著者
吉岡 健二郎 太田 孝彦 太田 喬夫 佐々木 丞平 野口 榮子 山岡 泰造
出版者
京都大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1985

美的価値と芸術的価値の問題は美学及び芸術史研究にとってその中心をなすというべき重要な問題である。研究代表者の吉岡は60年度に美術史研究が独立した学問として成立するに至る過程をたどり、それが18世紀の西欧世界においてであること、そしてまた美術史学の成立と美学の成立とは互いに支えあって初めて可能であったことを明らかにした。(京都大学文学部美学美術史学研究紀要第7号)吉岡の研究は各研究分担者の個別的で緻密な研究に支えられ、そこから大きな示唆と教示を得て執筆されたのであるが、同時に問題の難しさを一層鮮明なものにする結果ともなった。即ち美の問題と美術の問題との、近代世界における新たなる関係如何という、美学にとってのより根底的な問いが避けられなくなってきたのである。美学が美と芸術の本質を探求する学として成立したのは18世紀半ばであるが、美と芸術が一つの学の中で、まとめて扱われたのは、芸術が美的価値の実現を目標とする人間活動と見倣されたからに他ならない。ところが、人間活動の一形態としての芸術は必ずしも美的価値を目標とするものではないのではないかという疑問や、西洋以外の諸文化圏の芸術は少くとも西洋の伝統的美概念には包摂できないという明白な事実が、研究者の意識に上ってくるようになると、美的価値と芸術的価値とは分離されざるをえなくなる。東洋・日本の美術の研究者は、中国や日本の美術の目差すところが、いわゆる西洋世界で確立された美的諸範疇といったものでは充分に説明できないこと、それにも拘らず人間の表現活動としては西欧の認識の心を深く感動させるものを有していること、従って美的価値概念と芸術的それとの再検討が地球的規模で行なわれなければならないこと、そして美的価値と芸術的価値との価値論的な新しい統一の試みが必要であるという点を明らかにしてきたのである。
著者
山岡 泰造 松浦 清 並木 誠士 中谷 伸生 張 洋一 井渓 明
出版者
関西大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

これまで積極的に評価がなされず、研究の余地を大いに残している大坂画壇の絵画について調査研究を行った。主として関西大学図書館所蔵の絵画作品約550点を調査し、それらの写真撮影、法量などのデータ整理、関連文献の収集を行った。また、大阪市立博物館、堺市立博物館、大阪市立近代美術館(仮称)の所蔵作品約200点を調査し、それぞれのデータをカード化した。さらに、大阪、京都を中心にして、美術商及び個人所蔵の約100点を同じくカード化した。加えて、京都工芸繊維大学他、各研究機関所蔵の文献資料を調査し、重要な文献を複製等を通じて収集した。これらの調査は、主として大坂画壇の中でも最も重要な位置にいた木村蒹葭堂と、その周辺で活動した画家たちを中心に進められた。たとえば、愛石、上田耕夫、上田公長、岡田半江、葛蛇玉、佐藤保大、少林、墨江武禅、月岡雪斎、中井藍江、中村芳中、長山孔寅、西山芳園、耳鳥斎、浜田杏堂、日根野対山、森一鳳、森二鳳、森徹山らである。調査研究の結果、これまで生没年すら不明であった画家たちの生涯や活動歴及び作風と所属流派などがかなり明らかになり、大坂画壇研究の基礎研究として大きな成果があった。つまり、大坂の狩野派、四条派、円山派、文人画派、風俗両派(及び浮世絵派)、戯画などの系統が整理され、基礎資料の蓄積がなされた。今回の調査研究によって、大坂画壇研究の基礎研究が充実し、研究上の新局面を切り開くことができたと自負している。