- 著者
-
市井 雅哉
- 出版者
- 一般社団法人 日本心身医学会
- 雑誌
- 心身医学 (ISSN:03850307)
- 巻号頁・発行日
- vol.52, no.9, pp.819-827, 2012-09-01 (Released:2017-08-01)
- 参考文献数
- 12
EMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)はPTSDを治療できると推奨されている実証性の高い心理療法である.EMDRは外傷記憶を処理でき,外傷記憶が関連する疾患は幅広いので,その適用範囲はPTSDにとどまらず広範囲にわたる.PTSDの診断基準はDSM-5に向け現在改訂中であるがAクライテリオンから主観性の項目が消えるようで,そこには,外傷周縁の解離がPTSDの深刻度を予測できる問題が絡んでいる.また,侵入的な症状と鈍麻性の症状の両方が含まれているのが特徴的で,幅広い症状を扱う治療法が求められているといえる.EMDRの手続きと治療モデル-適応的情報処理モデルを概略し,外傷的な記憶を出来事の肯定的な要素と結びつけることができる可能性について述べた.EMDRの適用の際には,個人がもつ外傷記憶を,生育歴全体に及んで聴取し,必要に応じて養育早期などの過去にさかのぼり処理することが大きな改善へとつながる.症例では,40代の公務員男性で,EMDRによる警察での冤罪被害記憶の処理,また養育早期の親からの虐待的記憶の処理が自殺企図や抑うつの改善につながった治療例を紹介した.