著者
三浦 一輝 石山 信雄 川尻 啓太 渥美 圭佑 長坂 有 折戸 聖 町田 善康 臼井 平 Gao Yiyang 能瀬 晴菜 根岸 淳二郎 中村 太士
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.39-48, 2019 (Released:2019-07-01)
参考文献数
38

北海道における希少淡水二枚貝カワシンジュガイ属2種(カワシンジュガイMargaritifera laevis、コガタカワシンジュガイM. togakushiensis)が同河川区間(<100 m区間内)に生息する潜在性の高い地域を広く示すために、北海道内の計31水系53河川から本属を採集し、mtDNAの16S rRNA領域におけるPCR増幅断片長を比較する手法を用いて種同定を行った。種同定結果を元に10 × 10 kmメッシュ地図に地図化した。結果、カワシンジュガイが23水系39河川、コガタカワシンジュガイが25水系40河川から確認された。全調査河川のうち、49%の17水系26河川から2種が同河川区間から確認され、各地域の全調査河川に対する確認調査河川の割合が道東地域で68%と最も高かった。また、全38調査メッシュのうち、50%の19メッシュから2種が同河川区間から確認された。地域別に見ると、各地域の全調査メッシュに対する確認調査メッシュの割合が道東地域で67%と最も高かった。本研究では、カワシンジュガイ属2種の遺伝分析を行い、本属2種が同河川区間に生息する河川およびその潜在性が高い地域を示すことができた。本結果は、今後、北海道に生息するカワシンジュガイ属の調査や保全策立案に重要な情報を提供できると考えられる。
著者
川尻 啓太 末吉 正尚 石山 信雄 太田 民久 福澤 加里部 中村 太士
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.133-148, 2020

<p>積雪寒冷地の札幌市では路面凍結防止のために,塩化ナトリウムを主成分とする凍結防止剤が大量に散布されている.散布された塩類は除雪された雪とともに,雪堆積場へと集められ,春になると融けて近隣の河川に流れ込む可能性がある.しかしながら,雪堆積場からの融雪水中の塩類の含有量や河川水質,生物への影響はほとんど明らかになっておらず,その実態把握が求められている.本研究では,まず,札幌市内の 73 箇所の雪堆積場における人為由来の塩化ナトリウム含有量の推定をおこなった.次に,2015 年 2 月から 6 月にかけて雪堆積場 7 か所とその近隣河川を対象に,雪堆積場からの融雪水の水質ならびに雪堆積場からの融雪水が流入する上流部(コントロール区)と下流部(インパクト区)における河川水の水質調査,河川に生息する底生動物と付着藻類の定量調査を 2015 年 2 月から 6 月にかけて継続的に実施した.調査の結果,融雪初期において,雪堆積場からの融雪水中の Na<sup>+ </sup>濃度と Cl<sup>- </sup>濃度が河川水の 2~9 倍と極めて高くなる傾向が見られた.さらに同時期のインパクト区における Na<sup>+ </sup>および Cl<sup>- </sup>濃度がコントロール区に比べて 1.56 ± 1.27 mg L<sup>-1</sup>,3.05 ± 2.74 mg L<sup>-1</sup>(平均値±標準偏差)上昇した.生物については底生動物の一部では雪堆積場の負の影響が認められ,トビケラ目の個体数と代表的な水生昆虫 3 目(カゲロウ目,カワゲラ目ならびにトビケラ目)の総個体数はコントロール区よりインパクト区で低い傾向が認められた.積雪寒冷地における河川生態系の保全のためには,融雪開始時期の河川水質の急激な変化を抑えることが重要であり,これにより底生動物への影響を回避することができるだろう.</p>
著者
川尻 啓太 末吉 正尚 石山 信雄 太田 民久 福澤 加里部 中村 太士
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.133-148, 2020-03-28 (Released:2020-04-25)
参考文献数
34

積雪寒冷地の札幌市では路面凍結防止のために,塩化ナトリウムを主成分とする凍結防止剤が大量に散布されている.散布された塩類は除雪された雪とともに,雪堆積場へと集められ,春になると融けて近隣の河川に流れ込む可能性がある.しかしながら,雪堆積場からの融雪水中の塩類の含有量や河川水質,生物への影響はほとんど明らかになっておらず,その実態把握が求められている.本研究では,まず,札幌市内の 73 箇所の雪堆積場における人為由来の塩化ナトリウム含有量の推定をおこなった.次に,2015 年 2 月から 6 月にかけて雪堆積場 7 か所とその近隣河川を対象に,雪堆積場からの融雪水の水質ならびに雪堆積場からの融雪水が流入する上流部(コントロール区)と下流部(インパクト区)における河川水の水質調査,河川に生息する底生動物と付着藻類の定量調査を 2015 年 2 月から 6 月にかけて継続的に実施した.調査の結果,融雪初期において,雪堆積場からの融雪水中の Na+ 濃度と Cl- 濃度が河川水の 2~9 倍と極めて高くなる傾向が見られた.さらに同時期のインパクト区における Na+ および Cl- 濃度がコントロール区に比べて 1.56 ± 1.27 mg L-1,3.05 ± 2.74 mg L-1(平均値±標準偏差)上昇した.生物については底生動物の一部では雪堆積場の負の影響が認められ,トビケラ目の個体数と代表的な水生昆虫 3 目(カゲロウ目,カワゲラ目ならびにトビケラ目)の総個体数はコントロール区よりインパクト区で低い傾向が認められた.積雪寒冷地における河川生態系の保全のためには,融雪開始時期の河川水質の急激な変化を抑えることが重要であり,これにより底生動物への影響を回避することができるだろう.
著者
川尻 啓太 森 照貴 内藤 太輔 今村 史子 徳江 義宏 中村 圭吾
出版者
応用生態工学会
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.23-32, 2023-07-31 (Released:2023-09-01)
参考文献数
56

近年,河道内の樹木が定着範囲を拡大させる「樹林化」が日本全国で生じている.治水対策として,樹木の伐採に加え高水敷を掘削する対策が実施されているが,掘削後にヤナギ類等の樹木が再び繁茂する事例が報告されている.効率的な樹木管理を実施する上で,掘削後に再び樹林化することを考慮した管理計画が求められる.しかし,どの程度の速さで再び樹林が拡がるかについての知見は乏しい.本研究では,26 箇所の掘削地を対象として,掘削後に撮影された衛星写真と空中写真から河道内における樹木の繁茂状況を判読した.そして得られた繁茂状況の年変化から,ヤナギ類を中心とした樹林の拡大速度と,河床勾配による違いについて検証した.その結果,樹林は掘削から約 5 年が経過すると拡大速度を増し,掘削から約 10 年が経過した頃には掘削した範囲の約 50 %を覆うことが明らかとなった.掘削地には,ヤナギ類の種子が多量に運ばれ,約 5 年が経過する頃には複数の個体が掘削地の一部を覆うほどに樹冠を大きくしたものと考えられる.その後も,各個体での樹冠の拡大と個体の定着範囲の拡大が続いたことで樹林面積が増加したと考えられる.さらに,河床勾配に応じて,樹林化が進行する速度が異なっていた.河床勾配が緩い区間ではより速く樹林が拡大する傾向にあり,これは流速が小さく,樹木が流亡しにくくなったためと考えられる.また,勾配が緩いことで高水敷に堆積する土砂の粒径が小さく,湿潤環境が形成されやすいために,樹木が定着・生長しやすくなったと考えられた.本研究の成果は,高水敷掘削からの経過年数に応じた樹林の繁茂状況の推定に寄与する.これにより,掘削の後にいつ樹木管理を実施するべきかの判断材料となるだろう.また,樹林化の抑制対策の効果を評価する際,対策を実施しなかった場合に想定される樹林化の速度として活用されるだろう.