著者
志賀 英明 山本 純平 三輪 高喜
出版者
耳鼻咽喉科展望会
雑誌
耳鼻咽喉科展望 (ISSN:03869687)
巻号頁・発行日
vol.55, no.Supplement1, pp.s15-s19, 2012 (Released:2013-08-29)
参考文献数
16

脳内への高分子薬物の輸送のため血液脳関門 (Blood-brain barrier: BBB) を回避する経路として鼻腔内投与による嗅神経輸送が注目されている。インスリン様成長因子-I (Insulin-like growth factor-I: IGF-I) は脳神経の発達や成長に関わっている。脳梗塞などへの臨床応用が志向されているが, BBBで脳内への取り込みが阻害されるため経鼻投与が着目されている。ICR健常マウスに対しIGF-Iを経鼻投与したところ用量依存的な嗅球や脳組織へのIGF-I輸送増加が認められたのに対し, 三叉神経へのIGF-I輸送に投与量による変化は認めなかった。以上よりIGF-I経鼻投与による脳内輸送は主に嗅神経経由と考えられた。臨床で使用可能な嗅神経トレーサーが発見されていなかったため人体における末梢嗅神経を介した脳内輸送の詳細は不明であった。我々はこれまで核医学検査で使用されている塩化タリウム (201TlCl) を, 健常者鼻腔内の嗅裂に滴下することにより, 嗅球まで 201Tlが輸送されることを明らかとしてきた。さらに嗅覚障害者を対象とした 201Tl経鼻投与イメージングの結果, 嗅覚障害者では 201Tl嗅神経輸送能の低下傾向を認めた。今後IGF-Iなど高分子薬物の経鼻投与を行う際には対象者の嗅神経輸送能の評価が今後の課題といえる。
著者
三輪 高喜 山本 純平 志賀 英明 能田 拓也 山田 健太郎 張田 雅之
出版者
金沢医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

感冒後嗅覚障害は中高年の女性に多く発症するが、その理由は明らかにされていない。嗅細胞は常に変性と新生を繰り返す特異な神経細胞であり、中高年の女性は嗅神経の再生能力に何らかの特徴があるのではないかと思い、嗅神経の再生と女性ホルモン、神経成長因子との関係を知るため本研究を立案した。その結果、卵巣を摘出した雌のマウスでは、同世代の無処置マウス、雄マウスと比べて、嗅神経障害後の再生が遅れることが判明した。一方、臨床研究として、感冒後嗅覚障害患者のエストロゲン値を測定したが、閉経後の患者が大部分を占めたため、嗅覚の回復とエストロゲン値との間に有意な関係は見いだせなかった。
著者
齊藤(北岡) 千佳 山本 純平 井部 奈生子 良永(加藤) 裕子
出版者
日本調理科学会
雑誌
日本調理科学会大会研究発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.30, 2018

【目的】麹菌<i>Aspergillus oryzae</i>はその酵素によって食品に独特の味や風味を付与することが知られている。本研究では、塩こうじを非加熱ろ過した調味液である「液体塩こうじ」が食肉の呈味およびテクスチャに及ぼす影響を調べ、おいしさ向上への寄与を科学的に検証することを目的とした。<br>【方法】試料には牛モモ肉および豚ロース肉を使用し、各試験に適した前処理を行った。味およびテクスチャはプロテアーゼ活性試験、HPLCによる遊離アミノ酸分析、レオメータによる破断強度測定、官能評価および味認識装置による味分析により評価した。統計解析には、<i>t</i> 検定または一元配置分散分析後、Tukeyの多重比較検定を用いた。<br>【結果】プロテアーゼ活性試験では、35℃処理のカゼインタンパク質量が他温度群に比べ有意に減少した。遊離アミノ酸分析では、牛および豚ミンチ肉において、液体塩こうじ処理群のうま味・甘味を示す成分が有意に増加した。破断強度は、液体塩こうじ処理群で有意に低値を示した。官能評価では有意差はなかったものの、理化学分析と矛盾しない傾向がみられた。味認識装置による分析では、液体塩こうじを添加した豚ミンチ肉で酵素活性の有無に関わらず「うま味後味」が無添加群より高かった。また液体塩こうじ添加群では、酵素を失活させるために高温処理した群よりも「苦味先味」が有意に低値を示した。以上の結果より、液体塩こうじは麹菌の酵素により食肉の呈味成分を増すとともに肉質を柔らかくすることから、味の向上への寄与が検証された。さらに、プロテアーゼの至適温度が35℃付近と判明したことから、加熱調理の直前に15分程度ぬるま湯に浸漬するとおいしさが増すことが示された。
著者
志賀 英明 山本 純平 三輪 高喜
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.132, no.11, pp.1263-1266, 2012 (Released:2012-11-01)
参考文献数
23
被引用文献数
1

Nasal administration of macromolecular drugs (peptides, nanoparticles) has a possibility to enable a drug delivery system beyond the blood brain barrier via olfactory nerve transport. Basic research on nasal drug delivery to the brain has been well studied. However, evaluation of the olfactory nerve transport function in patients with olfactory disorders has yet to be done, although such an evaluation is important in selecting candidates for clinical trials. Current olfactory function tests are useful for the analysis of olfactory thresholds in olfaction-impaired patients. However, the usefulness of using the increase in olfactory thresholds in patients as an index for evaluating olfactory nerve damage has not been confirmed because of the difficulty in directly evaluating the viability of the peripheral olfactory nerves. Nasally administered thallium-201 migrates to the olfactory bulb, as has been shown in healthy volunteers. Furthermore, transection of olfactory nerve fibers in mice significantly decreases migration of nasally administered thallium-201 to the olfactory bulb. The migration of thallium-201 to the olfactory bulb is reduced in patients with impaired olfaction due to head trauma, upper respiratory tract infections, and chronic rhinosinusitis, relative to the values in healthy volunteers. Nasally administrating thallium-201 followed by single photon emission computed tomography, X-ray computed tomography and magnetic resonance imaging might be useful in choosing candidates for clinical trials of nasal drug delivery methods to the brain.