- 著者
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工藤 康弘
- 出版者
- 日本鉱物科学会
- 雑誌
- 日本鉱物学会年会講演要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, pp.32, 2004
地球の上部マントルの主要構成鉱物であるforsterite,Mg2SiO4は上部マントル下部でwadsleyite,Mg2SiO4,そして ringwoodite,Mg2SiO4へと相転移する.従来無水と考えられていたマントル鉱物に極微量のOHが存在する可能性を最初に指摘したのはMartin and Donnay (1972)である.深さ400km-550kmのマントル遷移層に安定領域をもつwadsleyite,Mg2SiO4については,Smyth(1987)がPaulingのbond strength sumの結果から, Siに配位していない唯一の酸素であるO1サイトがOHとして水素を取り込み得ると最初に指摘した.Inoue (1994)は3.1 wt% のH2Oを含む含水wadsleyiteの合成に成功し,結晶構造中のO1サイトが全て OHのとき,Mg2SiO4の組成について計算するとH2Oの量が 3.3 wt%となることから,含水wadsleyiteの最大含水量を3.3 wt%と推定した.これがwadsleyiteの最大含水量についての最初の推定であり,実験結果ともよく一致していることから一般に受け入れられている.一方,forsterite,Mg2SiO4とringwoodite,Mg2SiO4については, Siに配位していない酸素原子のサイトが結晶構造中に存在しないので,wadsleyiteと同じ論理は適用できず,現在までその含水量の上限を推定する方法は見出されていなかった.実験的には,forsteriteには,wadsleyite やringwooditeにくらべ僅かしかH2Oが含まれず,ringwooditeには wadsleyiteと同じか僅かに少ない量のH2Oが含まれると考えられている(Yang et al., 1993).最近の研究結果では, forsterite中にKohlstedt et al. (1996)は1500 wt ppm (0.15 wt%)のH2O,Chen et al. (2003)は 7600 wt ppm (0.76 wt%)のH2Oを報告している.RingwooditeにはKohlstedt et al. (1996)は2.7 wt%のH2O,Yusa et al. (2000) は2.8 wt%のH2Oを報告している.本研究では,Mgが2Hで置換されるとして,forsteriteとringwoodite における最大含水量についての結晶学的制約条件を考察した.Siが 4Hで置換されるモデルは,Mgを2Hで置換し,しかる後にSiを 2Mgで置換する(Siを取り出し2Mgを戻し,Hの位置を変える)とすれば同じであるから,最大含水量についての結晶学的制約条件の考察にはMgが2Hで置換されるモデルのみで十分である.本研究の結晶学的制約条件は,Mgが2Hで置換されHが配位すれば酸素原子がわずかに位置を変え歪みが生じるが,そのようなunoccupied Mg siteの歪みが三次元的にバランスをとり,かつunoccupied Mg site同士が最も接近し得る限界が最大含水量を与えるとして得た.その結果,ringwoodite における最大含水量はwadsleyiteと同じく3.3 wt%,forsteriteの最大含水量はwadsleyite の1/4の0.78 wt%という結果を得た.