著者
弘中 満太郎 八瀬 順也 遠藤 信幸
出版者
浜松医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2013-04-01

昆虫が正の走光性によって人工光源に集まることは,身近な生物現象である.昆虫走光性に関しては,コンパス理論,マッハバンド理論,オープンスペース理論という3つの主要な仮説が提案されているが,いずれも多様な走光性反応を十分に説明できてはいない.本研究では,顕著な走光性反応を示す幾つかの分類群の昆虫の飛翔軌跡と到達地点を解析し,それらの昆虫が光源と背景との境界部に向かうことを示した.本研究の結果は,既存の3つの仮説とは異なり,昆虫がその正の走光性において明暗や波長,そして偏光による視覚的エッジへ誘引されていることを示唆している.
著者
弘中 満太郎 針山 孝彦
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.93-109, 2014 (Released:2014-09-25)
著者
遠藤 信幸 弘中 満太郎
出版者
九州病害虫研究会
雑誌
九州病害虫研究会報 (ISSN:03856410)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.55-61, 2017-11-28 (Released:2019-02-13)
参考文献数
16
被引用文献数
2 2

The attractiveness of incandescent lamp (54W) and mercury lamp (100W) light sources to stink bugs (Heteroptera: Pentatomidae) was compared under field conditions. Although the degree of the attractive effect differed among stink bug species, 5.6–304.6 times as many bugs were caught in the mercury lamp trap than in the incandescent lamp trap. The total photon numbers in the spectral sensitivity region for stink bugs (250–650nm) were almost the same between the two lamps; however, the mercury lamp emitted about 16 times more photons than the incandescent lamp in the ultraviolet region (250–400nm), which is highly attractive to stink bugs. When the mercury lamp was covered with a UV-absorbing filter, which blocked about 90% of the photons in the ultraviolet region, the numbers of trapped Glaucias subpunctatus (Walker), Plautia stali Scott, and Halyomorpha halys(Stål) decreased to less than 25% of those trapped using the non-filtered mercury lamp. These results indicate that the high attractiveness of the mercury lamp to some stink bug species is partly due to strong light intensity in the ultraviolet region.
著者
弘中 満太郎
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.58-67, 2008 (Released:2008-05-22)
参考文献数
65

アリ類やハチ類によって代表される中心点採餌者は, 中心点となる巣と餌場との間を移動する。移動中の個体にとって巣と餌場は目的地であり, 彼らは目的地の間接的な情報を利用することで定位を完遂するナビゲーターである。昆虫が採餌において利用するナビゲーションシステムは, トレイルフェロモンに代表される経路追随システム, 移動方向と距離をベクトル積算する経路積算システム, ランドマークを記憶する地図基盤システムの3つに大別される。それぞれのシステムにおいて, 彼らは自身が作り出すcue(手がかり)や, 彼らの外環境に存在する種々のcueを利用している。最近の研究から, 外環境のcueを用いる昆虫のナビゲーションシステムでは, 空間情報の記憶が重要な役割を果たしていることが明らかになってきた。 空間情報の獲得, 保持, 再生及び統合といった記憶の特性は, 種や利用されるシステムによって大きく異なり, これはナビゲーターが必要とする記憶の機能が異なるためと考えられる。本総説では, 昆虫の間接的な情報を用いたナビゲーションシステムの多様性を紹介し, それぞれのシステムで必要となる空間情報の記憶に関する知見を概説する。
著者
弘中 満太郎 針山 孝彦
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.93-109, 2014
被引用文献数
12

"飛んで火に入る夏の虫"という諺は,灯火の魅力に抗えずに身を滅ぼしてしまう昆虫の光に対する行動の定型性に事寄せている。この諺は,7世紀の中国で書かれた梁書の到漑伝のなかの「如飛蛾之赴火(飛蛾の火に赴くが如くして)」が由来とされており(後藤ら,1963),今から1400年前には既に,昆虫の走光性を顕著な生物現象として人々が捉えていたことがわかる。昆虫の走光性は,さまざまな芸術的表現においてモチーフともされてきた。自然科学者でもあったゲーテ(J. W. von Goethe)は,西東詩集のなかの詩文「昇天のあこがれ Selige Sehnsucht」で,「おまえはどんな距りにもさまたげられず 呪われたように飛んでゆく ついに光をもとめて蛾よおまえは 火にとびこんで身を焼いてしまう」と,蛾の走光性を詠んだ(井上,1966)。速水御舟は,炎に身を焦がす蛾を幻想的に描いた「炎舞」を残した。走光性の特徴は,昆虫の和名にも表されている。ヒトリガ科のガ類の名の由来は,江戸時代にさかのぼる。行灯の灯明を消す蛾を,火を盗みに来た虫に人々は見立て,火取蛾,火盗蛾と名付けた。テントウムシ科のコウチュウ類は,太陽に向かうような定位行動を由来として天道虫と名付けられたとされる。このように古くから人々は,昆虫の光に引き寄せられる性質を,他の動物にはない強い定型性を示す不思議な現象として興味をかき立てられてきたのである。そして現代でも,「蛾の火に赴くが如し」という言い回しが使われるほどに,昆虫の走光性は我々の身近にある。しかし,これほど身近な現象であるにもかかわらず,昆虫がいったいどのような行動メカニズムで光に集まるのか,それがどのような適応的意義をもつのか,については,実は,いまだ十分に明らかになっていない。昆虫の走光性が謎の行動であることは,あまり知られていないといえる。
著者
弘中 満太郎 針山 孝彦
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.135-145, 2009
被引用文献数
3

昆虫はその生活の中で、餌、交尾相手、巣、新たな生息場所など、様々な目標に向かって定位する。この行動を目標定位というが、なかでも視覚情報を用いるものを視覚定位と呼ぶ。視覚定位行動を引き起こすキュー(手がかり)は、昆虫の視覚器である複眼と単眼によって受容される。昆虫は周囲の環境にあるどのような視覚キューを受け取ることで、視覚定位を成り立たせているのだろうか。定位におけるキューの重要な要素の1つは、空間内における目標とキューとの位置関係である。また、視覚における色、形、光強度、偏光といった様々な感覚の質も、キューを特徴づける要素である。キューがどのような要素の集まりであるのかを分類することで、昆虫がどのようなメカニズムで視覚定位を成し遂げ、なぜそのキューを利用するのかを適応的な観点から理解することが可能になる。加えて、自然環境下で昆虫がなぜ人工光に誘引されたり人工光を忌避したりするのか、という応用的問題についても理解を進めることができるであろう。害虫の行動制御あるいは絶滅が危惧される昆虫の保全という観点から、人工光に対する昆虫の反応は近年注目を集めているが、その定位メカニズムや機能はよくわかっていない。現状は、光への誘引や忌避という現象の一部がクローズアップされているのみである。これは昆虫の光に対する定位行動がヒトのそれと異なり、また多様で複雑であることが原因なのかもしれない。本総説では、昆虫の視覚定位をキューの違いによって分類することで概観する。そしてその分類に立脚した視点から人工光への昆虫の定位反応をみることで、昆虫の視覚定位のメカニズムと機能の理解を深めたい。
著者
弘中 満太郎
出版者
浜松医科大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2008

ベニツチカメムシの採餌におけるナビゲーションには,視覚情報が用いられ,キャノピーからコンパスの参照軸としてのギャップを選択することで成し遂げられる.本種は複眼における個眼の配置から,後方に視野としての死角をもつ.この死角に位置する視空間情報の優先順位を低くすることで,ギャップに重み付けをしていることを実証し,動物の空間情報選択システムが感覚情報処理系の制約に強く影響を受けること明らかにした.