- 著者
-
山本 明彦
- 出版者
- 日本測地学会
- 雑誌
- 測地学会誌 (ISSN:00380830)
- 巻号頁・発行日
- vol.35, no.2, pp.215-225, 1989-06-25 (Released:2011-03-01)
- 参考文献数
- 22
最近の深発地震の研究から,西南日本において南海・駿河トラフに沿って沈み込むリフィリピン海プレートは,東海地方と紀伊半島で南に凸の等深発地震面を持ち,これらの境界ではcuspを形成していることが明らかになってきた.一方,濃尾平野から琵琶湖にかけての広い地域でブーゲ異常が負になり,特に強い負の領域が濃尾平野と琵琶湖周辺にあることは以前より注目されてきた.本論文では稠密重力データを最新の地震学的成果と結びつけ,東海~近畿地方におけるプレートの沈み込み帯での重力異常を調べた.地下深部構造とそこから期待されるブーゲ異常について細かく考察するために堆積物や海水の影響を取り去った.濃尾平野および近江盆地では,深層ボーリングデータにより基底までの深さと堆積層の密度を推定した.琵琶湖の湖水の影響についても湖底地形をコンタで与え,三次元タルワニ法で計算した.伊勢湾から太平洋にかけての海上・海底の重力データに対しては海底地形を与えて海水の補正を行なった.得られた修正ブーゲ異常図では琵琶湖付近に依然として負の領域が残り,その値は-40mGalに達することがわかった.この量をモホ面の起伏で説明すると中部山岳と同程度となる.この残差ブーゲ異常をフィリピン海プレートの沈み込みに関連づけて説明してみた.フィリピン海プレートの海洋地殻は玄武岩質のまま沈み込み,伊勢湾から若狭湾にかけて大陸地殻に接している.この海洋性地殻を含めたプレートの三次元モデルから計算したプレートの重力効果により,琵琶湖を中心とした負のブーゲ異常をうまく説明することができた.琵琶湖付近での残差ブーゲ異常はフィリピン海プレートの上部にある比較的軽い海洋地殻の浅いもぐりこみのために,見掛け上,地殻が厚くなることによって生ずると考えられる.これにより,(見掛け上)モホ面が深くなっていることも地殻底地震の震源面がせりあっていることもうまく説明できた.