著者
張 小鋼 玉田 敦子 坂本 貴志 伊東 貴之 川島 慶子 長尾 伸一 橋本 周子 逸見 竜生 隠岐 さや香 小関 武史 染谷 智幸
出版者
金城学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-04-01

本年度は18世紀の東アジアの様相を多面的な視点から検討し、その相互比較を行うことを中心とした。そのため韓国18世紀学会に所属する研究者および中国人民大学清史研究所と密接に連絡しつつ国内での研究を進めた。2019年度は二つの学会が下記の通り開催された。前期は国際18世紀学会がイギリスのエジンバラ大学で開催された。そこで、日・韓・中共同セッションの企画・実施によって、18世紀の東アジア諸国の文化、政治、科学、風俗の展開を具体的に検討し、相互比較するとともに、三か国の研究者間の交流を深めつつ、国際的な観点から研究を進めた。その結果。朝鮮王朝、清朝、江戸時代の文化、風俗、政治、学問、文芸の多様な様態と、それらの諸国の18世紀における「社交性」の展開が、それぞれの歴史的文脈の中で明らかとなった。これに参加した研究者によって三国を結ぶ研究ネットワークを構築する方向性を確立した。後期は日本18世紀学会が中部大学で開催された。国際18世紀学会での討議を踏まえて、「ユーラシア近世史」の構想を発展させるべく、西洋、イスラム圏などの思想史的研究を行って、一定の見通しをたてるとともに、今後の研究ネットワークを構築していく作業を行った。秋以後は国際学会で得た成果をもとに、代表者、分担者がそれぞれの担当分野での研究を進め、次年度の国際会議(中国あるいは日本)に向けた準備を行った。またこの過程で、主に中国での18世紀研究とのネットワーク構築が進み、北京と上海という二つの拠点を中心に、韓国、日本との交流を進めることとなった。
著者
川島 慶子
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2020-04-01

本研究の最大の「問い」あるいは動機は、日本女性初の物理学者にして戦後日本人初の頭脳流出という稀有な存在である湯浅年子が、近年までほとんど真剣な科学史研究の対象になってこなかったのは何故か、というものである。本研究の特徴は、フランスにある湯浅資料の中でも、パリのキュリー・アーカイヴが保管するジョリオ=キュリー資料の中にある湯浅資料をとりあげることである。応募者は最近使用可能になったフランス側の資料を、日本の資料と合わせて精査することで、湯浅年子を新しい視点から問い直す。
著者
川島 慶子
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011-04-28

本研究はマリー・キュリーとパリの科学アカデミーの関係について、ジェンダーの視点から分析したものである。キュリーは女性初のノーベル賞受賞者かつ、人類初の二度のノーベル賞受賞者として、科学史上の偉人である。しかしフランスでは、著名な科学者なら必ず所属する科学アカデミーの会員選挙に落選した。ノーベル物理学賞の共同受賞者である夫のピエールもベクレルも会員である。つまりマリーの落選には20世紀初頭のフランスにおけるジェンダーバイアスが影響していた。加えて、この選挙事件には民族問題と政教分離の問題も影響していた。これら三問題は現在同様絡みあい、キュリーの科学者としてのキャリアに、大きな影響を与えた。
著者
高橋 博巳 安藤 隆穂 玉田 敦子 鷲見 洋一 伊東 貴之 川島 慶子 長尾 伸一 逸見 竜生 寺田 元一 渡辺 浩 堀田 誠三 渡辺 浩
出版者
金城学院大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2014-04-01

当プロジェクトは、18世紀の公共知の東西比較を中心に、内外の研究者と共同研究を行ってきた。とくに朝鮮通信使を介しての日朝比較には、韓国の研究者と知見を共有し、当時の文芸共和国的な側面を解明することによって、これまで国ごとに分断されていた文学や思想の研究に新生面を開くことができた。これに比べると、清朝の文人や思想家とのより広範な知的交流の解明はなお道半ばと言わざるを得ず、より一層の深い解明が期待される。個別には伊東は『心身/身心と環境の哲学』、寺田・逸見らは『百科全書の時空 典拠・生成・時空』、長尾は『複数世界の思想史』において、従来の視点を大きく転換したり深化させて、新生面を開いている。
著者
川島 慶子
出版者
化学史学会
雑誌
化学史研究 (ISSN:03869512)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.36-45, 2016-03-15
著者
川島 慶子
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
化学と教育 (ISSN:03862151)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.68-71, 2015-02-20 (Released:2017-06-16)

キュリー夫人ことマリー・キュリーは「ラジウムの発見者」として有名だが,彼女が発見したのはラジウムだけではない。ポロニウムも発見しているし,トリウムの放射性を発見したのもマリーである。放射能という言葉を作り,この現象が当該元素の原子的性質であることを最初に見抜いた。それなのに,どうしてラジウムだけが有名なのだろう。そこにはマリーの生きた時代と切り離せない事情がある。ここでは,マリー・キュリーがいかにして,先の発見をなしとげたのか。特にラジウムは,一般にどのような発見だと受け止められたのかを見ていこう。
著者
川島 慶子
出版者
名古屋工業大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

一般的に18世紀の科学啓蒙といえば、その中心的課題は「科学理論そのものの普及」だけでなく「その普及により、科学的精神を公衆(ただし貧困階級はまず除外されている)にいきわたらせ、教会勢力の力を弱体化する」という二つの目標が設定されていることが多い。もちろん宗教に関しては啓蒙する個々人の宗教観の差から、単に「迷信」のみを廃し、キリスト教そのものは擁護する科学啓蒙もあれば、あらゆる宗教を廃止したい科学啓蒙まで様々である。ただ、こういった啓蒙の集積したものがいわゆるディドロとダランベールの『百科全書』となって結晶したというのは疑いのない事実である。さて、ここにジェンダーという視点を持ち込むとなにが見えてくるのか。まず発信者が男性で啓蒙の対象が女性である場合を考えると、上のような単純な図式にはならない。つまり、階級における矛盾(作者は「人類」といいつつ、その実貧困階級を無視しているといったこと)と同様、作者は中産階級の男性と女性を同列にみていないという問題の影響がでてくるからである。彼らは対象が女性の場合は、彼女たちを、より「教えられるべき存在」とみなしがちである。結果、教えるべき科学レベルは低いものへと限定される。たとえばフォントネルは女性たちに「数学」を抜いて宇宙論を説明した。実は男性読者も多数いながら、「女、子ども向き」科学は一段下のものとみなされるのである。では発信者が女性だとどうなるのか。これには作者が男性以上に、その女性の作品と実人生の両方を考慮する必要が出てくる。というのも、男性科学啓蒙家の女性に対する上記のような態度は、その社会のジェンダーの反映であり、女性たちもその束縛から完全にのがれることは困難だからである。本研究に調べた限りの女性たちにおいては、彼女たちが科学啓蒙にかかわるようになった事情はさまざまであるが、すべてのケースで当時のジェンダーのダイナミクスが彼女たちの活動と大きく関係していることがわかった。啓蒙の中身については、現代のフェミニズムと通じるような主張をする者から、男性科学啓蒙家のジェンダー観に忠実に、男女の「生得的」差異を強調する者まで幅広く存在することがわかった。ただどの場合でも、彼女たちの実人生は、当時のジェンダー規範に沿わないものであり、その主張の中身と彼女自身の行動は連動していないということも判明した。ここからも、女性が科学啓蒙の主体たることは、その思想如何にかかわらず、当時のジェンダー規範に反する行為だったのである。