著者
中野 和久 松下 祥 齋藤 和義 山岡 邦宏 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-6, 2009 (Released:2009-02-28)
参考文献数
16
被引用文献数
5 10

ドパミンD2様受容体の過剰反応が主原因とされる統合失調症においては,関節リウマチ(RA)の発症率が顕著に低下することが知られるが,その原因は不詳である.神経伝達物質はリンパ球表面の受容体を介して免疫修飾作用を発揮する.脳内の主要な神経伝達物質であるドパミンは,D1~D5のサブタイプを持つ7回膜貫通型のGPCRを介してシグナルを転送する.   我々はこれまでに樹状細胞(DC)でのドパミン合成・貯蔵とナイーブT細胞への放出機構,およびヘルパーT細胞サブセット分化への影響を解明した.RAにおいてもDCは関節内抗原をT細胞に提示し病態形成の初期から重要な役割を果たすことから,RA滑膜組織におけるドパミン・ドパミン受容体の機能的役割を評価した.本稿ではこの一連の解析を概説し,ドパミン受容体を標的とした創薬の可能性についても述べる.
著者
村松 匠 山岡 邦宏
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.33, no.3, pp.181-188, 2021 (Released:2021-10-22)
参考文献数
27

関節リウマチ(RA)の病態の中心となっているのがサイトカインである.既存の抗リウマチ薬に加えて,サイトカインなどを標的とした生物学的製剤を用いることで,RAは寛解が達成できる疾患となってきた.さらに,ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬がRAの治療の選択肢となり,既存治療に抵抗性のRAに対しても効果が期待できるようになった.加えて,炎症性腸疾患やコロナウイルス感染症2019(COVID-19)による肺炎など,RA以外の疾患・病態への適応拡大が進んでおり,全身性エリテマトーデスや乾癬性関節炎,強直性脊椎炎などを対象とした臨床試験も進行中である.適応拡大に伴って,その有効性・安全性について,特にCOVID-19 pandemic下での使用について最新の情報に注意を払いつつ見直す必要がある.JAK阻害薬投与中における帯状疱疹(HZ)の発症率は高く,特に日本人で顕著であるため,今後の実臨床データの蓄積が重要である.これに対して遺伝子組み換え帯状疱疹ワクチンによりHZ発症リスクが低減できる可能性があるが,適切な使用方法については疑問点が多い.また,最近行われた試験では悪性腫瘍や主要心血管イベント,静脈血栓塞栓症のリスクが高まる可能性が指摘されている.直近の最大の課題は,JAK阻害薬使用者におけるCOVID-19ワクチン接種と思われ,提言等が行われているが未だ確立した方針はない.本稿ではこれらの課題について最新情報を紹介し,解決に向けた対策について議論する.
著者
岩田 慈 山岡 邦宏 新納 宏昭 中野 和久 Sheau-Pey WANG 齋藤 和義 赤司 浩一 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.56-61, 2012 (Released:2012-02-28)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

近年関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)をはじめとした自己免疫疾患に対し,生物学的製剤の高い有効性が報告されている.一方で,低分子化合物は経口投与可能であり,また廉価となる期待などから注目を集めている.Sykは72 kDaのチロシンキナーゼで,B,T細胞,肥満細胞,マクロファージ,好中球,滑膜線維芽細胞などの免疫や炎症に関与する公汎な細胞に発現している.SykはBCR,TCR,FcR,インテグリンなどITAM領域を含む多鎖免疫レセプターのシグナル伝達において重要な役割を担う.近年,Syk阻害剤(fostamatinib)のRAをはじめとした,気管支喘息,特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫やアレルギー病態に対する有効性が報告され,SLEモデルマウスにおいても皮膚症状,腎障害の進展抑制効果がみられているが,その作用機序は依然不詳である.我々は,ヒト末梢血B細胞において,Sykを介したBCRシグナルは,TLR9,TRAF-6のoptimalな発現誘導に極めて重要で,結果として,効率的なCD40,TLR9シグナル伝達が齎されることを明らかにした.以上より,Sykは自己免疫疾患のB細胞依存性病態において重要な役割を担う可能性が示唆された.本編では,RAやSLEを中心に,自己免疫疾患に対するSyk阻害剤のin vitro,in vivoにおける効果について概説する.
著者
大塚 毅 出原 賢治 田中 洋輔 山岡 邦宏 新納 宏昭 中島 衡
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

1. IL-10とIL-4は単球・マクロファージさらには好中球を標的として多彩な向炎症性物質産生を抑制し抗炎症作用を発揮することを明らかにした。とくに、シクロオキシゲナーゼ(COX)活性とプロスタノイド産生を観察し、両サイトカインの作用機構を細胞内シグナル伝達の系を通して明らかにした。2. 単球・マクロファージならびに好中球の活性化におけるMAPキナーゼ(MAPK)の同定と機能発現への関与(1) LPSによる活性化にて、MAPK中のERK2とP38MAPKのリン酸化ならびにキナーゼ活性が上昇した。(2) サイトカインとプロスタノイド産生においてこれらのMAPKの活性化が関与していることが判明した。(3) IL-10とIL-4によるMAPK活性化への異なる制御機構が判明した。3. ヒト単球に対するLPS刺激時にはSTAT5が活性化され、GM-CSF遺伝子発現などの関連している。IL-10はSTAT5を抑制することによって、COX-2遺伝子発現を制御している可能性がある。4. RA患者の好中球における機能変化(1) RA患者において末梢血ならびに関節液中の好中球からのサイトカインならびにプロスタノイド産生が健常人に比べて増強していることが判明した。(2) その機能発現にMAPK経路の関与が示唆された。5. IL-10等のサイトカインのシグナル伝達系が疾患発症の感受性に影響する可能性を今後検索していくために、RT-PCR-RFLPによる多型解析を行い、実験系を確立した。現在、自己免疫疾患を中心に解析し興味ある結果が得られてきた。
著者
園本 格士朗 山岡 邦宏 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.141-146, 2014-06-01 (Released:2014-06-14)
参考文献数
33
被引用文献数
2 5

関節リウマチ(RA)は関節炎と関節の構造的障害を特徴とする疾患で,進行すると身体機能障害を引き起こし,就労率の低下や介護といった社会資源の損失をもたらす.元来RAは進行性の疾患と考えられていたが,近年の治療の進歩により関節破壊の完全な進展抑制が現実的となった.しかし,罹病期間が長く新治療の恩恵を受けられなかった,または新治療によっても疾患活動性が制御できないなどの理由で進行した関節破壊を呈する患者は稀でなく,破壊関節を再生しうる治療法の開発が待たれている.我々は,骨・軟骨に分化可能で抗炎症作用を持つ間葉系幹細胞(MSC)による治療をRAの新規治療法として位置づけ,これまでにMSCが破骨細胞分化抑制作用を持つこと,炎症がMSCの骨芽細胞分化を促進し,軟骨細胞分化を抑制することを報告した.さらに現在,足場によるMSC移植システムを構築中であり,RA患者への臨床応用は着実に近づきつつあると考えられる.