著者
中山田 真吾 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-7, 2016 (Released:2016-05-14)
参考文献数
41
被引用文献数
3 6

自己免疫疾患の病態形成には,自己応答性T細胞とB細胞の活性化,および産生された自己抗体による組織障害が介在する.濾胞性ヘルパーT(Tfh: T follicular helper)細胞は,B細胞の成熟と活性化,抗体産生を制御するヘルパーT細胞である.動物モデルを用いた基礎研究により,自己免疫疾患の病態でTfh細胞が重要な役割を担うことが報告され,治療標的としての注目を集めてきた.実際,ヒト自己免疫疾患患者の末梢血には,Tfh細胞が疾患活動性や自己抗体価と相関をもって増多する.一方,ヘルパーT細胞の分化と機能はマウスとヒトで異なることが指摘されており,ヒトを対象とした臨床免疫学の重要性が認識されている.近年,Tfh細胞と他のヘルパーT細胞サブセットの間には可塑性と多様性が存在することが示された.このことは,さまざまな病原体に対抗するため生体にとり理にかなった仕組みである一方,複合的な自己免疫疾患の発症と遷延化に関与している可能性もある.今後,ヒトTfh細胞における可塑性/多様性の制御機構が解明されることで,病態の本質的な理解,効果的な治療戦略に貢献するものと期待される.
著者
中野 和久 松下 祥 齋藤 和義 山岡 邦宏 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.1-6, 2009 (Released:2009-02-28)
参考文献数
16
被引用文献数
5 10

ドパミンD2様受容体の過剰反応が主原因とされる統合失調症においては,関節リウマチ(RA)の発症率が顕著に低下することが知られるが,その原因は不詳である.神経伝達物質はリンパ球表面の受容体を介して免疫修飾作用を発揮する.脳内の主要な神経伝達物質であるドパミンは,D1~D5のサブタイプを持つ7回膜貫通型のGPCRを介してシグナルを転送する.   我々はこれまでに樹状細胞(DC)でのドパミン合成・貯蔵とナイーブT細胞への放出機構,およびヘルパーT細胞サブセット分化への影響を解明した.RAにおいてもDCは関節内抗原をT細胞に提示し病態形成の初期から重要な役割を果たすことから,RA滑膜組織におけるドパミン・ドパミン受容体の機能的役割を評価した.本稿ではこの一連の解析を概説し,ドパミン受容体を標的とした創薬の可能性についても述べる.
著者
岡田 洋右 田中 健一 田中 良哉
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.111, no.4, pp.758-764, 2022-04-10 (Released:2023-04-10)
参考文献数
8

骨粗鬆症の予防と治療の目的は,骨折を予防し骨格の健康を保って,生活機能とQOL(quality of life)を維持することである.そのためには,種々の骨粗鬆症治療薬から個々の症例において,症例背景や作用機序を考慮して薬剤選択をするべきであり,骨密度増加・骨折予防効果のエビデンスのみならず,アドヒアランス,副作用,薬価も念頭においた治療方針を立てる必要があり,長期的な視点に立ち個々の患者に適した薬剤を選択することが重要である.
著者
久能 芙美 岡田 洋右 新生 忠司 黒住 旭 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.49-53, 2015-03-01 (Released:2015-03-14)
参考文献数
9
被引用文献数
1

症例は42歳女性.動悸・発汗過多・手指振戦のため2011年3月に来院.甲状腺刺激ホルモン(thyroid stimulating hormone; TSH) < 0.01 μU/ml,遊離サイロキシン (free thyroxine; FT4) 6.15 ng/ml,抗TSH受容体抗体 (TSH receptor antibody; TRAb) 7.8 U/ml の検査所見よりバセドウ病と診断し,メチマゾール 30 mg,プロプラノロール30 mg 内服を開始し甲状腺機能は改善した.しかし,躁症状,易刺激性,幻覚妄想が顕著となり2011年5月医療保護入院となった.アリピプラゾール24 mgおよびリチウム400 mg内服を開始したが,幻覚・妄想症状が遷延し抗精神病薬の調節を要した.甲状腺機能改善に遅れ,2011年7月に精神症状は改善し退院.退院後はメチマゾール10 mg内服で甲状腺機能は正常化を維持し,抗精神病薬内服は中止できた.バセドウ病では気分や活動性の変化などの気分障害が多いが,本例のように幻覚妄想など本格的な精神症状が主徴となり入院加療まで要した報告は少ない.バセドウ病に伴う症状精神病では精神症状が遷延する可能性があり,精神科専門医との綿密な連携が重要である.
著者
河邊 明男 中野 和久 山形 薫 中山田 真吾 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.317a, 2015 (Released:2015-10-25)

【背景・目的】RAでは線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)が骨軟骨破壊の中心を担うが,RA由来FLS特有のDNAメチル化プロファイルは攻撃的表現型と関連する.今回,最近DNA脱メチル化酵素として同定されたTetファミリーの調節における炎症の関与を評価した.【方法】関節手術で得た患者由来滑膜とFLSを4~6継代で使用.Tet1-3発現をqPCR,WB,免疫染色で,5hmCの発現をDot blotで評価した.siRNAでTETノックダウン後にTNFで96時間刺激し,各種メディエーター分泌と表面抗原の発現,細胞移動度を評価した.【結果】RA滑膜組織ではOAとの比較で強いTet3発現を認めた.FLSにおいて,炎症性サイトカイン(TNF,IL-1L-6,IL-17等)はDNAメチル化酵素(DNMT)遺伝子発現を低下させた一方で,Tet3のmRNAおよび蛋白発現を増加し,5hmC発現を促進した.さらに,TET3 siRNAにより,TNF依存性のCCL2産生,ICAM-1発現,浸潤能等はほぼ完全に阻害された.【考察】炎症性サイトカインによる慢性刺激はDNMT発現低下による受動的脱メチル化だけでなく,Tet3の発現増加による能動的脱メチル化も促進することが明らかになり,滑膜炎症の持続はエピジェネティック異常を誘導し,FLSの攻撃的表現型を付与することで病態の悪化をもたらすことが示唆された.
著者
黒住 旭 岡田 洋右 西田 啓子 山本 直 森 博子 新生 忠司 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.353-361, 2012-12-01 (Released:2013-02-28)
参考文献数
20

症例は49歳男性.43歳時より動作時に動悸,冷汗,虚脱感が突然生じるようになり,低血糖発作(血糖50~60 mg/dl)を疑われ当科紹介.75 g経口糖負荷試験で5時間後に血糖56 mg/dlまで低下したが,無治療で血糖は回復.48時間絶食試験終了直前,排尿後の立位時に気分不良となり冷汗,頻呼吸を生じた.その際装着していたホルター心電図で140台の洞性頻脈を認めた.頻脈は日中活動時のみ出現し,起立時に再現性がありhead-up tilt試験を施行.起立時に血圧低下なしに心拍数上昇を認め,経過から体位性起立頻脈症候群の可能性が高いと判断した.β遮断薬開始後に発作は出現せず,1ヵ月後に再検したhead-up tilt試験では起立時の心拍数増加も消失を認めた.一般的に体位性起立頻脈症候群は洞性頻脈,不適切洞性頻脈,洞房結節リエントリー性頻拍といった頻脈性不整脈や神経調節性失神との鑑別が困難なことも多いが,本症例においては低血糖発作との鑑別として考慮すべき疾患と考えたため報告する.
著者
杉藤 素子 岡田 洋右 鳥本 桂一 遠田 和彦 田中 良哉
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.61, no.12, pp.822-826, 2018-12-30 (Released:2018-12-30)
参考文献数
4

インスリン注射針などの医療廃棄物(以下,注射針等)の不適切廃棄は社会問題となっている.東海道新幹線においても車内清掃時に注射針等を発見するケースが散見され,清掃員の針刺し事故も発生している.今回,清掃会社A事業所に協力を依頼し実態調査を行った.注射針等の発見は,平成(Hと略す)25年度97件,H26年度153件,H27年度170件,針刺し事故はH25年度1件,H26年度0件,H27年度1件であった.H27年度は発見場所も調査したが,トイレ51 %,床面32 %,座席周辺8 %,洗面所7 %で,すべてむき出しであった.2日に1件の頻度で注射針等が発見されている一方,A事業所の針刺し事故の発生は他の報告より少ない頻度であった.教育や注射針回収の対策を講じた効果であると考える.しかし,不適切廃棄が続く限り,完全に清掃員の針刺し事故を防止することは難しい.本報告が療養指導に活用されれば幸いである.
著者
齋藤 桃 岡田 洋右 鳥本 桂一 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.301-306, 2022-09-01 (Released:2022-09-09)
参考文献数
14

症例は40歳女性.食後に生じる低血糖症状を主訴に当科紹介受診した.75g経口ブドウ糖負荷試験では,1時間後血糖245 mg/dl,2時間後血糖196 mg/dlであり耐糖能異常と診断した.しかし,6時間後血糖はインスリン遅延過剰分泌に伴い46 mg/dlと低血糖を呈しており,反応性低血糖と診断した.単純糖質を避けるなどの食事指導を行うとともに耐糖能異常・反応性低血糖に対してボグリボース0.6 mgの内服を開始した.低血糖症状の頻度は一旦減少していたが,徐々に低血糖頻度が再度増加した.詳細な問診により月経2-3日前に低血糖の頻度が多いことが判明したため,月経前後の血糖変動を確認するためFlash Glucose Monitoring(FGM)を装着した.FGMでは月経3日前より食後血糖の増悪とともに,反応性低血糖の出現を認め,一方月経4日後には食後高血糖は改善し,反応性低血糖も消失したことを確認した.月経前にはボグリボースの飲み忘れがないように服薬指導を行うとともに,月経数日前には昼食後の補食をするように指導を行い,低血糖出現頻度は減少した.これまで本例のように月経前に増悪する反応性低血糖症をFGMで評価し得た報告はない.反応性低血糖の診断や病勢評価,治療において,月経周期の血糖への影響についても考慮する必要がある.
著者
岩田 慈 山岡 邦宏 新納 宏昭 中野 和久 Sheau-Pey WANG 齋藤 和義 赤司 浩一 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.56-61, 2012 (Released:2012-02-28)
参考文献数
25
被引用文献数
3 3

近年関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)をはじめとした自己免疫疾患に対し,生物学的製剤の高い有効性が報告されている.一方で,低分子化合物は経口投与可能であり,また廉価となる期待などから注目を集めている.Sykは72 kDaのチロシンキナーゼで,B,T細胞,肥満細胞,マクロファージ,好中球,滑膜線維芽細胞などの免疫や炎症に関与する公汎な細胞に発現している.SykはBCR,TCR,FcR,インテグリンなどITAM領域を含む多鎖免疫レセプターのシグナル伝達において重要な役割を担う.近年,Syk阻害剤(fostamatinib)のRAをはじめとした,気管支喘息,特発性血小板減少性紫斑病などの自己免疫やアレルギー病態に対する有効性が報告され,SLEモデルマウスにおいても皮膚症状,腎障害の進展抑制効果がみられているが,その作用機序は依然不詳である.我々は,ヒト末梢血B細胞において,Sykを介したBCRシグナルは,TLR9,TRAF-6のoptimalな発現誘導に極めて重要で,結果として,効率的なCD40,TLR9シグナル伝達が齎されることを明らかにした.以上より,Sykは自己免疫疾患のB細胞依存性病態において重要な役割を担う可能性が示唆された.本編では,RAやSLEを中心に,自己免疫疾患に対するSyk阻害剤のin vitro,in vivoにおける効果について概説する.
著者
田中 良哉 岡田 洋右
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.96, no.4, pp.669-674, 2007 (Released:2012-08-02)
参考文献数
5
被引用文献数
2 1

悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症は代表的な腫瘍随伴症候群で,進行癌の約10%に併発する.腫瘍細胞から産生された副甲状腺ホルモン関連蛋白(PTHrP)は,腎でのカルシウム再吸収や骨でのカルシウム動員を介して高カルシウム血症をもたらす.ビスフォスフォネートは,骨吸収阻害を介して高カルシウム血症に奏功する.本稿では,PTHrP産生腫瘍による高カルシウム血症の発症の機序,診断,治療および今後の展望について概説する.
著者
花見 健太郎 田中 良哉
出版者
産業医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2019-04-01

神経系及び神経伝達物質が免疫系のみならず、骨代謝へも影響を与えている事が近年報告されている。我々は、関節リウマチ患者炎症性滑膜の樹状細胞にドパミンが豊富に存在する事、ドパミンD1様受容体阻害薬が滑膜炎症及び関節破壊を抑制しうる事をSCIDマウスを使ったヒト関節リウマチモデルにおける検討で明らかにし、更にはドパミンD2受容体シグナルが細胞内cAMP-c-Fos-NFATc1を抑制する事で 破骨細胞形成を抑制する事を報告しており、神経伝達物質が、関節リウマチの新規治療方法となり得る可能性が考えられる。本研究では、神経伝達物質による関節リ ウマチに対しての新規治療法の開発を目的とする。
著者
福島 あゆみ 岡田 洋右 谷川 隆久 河原 智恵 三澤 晴雄 中井 美穂 廣瀬 暁子 神田 加壽子 森田 恵美子 田中 良哉
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.311-316, 2003-04-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16

症例は52歳女性. 1996年 (平成8年) に低血糖昏睡 (血糖12mg/dl) で近医に緊急入院したが, 低血糖発作が頻発するため1997年 (平成9年) 当科入院.考えられる低血糖発作の原因を除外した後に, インスリン (IRI) 血糖 (PG) は0.44~1.07, 血管造影で膵尾部に径1.5cm大の濃染像が疑われることより, インスリノーマの診断で膵体尾部脾合併切除 (90%) を施行したが, 術中所見, 切除膵の組織学的検討で異常所見を認めなかった. しかし, その後も夜間空腹時低血糖発作を反復するも, 発作時のIRI PGが0.07と過剰インスリン分泌は消失していたことから, 術後低血糖の主因としては反応性低血糖を考え, ボグリボース内服と夜間補食 (2単位) を開始. 以後, 日常生活には支障ないものの, 依然として早朝空腹時血糖は50mg/dl前後であり, 2001年 (平成13年) 9月病状再評価のため施行した選択的動脈内カルシウム注入検査 (ASVS) にて, 30秒後にIRIが2.5倍以上に上昇し陽性. また, ボグリボースと夜間補食中止下でのdaily profiieでは食後高血糖がみられ, 著明なインスリン抵抗性と低血糖時のインスリン分泌抑制を認めた.本例の低血糖の病態としては, ASVSの結果および術後経過より, 術前の病態としては膵β細胞のび漫性機能亢進があったのではないかと考えられ, 広汎な膵切除によるインスリン総分泌量の減少に加え, ボグリボースにより反応性のインスリン過剰分泌を減少させることで重篤な低血糖発作を改善することができたと推測される.
著者
岩田 慈 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.398-402, 2015 (Released:2016-01-04)
参考文献数
25
被引用文献数
1

自己免疫疾患病態においてB細胞は病態形成に極めて重要な役割を担うが,その機能発現にはT細胞との相互作用が極めて重要である.著者らは,ヒト末梢血B細胞を用いたin vitro実験により,BCR/CD40/TLR/サイトカイン(IL-4, IL-21)刺激は,Syk, Btk, JAKなどのチロシンキナーゼを介したシグナルの活性化により,サイトカイン産生,分化誘導・クラススイッチに重要なgene network,抗体産生などを多様に制御していることを明らかにした.またRA,SLE患者末梢血B細胞のSyk, Btkのリン酸化は,健常人に比し有意に亢進しており,特にRA患者においては,ACPA強陽性例において有意に亢進していた.T細胞選択的共刺激調節剤,CTLA-Igアバタセプトの投与により,RA患者末梢血CD4陽性T細胞中のTfhの割合は有意に減少し,さらにB細胞のSykのリン酸化も有意に抑制された.これらの結果より,B細胞,B-T細胞の相互作用を標的とした生物学的製剤,さらにSyk, Btk, JAKなどのチロシンキナーゼを標的とした阻害剤は自己免疫疾患の制御に有用である可能性が示唆された.本編では,RAやSLEを中心に,B細胞,B-T細胞相互作用を標的とした生物学的製剤やSyk, Btk, JAK阻害剤の最近の知見についても概説する.
著者
森 博子 岡田 洋右 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.34, no.4, pp.323-329, 2012-12-01 (Released:2013-02-28)
参考文献数
25

ビタミンD欠乏症は骨粗鬆症,骨折の原因のみならず,近年では2型糖尿病や心血管疾患,高血圧,癌,感染,自己免疫疾患などの発症リスクを上昇させると報告されている.日光曝露不足や食事からのビタミンD摂取不足が,ビタミンD欠乏症に繋がっており,特に女性においてビタミンD欠乏症は,よくみられる病態と考えられる.女性が長く健康で働きつづけるためには,様々な疾患との関連が報告されているそれらの病態の上流に位置するビタミンDは極めて重要な因子である.
著者
中山田 真吾 田中 良哉
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.162-168, 2019-06-30 (Released:2019-08-22)
参考文献数
15

関節リウマチ(RA)の治療では,メトトレキサート(MTX)などの従来型合成抗リウマチ薬(csDMARD),及び,生物学的抗リウマチ薬(bDMARD)による早期からの適切な治療介入により,臨床的,構造的,機能的な寛解が目標となった.しかし,これらの治療でも治療抵抗性の症例が多く存在する.Janus kinase(JAK)阻害薬は,サイトカインシグナルを媒介するキナーゼのJAKを選択的に阻害し,関節リウマチ(RA)の病態へのマルチターゲット作用により臨床効果を発揮する.高分子の蛋白製剤であるbDMARDは静脈内または皮下注射での投与に限定されるのに対し,JAK阻害薬は内服可能な分子標的合成抗リウマチ薬(tsDMARD)であり,bDMARDと同等の効果を有する.本邦では,2013年にトファシチニブ,2017年にバリシチニブがRAに対して上市された.実臨床でのJAK阻害薬の優れた臨床効果が確認されつつあるが,JAK阻害薬の安全性への懸念が少ないわけではなく,生物学的製剤と同様,感染症などの十分なスクリーニングのもと導入すべきである.これまでの臨床試験や市販後調査で蓄積されたJAK阻害薬の有効性と安全性の知見をもとに,リウマチ専門医によるJAK阻害薬の適正な使用が望まれる.
著者
鈴木 克典 齋藤 和義 中山田 真吾 田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集 第34回日本臨床免疫学会総会抄録集 (ISSN:18803296)
巻号頁・発行日
pp.62, 2006 (Released:2006-09-01)

全身性エリテマトーデス(SLE)はB細胞活性化と自己抗体過剰産生による臓器障害が特徴の自己免疫疾患である。免疫吸着療法による早期自己抗体除去が1年後の臨床的活動性、予後への関与を検討した。1999年から2005年までの6年間に腎生検で増殖性ループス腎炎と診断し、ステロイド大量療法、シクロホスファミド間欠大量静注療法に免疫吸着療法を施行したSLE患者群を免疫吸着群(IA;26)、血漿交換療法を併用した血漿交換群 (PE;6)、患者背景をマッチさせたコントロール群(C;24)と3群を治療開始時、1,3,6,12ヶ月目のSLEの疾患活動性、腎機能、自己抗体などの免疫異常などを評価した。PEもIAも治療開始初期に抗dsDNA抗体を速やかかつ自己抗体特異的に除去しえた。SLEDAIでのSLE疾患活動性改善度は、IA, PEにて3ヶ月後有意に改善しCと同等、さらに12ヶ月後にIAはCより活動性制御されPEは上昇傾向が見られた。血清補体価は治療開始後12ヵ月後C、PEに比して IAで有意な改善を認め、IAではCに比して平均観察期間中央値で3.8年間の再燃・死亡の危険性は有意に低かった。治療開始後3ヶ月、12ヵ月後の長期経過によりSLE全般的改善度や再燃率でIAの優位性が明らかとなり抗dsDNA抗体などの早期自己抗体除去による臓器沈着、補体活性化軽減が示唆され、活動性の高く、特に自己抗体が異常高値症例で積極的に免疫抑制療法に併用しIAを開始することを提唱する。

1 0 0 0 B細胞

著者
田中 良哉
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会総会抄録集
巻号頁・発行日
vol.35, pp.17, 2007

関節リウマチ(RA)や全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫疾患では、B細胞は活性化されて自己抗体やサイトカインを産生すると同時に、抗原提示細胞としてT細胞を活性化し、病態形成過程で中心的な役割を担う。したがって、B細胞は治療標的として注目され、B細胞抗原CD20分子に対するキメラ抗体リツキシマブは、米国ではTNF阻害療法抵抗性RAに承認されている。SLEに対してもリツキシマブを用いた臨床試験が各国で展開される。本邦でも、リツキシマブは神経精神ループスやループス腎炎を呈した治療抵抗性SLE 19例に対して奏功し、14例で寛解導入を齎したとのパイロットスタディに引き続き、第2/3相試験を実施中である。一方、一定の割合でリツキシマブ無効例が存在すること、抗キメラ抗体、血栓症併発、進行性多発性白質脳症やB型肝炎再燃などの問題点も明らかになった。斯様な点をクリアするため、ヒト化CD20抗体オクレリズマブやヒト型CD20抗体オファツズマブがRAに、抗CD22抗体エプラツズマブがSLEを対象に臨床試験が実施される。さらに、B-T細胞相互作用の制御を目的としたCTLA4-Ig複合蛋白アバタセプトは米国でRAに承認され、抗BLyS抗体ベリムマブやTACI-Ig融合蛋白アタシセプトも、欧米で自己免疫疾患に対する試験が進行する。また、CD20抗体療法は、血管炎症候群、皮膚筋炎、シェーグレン症候群でも有効性が高く評価されが、その作用機序としては、B細胞分化を制御してナイーブB細胞の再構築を生じたと同時に、共刺激分子を発現するメモリーB細胞を優先的に除去して、B-T細胞間相互作用を制御した可能性が示唆される。以上、B細胞を標的とした生物学的製剤が好成績を挙げるに従い、B細胞の基礎的、病態的意義を再考する契機にもなり、病態解明や治療にブレークスルーを齎すものと期待される。
著者
田中 良哉
出版者
一般社団法人 日本臨床リウマチ学会
雑誌
臨床リウマチ (ISSN:09148760)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.131-135, 2007-06-30 (Released:2016-12-30)
参考文献数
12
著者
山本 直 岡田 洋右 新生 忠司 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.55-60, 2015-03-01 (Released:2015-03-14)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

症例は56歳女性.外傷を契機に全身倦怠感や悪心・嘔吐が出現し近医入院.高カルシウム血症を伴う意識障害や全身の皮疹が出現したため当科転院となった.臨床症候(意識障害,食欲不振,悪心・嘔吐,血圧低下,発熱)および検査所見(血中cortisol 1.2 μg/dl と低値,高カルシウム血症11.0 mg/dl,末梢血好酸球増多1,600 /μl )より副腎皮質機能低下症と診断.皮膚生検で好酸球浸潤を認め,最終的にprednisolone 30 mg/day内服により上記症状は改善した.同症で認められる一般検査所見として高カルシウム血症および末梢血好酸球増多が知られているが,本例のように著明な症状を呈することは稀であるので報告する.
著者
園本 格士朗 山岡 邦宏 田中 良哉
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.141-146, 2014-06-01 (Released:2014-06-14)
参考文献数
33
被引用文献数
2 5

関節リウマチ(RA)は関節炎と関節の構造的障害を特徴とする疾患で,進行すると身体機能障害を引き起こし,就労率の低下や介護といった社会資源の損失をもたらす.元来RAは進行性の疾患と考えられていたが,近年の治療の進歩により関節破壊の完全な進展抑制が現実的となった.しかし,罹病期間が長く新治療の恩恵を受けられなかった,または新治療によっても疾患活動性が制御できないなどの理由で進行した関節破壊を呈する患者は稀でなく,破壊関節を再生しうる治療法の開発が待たれている.我々は,骨・軟骨に分化可能で抗炎症作用を持つ間葉系幹細胞(MSC)による治療をRAの新規治療法として位置づけ,これまでにMSCが破骨細胞分化抑制作用を持つこと,炎症がMSCの骨芽細胞分化を促進し,軟骨細胞分化を抑制することを報告した.さらに現在,足場によるMSC移植システムを構築中であり,RA患者への臨床応用は着実に近づきつつあると考えられる.