著者
木村 諭史 市井 雅哉 坂井 誠
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.133-142, 2011-09-30 (Released:2019-04-06)

本研究では、質問紙調査法により、外傷体験を有する大学生191名を対象に、外傷体験想起時の対処方略の柔軟性が外傷性ストレス反応に及ぼす影響について検討した。対処方略の柔軟性の定義は加藤(2001b)に従い、"失敗した対処方略の使用を断念すること"(基準G)、"新たな対処方略を使用すること"(基準N)の二つを基準とした。分析対象者を二つの基準に従って分類した結果、G-N群は41名、G-noN群は36名、noG-N群は49名、noG-noN群は65名であった。基準G(2)×基準N(2)の2要因共分散分析を行った結果、基準G×基準Nの交互作用がみられた。単純主効果を検討した結果、新たな対処方略を使用した場合、それまで用いていた対処方略を放棄した者は放棄しなかった者に比べて回避症状得点が有意に高い一方で、新たな対処方略を使用しなかった場合、それまで用いていた対処方略を放棄した者は放棄しなかった者に比べて回避症状得点が有意に低かった。以上のことから、本研究では、対処方略の柔軟i生に富むことが外傷性ストレス反応の悪化につながる可能性が示唆された。
著者
市井 雅哉
出版者
日本バイオフィードバック学会
雑誌
バイオフィードバック研究 (ISSN:03861856)
巻号頁・発行日
vol.24, pp.38-44, 1997-12-20 (Released:2017-05-23)

阪神・淡路大震災の被災者で急性ストレス障害を呈した2名の女性に対して震災1ケ月後にEMDRを適用した.いずれも1セッションで地震への恐怖感は消失した.EMDRをPTSDやASDといったストレス障害の治療に用いることの有効性が示された.治療技法としてのEMDRの特徴として、即効性,クライエント・治療者双方に対してのストレスの少なさを指摘し,作用機序についてこれまで提唱されている仮説について紹介した.
著者
根建 金男 市井 雅哉
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.29-36, 1995 (Released:2014-07-03)
参考文献数
27

認知行動療法は、行動療法と認知的アプローチを統合するもので、そこにはさまざまなアプローチが含まれる。近年、この認知行動療法が台頭してきた。この論文では、(1) 認知行動療法について概観し、(2) この治療体系の意義と課題を、行動医学との関連から考察した。(1) に関しては、筆者らはまず認知行動療法とは何であるのかについて検討を加えた。そこでは、この体系が大きな広がりをもつことが強調された。この検討の後に、筆者らは、認知行動療法の代表的アプローチである、論理情動行動療法、認知療法、ストレス免疫訓練をとりあげ、説明した。特に、それぞれのアプローチの基本的な考え方や方法、技法に焦点を当てて述べた。(2) に関しては、認知行動療法は、有効性が高く、行動医学とめざす共通点があるために、行動医学に大いに貢献できる可能性がある、ということが示された。ただ、認知行動療法の最近の動向は、この体系がこれまで同様、これからも変化していく必要がある、ということを示唆している。「発達認知療法」が主張するような、構成主義 (コンストラクティヴィズム) や人間の成長の視点を考慮にいれて、認知行動療法について再考するのは、大いに見込みのあることにちがいない。しかし、認知行動療法を、行動療法の発展型ととらえる限りは、行動療法で用いられている科学的な方法論を認知行動療法も堅持することが必要である。このように認知行動療法を再考し、それを更に発展させていくことは容易ではないだろうが、それによって、認知行動療法は行動医学に貢献できる可能性を一層高めることができるだろう。
著者
根建 金男 市井 雅哉
出版者
The Japanese Society of Behavioral Medicine
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.29-36, 1995

認知行動療法は、行動療法と認知的アプローチを統合するもので、そこにはさまざまなアプローチが含まれる。近年、この認知行動療法が台頭してきた。この論文では、(1) 認知行動療法について概観し、(2) この治療体系の意義と課題を、行動医学との関連から考察した。<br>(1) に関しては、筆者らはまず認知行動療法とは何であるのかについて検討を加えた。そこでは、この体系が大きな広がりをもつことが強調された。この検討の後に、筆者らは、認知行動療法の代表的アプローチである、論理情動行動療法、認知療法、ストレス免疫訓練をとりあげ、説明した。特に、それぞれのアプローチの基本的な考え方や方法、技法に焦点を当てて述べた。<br>(2) に関しては、認知行動療法は、有効性が高く、行動医学とめざす共通点があるために、行動医学に大いに貢献できる可能性がある、ということが示された。<br>ただ、認知行動療法の最近の動向は、この体系がこれまで同様、これからも変化していく必要がある、ということを示唆している。「発達認知療法」が主張するような、構成主義 (コンストラクティヴィズム) や人間の成長の視点を考慮にいれて、認知行動療法について再考するのは、大いに見込みのあることにちがいない。しかし、認知行動療法を、行動療法の発展型ととらえる限りは、行動療法で用いられている科学的な方法論を認知行動療法も堅持することが必要である。<br>このように認知行動療法を再考し、それを更に発展させていくことは容易ではないだろうが、それによって、認知行動療法は行動医学に貢献できる可能性を一層高めることができるだろう。
著者
市井 雅哉
出版者
兵庫教育大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

研究I地域のボランティアによる3群で外部刺激への持続的注意を調べた。3群はPTSD群、高ストレス群、健常群である。PTSD群はPTSD症状と外傷経験ともに持っている。高ストレス群はPTSD症状はあるが、外傷経験はない。健常群はいずれもない。(1)外傷体験を経験しているPTSD群は、外部刺激へ注意を持続させる数唱課題得点が健常群および高ストレス群よりも低く、健常群と高ストレス群は数唱課題得点に差はなかった。(2)現在への注意の主観的得点がPTSD群は高ストレス群よりも低く、高ストレス群は健常群より低かった。外傷経験のみがこの違いを説明するとは言えない。研究II注意、自己没入、PTSD症状、抑うつ症状を含んだ質問紙データに重回帰分析を適用した。564名の健常成人を対象とした。結果、過覚醒症状が注意指標を説明し、注意指標が抑うつ症状を説明し、再体験(侵入)症状は抑うつ症状を説明した。研究III10名のPTSDクライエントに対して3回のEMDR治療前後で持続的注意指標を測定した。数唱得点、現在への注意得点ともに上昇した。研究IVEMDR治療によって改善した一人のPTSDクライエントにおいて、心拍数、外傷症状、注意指標の変化、関連を検討した。結果として、治療初期においては、過覚醒、侵入の改善に伴って、数唱得点の改善、外傷記憶想起時の心拍数のセッション内の低下が見られた。治療後半は回避が問題となり、心拍数との関連は見られなかった。以上から、PTSDと注意、認知指標の関連が認められ、注意、認知指標がEMDRの治療メカニズムの解明にも有効であることが示唆された。
著者
市井 雅哉
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.52, no.9, pp.819-827, 2012-09-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
12

EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)はPTSDを治療できると推奨されている実証性の高い心理療法である.EMDRは外傷記憶を処理でき,外傷記憶が関連する疾患は幅広いので,その適用範囲はPTSDにとどまらず広範囲にわたる.PTSDの診断基準はDSM-5に向け現在改訂中であるがAクライテリオンから主観性の項目が消えるようで,そこには,外傷周縁の解離がPTSDの深刻度を予測できる問題が絡んでいる.また,侵入的な症状と鈍麻性の症状の両方が含まれているのが特徴的で,幅広い症状を扱う治療法が求められているといえる.EMDRの手続きと治療モデル-適応的情報処理モデルを概略し,外傷的な記憶を出来事の肯定的な要素と結びつけることができる可能性について述べた.EMDRの適用の際には,個人がもつ外傷記憶を,生育歴全体に及んで聴取し,必要に応じて養育早期などの過去にさかのぼり処理することが大きな改善へとつながる.症例では,40代の公務員男性で,EMDRによる警察での冤罪被害記憶の処理,また養育早期の親からの虐待的記憶の処理が自殺企図や抑うつの改善につながった治療例を紹介した.
著者
市井 雅哉
出版者
琉球大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

大学学部生625名に、現在に影響を与えている過去の出来事、IES-R(改訂版出来事インパクト尺度)、治療希望有無の質問紙を実施した。有効回答は453名(男子、181;女子、264名;不明8名;平均年齢20.2(SD=1.77))で、性被害、近親者の死、交通事故、いじめ等深刻な出来事を報告していた33名をトラウマ群(治療希望は6名)、軽い出来事を報告していた420名を健常群としてt検定を行った結果、合計点と回避・麻痺の因子でトラウマ群が有意に高く、合計点25点以上(184名)でも回避・麻痺の因子でトラウマ群が有意に高かった。性被害を受け複雑性PTSDが疑われる2名のクライエントに対して、EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)を用いた治療を行い、治療中の左右の外耳道温、心拍数を継続測定した。IES-R45前後の21歳女子大学生は、幼少期に母親から暴力的なしつけ、兄から性虐待を受けた。EMDR30回でさまざまな記憶の再処理を行い、47回の治療により症状は大きく改善した。さらに、(1)右の温度が左より高い(.25〜.39℃)、(2)左右とも施行後にかけて上昇する(左:.17℃、右:.32℃)、(3)セッションの進行につれ終了時の左の温度が高い傾向がある、(4)認知の妥当性が左右の外耳道温度や心拍数と関連があることがわかった。IES-R43の35歳主婦は、阪神大震災後の不調として、子どもとの分離不安、頭痛、不眠等の症状を訴えた。治療への恐怖感が強く、17セッション目にようやく3回の性被害が語られ、性被害及び義父の実母への暴力の記憶などEMDR11セッションで治療したが、改善が見られないまま39セッションで治療中断となった。(1)右の外耳道温が左より0.25℃高い、(2)心拍数は施行前から後にかけて3拍低下し、(3)成功したセッションでは心拍数が低い(前:10.58;後:12.25の差)ことがわかった。