著者
川崎 雅之
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨 平成24年度 宝石学会(日本)講演論文要旨
巻号頁・発行日
pp.7, 2012 (Released:2012-09-30)

地球表層には大量のシリカ鉱物、特に石英(水晶)が存在しているが、地球外物質(隕石、月、火星など)には極めて少ないことが既に知られている。実際、隕石中に含まれている鉱物は珪酸塩鉱物(かんらん石、輝石、長石)と鉄ニッケル合金が中心であり、シリカ鉱物は一部の隕石に少量報告されている程度である。 太陽系形成の初期において、惑星は高温の溶融状態にあり、その後の冷却過程で核・マントル・地殻に分化している。核には主に鉄(+ニッケル)が、マントルにはかんらん石や輝石が濃集し、地殻には玄武岩が形成された。月の地殻は斜長岩と玄武岩である。水星・金星・火星では地形と分光分析により、その地殻は玄武岩質と推定されている。一方、地球の地殻は海洋地殻と大陸地殻に分けられ、海洋地殻及び大陸地殻下部は玄武岩質であるが、大陸地殻上部は花崗岩質である。 シリカ(SiO2)はNa、Mg、Ca、Alなどと共に容易に珪酸塩鉱物を形成するので、シリカ鉱物が存在するためには、それらの元素以上に過剰なSiO2が必要である。玄武岩中のSiO2量は少なく、シリカ鉱物とは共存しない。一般的にシリカが単独で存在し得る火成岩はSiO2量の多い花崗岩である。月物質の一部に石英を含む花崗岩が確認されているが、量は少なく、他天体を含めても、水晶の存在は希である。分化によってできる地殻を構成するのは主に玄武岩ないし斜長岩であり、量的に花崗岩はできにくい。マントルのかんらん岩が部分溶融してできるマグマも玄武岩質である。他天体の地殻が花崗岩よりSiO2量の乏しい岩石で構成されていれば、そもそも水晶が存在しにくい。むしろ、地球の地殻において水晶が多い理由は大量の花崗岩が存在することにあると言える。 では、花崗岩はどのようにしてできたのか? 実験から水の存在下で玄武岩が部分溶融すると、できたマグマはSiO2量に富む安山岩~花崗岩質マグマであることがわかっている。玄武岩質の海洋地殻は中央海嶺で生成され、プレートの沈み込み帯で地球内部に入り込み、大量の水をスラブ(沈み込んだ海洋プレート)上側のマントルに放出する。その水が地殻下部を部分溶融させ、SiO2量の多い安山岩質~花崗岩質マグマを形成している。 元々、地球は金星、火星や月に比べて、水に富んだ星である。惑星の分化が進んだ時点で、海洋が存在し、プレートの動きに従い、地球内部と地表との間で水の循環が成立している。その結果、地殻下部への水の連続的な供給が安山岩~花崗岩質マグマの形成を促進し、大陸の成長につながったといえる。他の天体ではプレートの動き(プレートテクトニクス)は無かったか、あるいは限定的であったと考えられている。 地球表層の豊富な水は地殻上部でも循環し、熱水作用により、SiO2の単結晶、すなわち水晶を大量に形成した。地球が他天体(月や地球型惑星)に比較して、水が豊富であったこと、プレートテクトニクスにより水の循環が容易に行なわれたことが、地殻上部における水晶の形成につながった。 大昔、水晶を見た人々は「水晶は透明な硬い氷である」と考えた。今日、我々は水晶が氷ではなく、SiO2の結晶であることを知っている。しかし、水晶の形成過程を見れば、「水晶こそ水が作った結晶である」と言えるのである。 もちろん、これは水晶だけに当てはまるのではない。花崗岩に伴う鉱物、水から晶出した鉱物はすべて水の賜物である。2008年、アメリカのHazen et al.は鉱物進化論を唱えた(Amer. Mineral., 93, 1693;日経サイエンス2010年6月号)。地球の進化(起源、分化、大陸の形成、生命との共進化)の過程に応じて、新たな鉱物形成プロセスが生まれ、鉱物の種類が増えてきた。特に生命の発生が地球大気を酸化的にしたことの影響が大きいという。大陸の形成、生命の発生・進化に水が必須であることから、水の存在こそが鉱物の多様性を生み出した原動力と言えるだろう。水晶の普遍性はその結果の一つである。 (地球惑星科学連合2012年大会で発表)
著者
川崎 雅之 加藤 睦実 廣井 美邦 宮脇 律郎 横山 一己 重岡 昌子 鍵 裕之 砂川 一郎
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集 日本鉱物科学会 2012年年会
巻号頁・発行日
pp.61, 2012 (Released:2014-06-10)

奈良県天川村洞川(どろがわ)にある五代松(ごよまつ)鉱山(接触交代鉱床)から黄色に着色した水晶が産出し、レモン水晶と称されて標本市場に流通している。この水晶は高過飽和条件下での樹枝状成長とそれに続く低過飽和条件下での層成長という二つの過程を経ていること、樹枝状水晶が種子となり、多面体水晶の形成を規制していることから、トラピッチェ・クオーツと呼べるものである。
著者
川崎 雅之 宮島 宏
出版者
一般社団法人 日本鉱物科学会
雑誌
岩石鉱物科学 (ISSN:1345630X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.34-40, 2013 (Released:2013-03-02)
参考文献数
29

Mr. Shinmatsu Ichikawa was a prominent mineralogist, although he was an ordinary citizen and not in government service. He lived from the late Meiji Period to the early Showa Period. He taught in elementary school and teacher training school despite not having a regular university education. He was self-taught in mineralogy and foreign language, and became a pioneer in the field of crystal morphology. His contributions include observations of the etched surfaces of natural minerals and of artificial etched quartz crystals and quartz spheres. He observed the etch pits, etch hillocks, growth hillocks and striations on the surfaces of several minerals found in Japan, engraved their positions, shapes and distributions on metal plates, and discussed his observations.   He built the Ichikawa Mineral Laboratory in his house in 1918 to store his collection of minerals, rocks and fossils (more than 7000 specimens in all). His collection includes big quartz crystals twinned after Japan law from the Otome mine, twisted quartz from the Naegi region, amethyst crystals from Mt. Ametsuka and the Yusenji mine, natural etched minerals from various parts of Japan, and many minerals from the North America. The Laboratory is a historic cultural site in his hometown. Its preservation and enlightenment activities are cooperatively carried out by the local government and a neighborhood self-governing body.
著者
川崎 雅之
出版者
一般社団法人日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物科学会年会講演要旨集 日本鉱物科学会 2012年年会
巻号頁・発行日
pp.7, 2012 (Released:2014-06-10)

地球表層には大量のシリカ鉱物、特に水晶が存在しているが、地球外物質には極めて少ない。地球が他天体に比較して水が豊富であったこと、プレートテクトニクスにより水の循環が容易に行なわれたことが、地殻上部における水晶の形成に繋がった。地球の進化の過程で水の存在が鉱物の多様性を生み出した。水晶の普遍性はその結果の一つである。