著者
山本 伸幸
出版者
一般社団法人 日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.104, no.5, pp.295-302, 2022-10-01 (Released:2022-11-29)
参考文献数
47

明治期以降の都府県民有林行政における森林技術者任用の歴史的推移を検討することが本小論の目的である。第一に,都府県に近代林学教育を受けた森林技術者が初めて任用された明治期から現代に至るまでの全国的な動向の通史について,史資料を用いて明らかにした。都府県民有林行政における森林技術者の任用は明治30年代の水害対応を重要な契機とし,次第に各府県に浸透する。木炭を嚆矢とする府県営林産物検査機関設置の要員確保のため,1930年代後半に府県森林技術者は急増した。戦後1.1万人にまで達した都府県森林技術者は1951年森林法下の民有林行政を支えたが,21世紀以降急減し,現在に至る。第二に,近代化の端緒と言える各府県初の森林技術者の任用者および任用時期を史資料から割り出し,導入期の森林技術者任用の特徴について解明した。府県における初の森林技術者の氏名を特定し,全府県の任用に1895(明治32)から1912(明治45)年の18年間を要したこと,1890(明治23)年卒業者数が卓越していること等の知見を得た。
著者
山本 伸幸
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.1-8, 2011-07-15
被引用文献数
1

フィンランドにおける森林所有者共同組織の,独立前後から現在までの形成過程に焦点を当て,同国の公私分担の有り様を探ることを目的とした。具体的には,日本の森林・林業再生プランの議論などで近年度々参照される森林管理組合(MHY)と,グローバル企業体である巨大森林協同組合メッツァリートグループという,性格の異なる2つの森林所有者共同組織の対比を議論の中心に据え,日本の森林組合論を手がかりに整理を試みた。その結果,1)森林管理組合については,公益性のある土地組合へと純化する傾向が近年の行財政改革の中であらためて問い直されていること,2)メッツァリートについては,森林所有者の組合としての拘束された資本の側面が,大規模林産企業としての機能資本の側面によって変容を迫られていることが明らかとなった。最後に,3)今回の議論が,日本の森林組合に関する公私分担の議論にも資することが示唆された。
著者
奥田 裕規 井上 真 安村 直樹 立花 敏 山本 伸幸 久保山 裕史
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.37-42, 1998-10-01
被引用文献数
2

高度経済成長期以降,全国の山村において4割もの人口が若年層を中心に流出した。しかしながら,東北地方の人口減少は他の地方と比べ,比較的緩やかであった。これは,家の跡取りとして財産を引き継ぐ替わりに親の世話をするという「使命」を負わされ,その「使命」を果たすため,農業や出稼ぎをしたり,「国有林材生産協同組合」(以下,「国生協」という)等に勤務することにより山村に残り,または通勤圏内に仕事を見つけ,都市部からUターンしてきた人たちが35歳以上世代に多くいたからである。ところが,1990年以降,人口減少の程度が激しくなっている。この理由として,都市部に出た34歳以下の子供たちが,故郷に帰って財産を引き継がねばならないという「使命」から解き放たれ,故郷に帰ってきていないことがあげられる。山村が今後も維持されていくか否かは,この子供たちが山村に戻ってくるか否かにかかっている。アンケート調査によると,女性の子供たちに,故郷で親の世話をするべきだと考え,将来,故郷に帰るか否か迷っている傾向がみられる。このような子供たちが自ら望んで故郷に帰って来るために,どのような環境を整えればよいのか,今後,更に研究を進めていく必要がある。
著者
山本 伸幸
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.55-62, 2013-03
参考文献数
43

今般の森林・林業再生プランの議論においても同様だが,経営受委託の遙か彼方にあるエル・ドラードとして,森林の信託はしばしば言及される。もちろん周知の通り,森林組合法9条は「組合員の所有する森林の経営を目的とする信託の引受け」を組合事業の1つに掲げており,僅かながら事例もある。また,2006年の信託法全面改正や金融関連企業の森林問題へのコミットメント増加などの要因もあって,森林信託の言葉を耳にする機会も最近多い。しかしながら,森林の信託性に関する考究は少なく,その森林経営・管理に対する意義などの実像は依然として不鮮明なままである。本小論では,これまでの森林の信託性に関する歴史と議論および最近の実例を踏まえ,予備的考察を行うことを課題とした。その結果,1)戦前期に構想された商事信託,2)1987年森林組合法改正時の分収林事業,森林レクリエーション事業普及の政策手法,3)施業集約化手法,4)公有林経営受託,の1つの構想と3つの事例を確認した。