著者
谷 友和 工藤 岳
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.51, pp.141, 2004

落葉樹林の林床は、上層木の葉群動態を反映して光環境が季節を通じて大きく変化する。夏緑性高茎草本植物は冷温帯林にふつうにみられ、生産性が高く、時として地上高が2m以上に達する。本研究では北海道道央域の2カ所の落葉樹林下において、6種の高茎草本(チシマアザミ、ヨブスマソウ、バイケイソウ、エゾイラクサ、ハンゴンソウ、オニシモツケ)を材料に、高茎草本が光環境の季節変動に対し、どのような生産活動を行っているのかを明らかにし、林冠下で高くなるための成長戦略について考察する。<br>サイズの異なる個体の地上部を採取し、乾燥重量を測定したところ、どの種でも同化-非同化器官重の比は高さによらず一定であり、単位重量当たりの葉を支持する茎への投資は高さに関わらず一定であると考えられた。同一個体の複数の葉で最大光合成速度(Pmax)と呼吸速度の季節変化を調べたところ、どの高さの葉でも、林冠閉鎖による光量低下に伴って、Pmaxと暗呼吸速度が低下した。個体内では上の葉から下の葉に向かってPmaxと暗呼吸速度の勾配が生じた。葉の老化による光合成低下と共に、弱光環境への光順化が起こったと考えられた。光合成速度、葉面積の季節変化と林床層の光環境の季節変化を組合せ、伸長成長が終了するまでの期間の個体ベースの日同化量を推定した。順次展葉種では、林冠閉鎖の進行途中に純同化量が最大となった。光量の低下と共に光合成と呼吸速度を低く抑え、かつ伸長成長と共に葉を蓄積し、同化面積を増やすことで個葉レベルの光合成低下を補っていたと考えられた。このような成長様式は、林床の光変動環境下で個葉レベルの同化量を維持するための戦略であると考えられた。一方、一斉展葉型のバイケイソウでは、林冠閉鎖の進行と共に純同化量は減少を続けたため、短期間に同化活動を集中させる春植物的な戦略を取っていると考えられた。
著者
工藤 岳 横須賀 邦子
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.49-62, 2012-05-30 (Released:2018-01-01)
参考文献数
23

高山生態系は地球温暖化の影響を最も受けやすい生態系であり、気候変動は高山植物群落の生物季節(フェノロジー)を変化させると予測される。北海道大雪山国立公園では、市民ボランティアによる高山植物群落の開花状況調査が長期間行われている。風衝地2カ所と雪田2カ所の計4群落で6年間に渡って記録された開花日のデータを解析し、群落構成種の開花に要する温度要求性(有効積算温度)、開花日の群落間変動、年変動を解析した。高山植物の開花は、種や個体群に特有の有効積算温度で表すことができた。風衝地群落の開花は気温の季節的推移によって規定されており、温暖気候であった2010年にはほとんどの種で開花開始日の早期化と群落レベルの開花期間の短縮が生じていた。一方で、雪田群落の開花は局所的な雪解け時期とその後の温度変化の双方で規定されていた。すなわち、気温の季節推移と雪解けパターンから植物群落の開花構造が予測できることが示された。しかし、生育期の気温と雪解け開始時期に明確な対応関係は認められず、雪田の雪解け時期は場所や年によって変動した。寒冷な夏は雪田プロット内の雪解け進行速度を緩やかにし、その結果、種間の開花重複が高くなる傾向があった。一部の種では開花に要する温度有効性に個体群間変異が認められ、開花特性の分化が起きていることが示唆された。以上の結果より、気候変動が高山植物群落のフェノロジー構造に及ぼす影響を予測するには、気温の季節推移、雪解けパターンの地域性、個体群特有の温度要求性を考慮することの重要性が示唆された。
著者
亀山 慶晃 工藤 岳
出版者
東京農業大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2007

高山生態系では雪解け時期を反映した連続的な開花現象が認められ、傾度に沿って花粉媒介者や近縁他種との関係が変化する。北海道大雪山系におけるツガザクラ属植物では、雪解け傾度に沿って雑種第一代が優占する広大な交雑帯が形成されており、雑種と親種の間で花粉媒介者を巡る競争が生じていた。親種の受粉成功は開花時期や年によって大きく変動し、繁殖成功(他殖率)に多大な影響を及ぼしていた。
著者
日浦 勉 工藤 岳 笠原 康裕 彦坂 幸毅
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2007

1、ミズナラの最大光合成速度は温暖化処理によって変化しなかったが、窒素含量は低下したため窒素利用効率は上昇した。イオン交換樹脂法によって土壌中の無機体窒素量がどのように変化したかは現3定量中である。2、葉中の窒素含量の低下と硬さの指標が上昇したため、植食性昆虫による食害は低下した。3、ミズナラの堅果生産量は枝の温暖化処理によって3〜5倍に上昇した。そのメカニズムは今のところ不明である。4、土壌中のバクテリアの量や組成は2年間の実験では変化が見られなかった。5、林床植物の総植被率は、林冠閉鎖が完了する6月中旬に最大となり、その後低い値で安定する傾向が見られた。林床に到達する光エネルギーとの対応関係が示された。夏緑性植物の地上部生育開始時期は、温暖化により早まる傾向が見られたが、その程度は種により異なっていた。一方で、秋の生育終了時期には明瞭な違いが認められなかった。すなわち、生育初期に温暖化の効果が大きいことが示された。半常緑性植物のオシダの越冬葉は、温暖区ではほとんどが冬の間に枯死していた。これは、温暖区では積雪がほとんどないため凍害による損傷が強かったためと考えられた。さらに、当年シュートの伸長は温暖区で遅くなる傾向が見られた。越冬葉の損失により、新葉生産のための養分や資源転流がなくなったことが影響していると予測される。土壌温暖化による積雪環境の変化は、冬期の越冬環境を変化させ、植物の生育にマイナスの効果をもたらす可能性が示唆された。以上の結果より、温暖化が植物にもたらす影響は、種や生活形により多様であることが示された。温暖化の影響予想には、個々の植物が有する生理特性を考慮する重要性が示された。