著者
布川 清彦 井野 秀一 関 喜一 酒向 慎司
出版者
東京国際大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究の目的は,視覚障害者の環境認知における白杖を用いて能動的に作られた音の効果を実験的に検証することである.目的を達成するために次の4つの研究を計画した.研究1:白杖によって作られる音情報(反響音の物理的効果)の分析,研究2:白杖 によって作られる音情報における人の効果検証,研究3:白杖によって作られた音情報の効果検証,研究4:総合考察.本年度は,研究1と2を実施した.研究1と2の両方で,推定する対象を硬さにした.硬さを推定する対象としては,一辺の長さが300mmの正方形で,その厚さが12mmであるゴム板を用いた.また,使用する白杖には,視覚障害者に広く用いられているアルミニウムの主体とペンシルチップ(石突き)を用いた.研究1では,人を介在させずに機械的に一定の高さから白杖の先端を自動的に落とす装置を作成した.この装置を用いて,機械的に対象を打った時の音を録音した.ゴムの硬さは,20度から10度刻みで90度までの8種類を用意した.そして,周波数分析を行うプロトコルを作成して,周波数分析を行い,硬さに対する基本的な白杖の打撃音の特性を検証した.研究2では,白杖ユーザが利用する代表的な3種類の握り方を条件として,視覚障害白杖ユーザと晴眼大学生を実験参加者として,白杖で対象となるゴム板を叩き,触覚情報と音情報の両方を利用して主観的な「硬さ感覚」と「空間の広さ感覚」をマグニチュード推定法を用いて硬さを推定する実験を行った.研究1の一部について,国内学会で発表し,そのプロシーディングを出版した.
著者
中野 泰志 大河内 直之 布川 清彦 井手口 範男 金沢 真理
出版者
日本ロービジョン学会
雑誌
日本ロービジョン学会学術総会プログラム・抄録集
巻号頁・発行日
vol.6, pp.67, 2005

<BR>目的:<BR>マンホール(manhole)とは、掃除や点検等のために、人の出入りができるように作られた穴のことである。下水道用マンホールは雨水や汚水の排除を目的として設けられるため、いったん人が中に転落すると、人命にかかわる事故となる場合がある。本研究では、視覚障害者のマンホール転落事故事例の分析を行い、原因と対策について検討を行った。<BR>方法:<BR>事故に遭遇した視覚障害者1名に対して、事故直後に面接法によるヒアリングと実地検証を、また、怪我の完治後、精神的に落ち着いた時点でヒアリング調査を実施した。実地検証は、事故当時現場にいた関係者(被害者、作業員3名、現場監督1名)と面接者、記録者の7名により、事故現場で行った。ヒアリングと実地検証の場面は、全員に了解をとった上で、VTR、ICレコーダー、デジタルカメラで記録した。また、測地にはメジャーとハンディ型レーザー距離計(Leica製DISTOclassic5)を用いた。<BR>結果・考察:<BR>ヒアリングの記録と測地データを対象として分析を行った。被害者は日常的に単独歩行を行っている30歳代の全盲男性(先天性緑内障による視覚障害で、4歳のときに網膜剥離を起こして光覚になり、11歳のときに光も失い全盲になった)で、事故は通い慣れた通勤路で起こった。白杖を利用して歩道を歩いてる最中、蓋のあいているマンホールに気づかず、左足より落ち込み、深さ約70cmのマンホールに転落し、左大腿外側擦過傷を負った。分析の結果、あけたままのマンホール(開口部)に、注意喚起を促す人員も配置せず、マンホール周囲にも囲いを設置していなかったことがわかった。これらは「マンホールふたの施工要領」で注意喚起されている事項であり、工事実施者のヒューマンエラーであることがわかった。転落事故は命にかかわる大事故につながりかねないため、今後、ヒューマンエラーが起こったときの二重三重の安全対策を同時に講じる必要がある。
著者
布川 清彦 伊福 部達 井野 秀一 中邑 賢龍 井手口 範男 大河内 直之
出版者
東京国際大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2008

全盲者の白杖利用を対象として対象認知のために必要となる感覚情報を特定し,感覚情報と機器の身体化との関係を明らかにするために,マグニチュード推定法を用いて,利き手で握った白杖を用いた場合のゴムの硬度と硬さ感覚の関係を実験的に明らかにした.これにより白杖ユーザの移動支援のために,1)触覚と聴覚というマルチモーダルな情報提供を行う道具としての白杖に関する基礎的知見と,2)それに対応する環境側のデザインを考察するための手がかりが得られた.