著者
針山 孝彦 堀口 弘子
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.290-293, 2010-06-10 (Released:2010-06-18)
参考文献数
7

The semi-terrestrial isopod, Ligia exotica, lives on the seashore among jetties and rocks. It shows poor resistance to desiccation and cannot live without seawater. When it is exposed to dry conditions, its body weight decreases to 90% of the initial weight within three hours. When subsequently presented with wet paper, legs VI- and VII-th of the animal are firmly apposed and stationed for a while. Since the body weight had increased after this behaviour, a pair of caudal legs seemed to play an important role to absorb water. Morphological observations of those caudal legs revealed that there is a series of thin cuticler protrusions, oriented in several parallel lines, which is developed on from 2nd to 5th podite of the VI-th preiopod and 6th podite of the VII-th pereiopod. When we immersed each leg from the tip, the water flows along those series of thin cuticler protrusions. The animal absorbs water along those surface structures of the caudal legs.
著者
弘中 満太郎 針山 孝彦
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.93-109, 2014 (Released:2014-09-25)
著者
弘中 満太郎 針山 孝彦
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.93-109, 2014
被引用文献数
12

"飛んで火に入る夏の虫"という諺は,灯火の魅力に抗えずに身を滅ぼしてしまう昆虫の光に対する行動の定型性に事寄せている。この諺は,7世紀の中国で書かれた梁書の到漑伝のなかの「如飛蛾之赴火(飛蛾の火に赴くが如くして)」が由来とされており(後藤ら,1963),今から1400年前には既に,昆虫の走光性を顕著な生物現象として人々が捉えていたことがわかる。昆虫の走光性は,さまざまな芸術的表現においてモチーフともされてきた。自然科学者でもあったゲーテ(J. W. von Goethe)は,西東詩集のなかの詩文「昇天のあこがれ Selige Sehnsucht」で,「おまえはどんな距りにもさまたげられず 呪われたように飛んでゆく ついに光をもとめて蛾よおまえは 火にとびこんで身を焼いてしまう」と,蛾の走光性を詠んだ(井上,1966)。速水御舟は,炎に身を焦がす蛾を幻想的に描いた「炎舞」を残した。走光性の特徴は,昆虫の和名にも表されている。ヒトリガ科のガ類の名の由来は,江戸時代にさかのぼる。行灯の灯明を消す蛾を,火を盗みに来た虫に人々は見立て,火取蛾,火盗蛾と名付けた。テントウムシ科のコウチュウ類は,太陽に向かうような定位行動を由来として天道虫と名付けられたとされる。このように古くから人々は,昆虫の光に引き寄せられる性質を,他の動物にはない強い定型性を示す不思議な現象として興味をかき立てられてきたのである。そして現代でも,「蛾の火に赴くが如し」という言い回しが使われるほどに,昆虫の走光性は我々の身近にある。しかし,これほど身近な現象であるにもかかわらず,昆虫がいったいどのような行動メカニズムで光に集まるのか,それがどのような適応的意義をもつのか,については,実は,いまだ十分に明らかになっていない。昆虫の走光性が謎の行動であることは,あまり知られていないといえる。
著者
針山 孝彦 高久 康春 鈴木 浩司 石井 大佑 下村 政嗣
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.201-206, 2015-04-10 (Released:2015-04-21)
参考文献数
8

Scanning electron microscopy (SEM) has become an essential tool for observing the biological materials, however, various complex procedures preclude observation of living organisms to date. Here we present a new method to observe living organisms by a SEM. We observed the active movements of animals in vacuo (10−5—10−7 Pa) by coating them with a thin polymer membrane, NanoSuit®, made by polyoxyethylene (20) sorbitan monolaurate and found that the surface fine structure of the living organism is very different from that of traditionally fixed samples. After observation of the larvae of mosquitos, despite the high vacuum, we could rear them in normal culture conditions. We also found that the NanoSuit® and self-standing biocompatible films were able to produce by plasma polymerization from various monomer solutions. Our method will be useful for numerous applications, particularly in the electron microscopic observation of life sciences.
著者
尾崎 まみこ 針山 孝彦 永田 仁史 綾部 早穂 金山 尚裕 小早川 達 大坪 庸介
出版者
奈良女子大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2018-07-18

「赤ちゃんの匂いはいい匂い」とは、経験的によくいわれてきたが、これまで科学的に証明されたことはなかった。私たちは生後、数時間から数日の20名の新生児の頭部からストレスフリーで非侵襲な方法で採集し、そのうち19名の匂いを個別に分析した。19名のうち16名の匂いは相互によく似た成分構成を示し、残りの4名の匂いは、1,2の成分の含有量が他と異なっていた。この結果から、新生児の頭部の匂いには、“標準的な”化学成分構成が存在することが示唆された。化学分析結果をもとに、含有量の上位を占める20成分を使って19名の匂いを再現する調香品をそれぞれ作成した。それらの調香品の匂いについて、20名の学生(男女10名ずつ)から、匂いに関連する50のタームへの当てはまり度を回答する心理学的感覚評価の結果を得た。この回答のスコアに対する因子分析を行うため、スクリープロットから妥当と考えられる3因子解を求めた。得られた第1、第2、第3因子は、それぞれ、「快い情動を引き起こす匂い」に関与する因子、「快い質の匂い」に関与する因子、「不快な情動を引き起こす匂い」に関与する因子であり、寄与率は順に0.32、0.13、0.11であった。ちなみに「不快な質の匂い」に関係の深い13タームはいずれも極めて低いスコアしか獲得していなかったので、あらかじめ因子分析の対象から除外した。このように、本研究から、化学―心理学的な根拠を示すことにより、「赤ちゃんの匂いは快い情動を引き起こす匂いである」ことを、世界で初めて証明することができた。最後に、学生による調香品の匂いの評価と父母などによる本物の赤ちゃんの匂いの評価を同じ感覚評価テストで比較したところ、およそ矛盾の無い結果が得られた。
著者
弘中 満太郎 針山 孝彦
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.135-145, 2009
被引用文献数
3

昆虫はその生活の中で、餌、交尾相手、巣、新たな生息場所など、様々な目標に向かって定位する。この行動を目標定位というが、なかでも視覚情報を用いるものを視覚定位と呼ぶ。視覚定位行動を引き起こすキュー(手がかり)は、昆虫の視覚器である複眼と単眼によって受容される。昆虫は周囲の環境にあるどのような視覚キューを受け取ることで、視覚定位を成り立たせているのだろうか。定位におけるキューの重要な要素の1つは、空間内における目標とキューとの位置関係である。また、視覚における色、形、光強度、偏光といった様々な感覚の質も、キューを特徴づける要素である。キューがどのような要素の集まりであるのかを分類することで、昆虫がどのようなメカニズムで視覚定位を成し遂げ、なぜそのキューを利用するのかを適応的な観点から理解することが可能になる。加えて、自然環境下で昆虫がなぜ人工光に誘引されたり人工光を忌避したりするのか、という応用的問題についても理解を進めることができるであろう。害虫の行動制御あるいは絶滅が危惧される昆虫の保全という観点から、人工光に対する昆虫の反応は近年注目を集めているが、その定位メカニズムや機能はよくわかっていない。現状は、光への誘引や忌避という現象の一部がクローズアップされているのみである。これは昆虫の光に対する定位行動がヒトのそれと異なり、また多様で複雑であることが原因なのかもしれない。本総説では、昆虫の視覚定位をキューの違いによって分類することで概観する。そしてその分類に立脚した視点から人工光への昆虫の定位反応をみることで、昆虫の視覚定位のメカニズムと機能の理解を深めたい。