別の方法として、His-CPPペプチドを利用してSNIPER(His)を細胞内に取り込ませる方法を検討した。細胞の外でSNIPER(His)とHis-CPPの複合体を形成させて細胞内に取り込ませた後、細胞内でHis-CPPと乖離したSNIPER(His)に改変型HisタグであるCH6タグ標識タンパク質が結合してユビキチン化と分解を誘導するメカニズムである。CH6タグ標的タンパク質への結合を強固にするために、SNIPER(His)にマレイミド基を導入して共有結合する様に改変した。その結果、His-CPPペプチドを利用した実験系でもSNIPER(His)によってCH6タグ標的タンパク質の分解を誘導できることが明らかになった。これらの結果から、SNIPER(His)で細胞内のHisタグ(又はCH6タグ)標的タンパク質を分解する実験系を樹立する事ができた。
著者
鈴木 琢雄
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

新生児型Fc受容体(FcRn)との親和性の違いが、Fcドメイン含有医薬品の体内分布や分解に与える影響を明らかにすることを目的とし、FcRn親和性が異なる抗体やFcドメイン融合タンパク質のFRET型蛍光標識体をマウスに投与し、臓器の蛍光を測定した。その結果、FcRn親和性を大幅に低下させた場合、肝臓や肺への蓄積率に差が認められた。通常の抗体と比較してFcRn親和性が大幅に異なるFcドメイン含有医薬品(例えば薬物結合抗体等)を開発する場合には、体内分布が通常の抗体とは異なる可能性があることを考慮する必要があると考えられる。
著者
安田 智
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2009

Ras/B-Raf/C-Raf/MEK/ERK経路(ERK経路)は、細胞増殖を含む細胞機能の制御に重要な役割を果たしている。HeLa細胞にsiRNAをトランスフェクトし、ジアシルグリセロールキナーゼη(DGKη)の発現を抑制すると、上皮増殖因子(EGF)刺激によって誘導されるERK経路の活性化の阻害が認められた。またDGKηの発現は触媒活性非依存的にERK経路を活性化したことより、DGKηはアダプタータンパク質として機能していることが考えられた。B-RafとC-Rafのキナーゼ活性を測定したところ、DGKηの発現抑制によりC-Raf活性のみが減少することが明らかになった。さらにDGKηの発現抑制によって、EGF刺激によって誘導されるB-RafとC-Rafのヘテロ二量体形成も顕著に抑制された。またDGKηはB-RafおよびC-Rafと相互作用し、EGF刺激によって誘導されるB-Raf およびC-Raf の細胞膜への移行も制御した。以上の結果は、DGKηはERK経路を制御する新規の因子であることを示唆している。
著者
堀端 克良 本間 正充
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

DNAtopoisomeraseI(Top1)は通常DNAに共有結合して一本鎖DNA切断(singlestrandDNAbreak ; SSB)を入れることでDNA複製や転写の際に生じるDNA超ラセンを解消し、SSBを閉じてDNAから解離するが、何らかの原因でSSBを閉じることができなくなるとTop1自身がDNAに共有結合したままになり、内在性DNA損傷のように振る舞うことが知られる。このようにTop1の酵素活性中に形成される"Top1-DNA間共有結合体"(Top1-DNAcovalentcomplex ; Top1-cc)の修復機構はDNA複製、転写、組換えDNA修復、プロテアソームによるタンパク質分解機構などと密接に関連していることが知られるが、それぞれがどのように相関しているのかなどの詳細は不明である。Top1とそれぞれの因子の相関関係の詳細を、遺伝学的、生化学的および細胞生物学的手法により網羅的に解析し、その詳細を明らかにする。
著者
河村 葉子 六鹿 元雄
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

昨年度の本研究において、ベンゾフェノン類のエストロゲン活性を酵母Two-Hybrid試験により試験したところ、ベンゾフェノン水酸化体19化合物中15化合物で活性がみられ、そのうち4化合物はビスフェノールAよりも強い活性を示した。そこで今年度は、チャイニーズハムスター卵細胞にヒトエストロゲンレセプターα(ERα)あるいはヒトアンドロゲンレセプター(AR)を組み込んだレポータージーンアッセイ系であるERα-およびAR-EcoScreen(大塚製薬)を用いて、ベンゾフェノンおよびその水酸化体のエストロゲン活性および抗アンドロゲン活性を調べた。その結果、ベンゾフェノンを含む18化合物でエストロゲン活性が見られ、中でも2,4,4'-trihydroxybenzophenone、2,4-dihydroxybenzophenone、3-hydroxybenzophenone等ではビスフェノールAとほぼ同等の活性であった。3または4位に水酸基をもつと活性が強く、2位のみでは活性が低い構造活性相関がみられた。本法と酵母Two-Hybrid試験で得られた活性強度には相関が見られた(r=0.79)が、両環に配位した水酸基の影響に相違がみられた。また、誘導された発光強度がエストラジオール(E_2)を上回るスーパーアゴニズムが多くの化合物で観察された。一方、抗アンドロゲン活性においては17化合物で活性が見られた。2,4,4'-trihydroxybenzophenone、2,2',4,4'-tetrahydroxybenzophenone等の活性が強く、これらはp,p'-DDEとほぼ同程度であり、IC_<50>の前後の化学物質濃度で細胞活性は70%以上あり、細胞毒性の影響はほぼみられなかった。これらのエストロゲン活性と抗アンドロゲン活性の強度には相関がみられた(r=0.68)。これらのベンゾフェノン水酸化体のうち、食品用器具・容器包装の紫外線吸収剤として使用される2-hydroxy-4-methoxybenzophenone、2,2'-dihydroxy-4-methoxybenzophenoneについて、製品中の残存実態を調査したところ、ポリエチレン50検体、ポリプロピレン39検体、ポリスチレン25検体、ポリ塩化ビニル39検体、ポリ塩化ビニリデン7検体からは検出されなかった。しかし、ところてんの包装容器(ポリ塩化ビニル製、1997年購入)から前者が70μg/g検出された。このほか、ベンゾフェノン水酸化体は日焼け止めや化粧品に使用され、またベンゾフェノンが体内で代謝されて生成することから、内分泌かく乱作用および人への暴露についてさらに検討が必要であろう。
著者
内田 恵理子 山口 照英 永田 龍二 石井 明子
出版者
国立医薬品食品衛生研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

ウイルスベクターの製造過程で混入する可能性のある増殖性ウイルスの検出は、遺伝子治療用ウイルスベクターの品質、安全性確保上重要な課題である。本研究ではウイルスベクターに混入する増殖性アデノウイルス(RCA)及び増殖性レトロウイルス(RCR)を、ウイルスの指向性細胞への感染性とリアルタイム定量PCRの迅速性、高感度性、定量性を組み合わせた感染性(R7-)PCR法により検出する方法を開発した。RCAは、HeLa細胞に感染させ、一定期間増幅後、細胞中のRCAのゲノムDNAをガラスビーズ法により簡便で効率よく抽出し、リアルタイム定量PCRで測定する感染性PCR法を確立した。感染性PCR法では、10^9 particlesのアデノウイルスベクターにスパイクした1pfuのRCAを感染3日目で検出可能であり、従来法の細胞変性効果(9日目で10,000pfuを検出)による検出と比較して、より短時間の培養で10,000倍も高感度にRCAを検出可能であることを明らかにした。RCRは、M.dunni細胞に感染させ、一定期間増幅後、上清中のRCRをポリエチレンイミン(PEI)結合磁気ビーズで濃縮し、ビーズ画分からRCRのゲノムRNAを抽出してリアルタイム定量RT-PCRで測定する感染性RT-PCR法を確立した。感染性RT-PCR法では、従来法のフォーカスアッセイと比較してより短時間の培養で10倍以上高感度にRCRを検出可能であった。また、上清中のRCRの替わりに細胞内に増幅したウイルスRNAをガラスビーズ法で抽出後に測定すると、より短時間の培養でウイルス検出が可能であった。さらに、RCRをPEI磁気ビーズと混合後に磁場の上で強制感染させる高効率ウイルス感染系を確立した。この感染系を利用して感染性RT-PCR法を行うと、さらに10倍以上高感度にRCRを検出できることを明らかにした。